斬凛黒城

 「気を取り直して、解除の方法だが」

 「あっ、忘れてた」

 「いや忘れるか?普通」


 俺の言葉に呆れながら、アルは口を開いた。


 「お前の《スキル》は、魔族領域にある城、"斬凛ざりん黒城こくじょう"に行けば解除できる」

 「斬凛ざりん黒城こくじょう?」


 【斬凛ざりん黒城こくじょう

 魔族領域に存在してる古い建物、かつて戦争のあった時代に、魔王軍が拠点にしてた場所である。


 「そこに行けば、俺の《スキル》を解除させられるのか?」

 「あぁ、だが問題は──城の中・・・だ」

 「城の中?何かあるの?」


 アルはポケットから何かを取り出し、それを俺に渡してきた。

 渡されたのは、少し大きい本だった。


 「これは?」


 俺の疑問に、アルは本のページを開いて答えた。


 「これは魔族領域のあらゆることが書かれている本で、我々はこれを"魔領まりょうブック"と呼んでいる」

 「なるほど…」


 【魔領まりょうブック】

 魔族領域に存在する国や魔物など、あらゆることが記された本である。


 「お前に読んでほしいのは、"ここだ"」


 アルはとあるページを開かせ、そこに書かれてる文を指差した。

 俺は指差されたページの文を読んだ。


 「えっと、『斬凛ざりん黒城こくじょうに住む獣、"魔獣ギレイガルラ"』、なんか強そうな名前」


 魔獣ギレイガルラとは何なのか、そんなことを考えていると、アルが口を開いた。


 「お前の《スキル》を解除するには、コイツの体内にある"ギレイえき"を取る必要がある」

 「ぎ、ギレイえき?」


 【ギレイえき

 魔獣ギレイガルラの体内に存在する液体、なお体内のどこにあるかは不明である。


 「コイツは斬凛ざりん黒城こくじょうを住みかにしてる魔獣でな、普段は大人しいが、敵対者と見なした獲物は容赦なく喰らい尽くす、とても危険な存在だ」

 「はぁ、なるほど……」

 「……はぁ」


 俺が生返事をしてしまったためか、アルはこちらを向きながらため息を吐いていた。


 「お前、真面目に聞いてるか?」

 「えっと…一応?」


 何だっけ、確か斬凛ざりん黒城こくじょうに言って、んでそこに住む魔物、魔獣ギレイガルラからギレイ液ってのを取れば良いんだっけ?


 「でも先に魔族領域に入らないとダメだよね?ここからどのくらいの距離にあるの?」


 《スキル》を解除するには斬凛ざりん黒城こくじょうに行く必要がある。

 しかしそのためには魔族領域に入らないとならない、なら場所はどこにあるんだ?

 そんなことを考えていると、アルは別のページを開かした。


 「魔族領域は、ここから訳"5000km"離れた場所にある」

 「5000km!?そんなに遠いのか……」


 あまりの遠さに、流石の俺も驚いた。


 「てか、よく5000kmも歩いて?ここまで来れたよね」

 「ん?別に歩いてきたわけじゃないぞ」

 「え?」


 アルは再びポケットを触り、白い袋を取り出した。


 「これに《スキル》の空気・・を入れて何とか走って来れた」

 「…いや、《スキル》の空気ってなに?」


 突如として謎の言葉を発したため、俺は一瞬思考が停止した。


 「われは魔族や人族が食う飯が食えなくてな、いつも《スキル》を食って生活していた」

 「え、そうなの……」


 突然のカミングアウトに、俺は困惑した。


 「てか、魔族って《スキル》使えないんじゃ?」


 アルの話では、魔族は《スキル》を使えない、その代わり魔法が使えるらしいが……。


 「それは──……」


 何かを言おうとしたが、アルは急に下を向き、そのまま黙ってしまった。

 何か事情でもあるのだろうか、アルはずっと下を向いていた。

 そんな少女に、俺は声をかけた。


 「あー…言いたくないなら言わなくて良いけど」

 「……」


 その場が静まり返る。

 もの凄く気まずい、どうするべきか考えていると、近くの扉からユリアンが脱衣所に入ってきた。


 「ハルト、話し声が聞こえてきたが、誰と話を──」

 「あっ、ユリアン」


 ユリアンの方を見ると、その場で固まっていた。

 そして次の瞬間、鞘から剣を抜き取った。


 「ハルト、隣にいるのは魔族か?」

 「え!?」


 ユリアンの表情が険しくなった。

 おそらく頭に生えたツノで判断したのだろう、アルの正体が速攻でバレた。

 別に隠してたいわけではないけど、何か不味くないか?この状況……。

 ユリアンはゆっくりとこちらに近づいている。


 「ハルト、そこをどいてくれ、魔族がここにいる以上、一人の騎士として黙っているわけにはいかない」

 「え…あっ…」


 俺が困惑してると、ユリアンはアルの目の前まで接近し、剣をアルの目の前に突き刺していた。


 「お前は何者だ。なぜ魔族がここにいる?」

 「……」


 アルは黙ったまま、ユリアンを睨んでいた。


 「答える気は無い、か……」


 そう言って剣をうえげ、今にも振り下ろそうとしている。


 (これ、マズいな…)


 アルのことはまだよく知らない、けど──黙って見過ごすわけにはいかなかった。


 「ユリアン待った!!」


 俺はアルとユリアンの間に挟まり、何とかその場を収めようと口を開いた。


 「えっと、実はこの子……魔族に憧れてる・・・・・・・。ただの"人間"らしいんだ」

 「…は?」

 「ッ」


 俺の言葉を聞いて、ユリアンは困惑していた。

 そしてアルは目を丸くして固まっていた。


 「家の近くで倒れてたのを発見してさ、見逃さなかったから家の中に入れたんだよ。ダメだった?」

 「……」


 ユリアンはこちらをジト目で見ていた。


 「…はぁ」


 ユリアンはため息を吐くと、そのまま剣を鞘に収めた。


 「今は・・、そう言うことにしておく」

 「あはは……」


 何とかユリアンを誤魔化せ──てはないけど、とりあえずは納得してもらえた。


 「一応、ヒヨリには私から伝えておく、君は──」

 「……」


 そう言って、ユリアンはアルを見ていた。

 アルは未だに黙ったままだ。


 「それじゃあ、私は失礼する」


 そう言って、ユリアンは脱衣所を出て行った。


 「さて…」


 俺は黙ったままのアルに視線を向けた。

 アルはどう言うわけか、ずっと黙ってこちらを見ていた。


 「……」


 しばらくして、アルは口を開いた。


 「なぜ庇った」

 「え…」

 「何で我を庇った・・・・・

 「……」


 "何で"と言われたら難しいけど、俺が目の前の少女を庇う理由は──。


 「だって、別に悪い人間──人間?じゃないし…」

 「……」


 アルは怪訝そうな顔で、こちらをジッと見ていた。


 「そんな理由で、われを庇ったのか?」

 「え、ダメなの?」

 「……」


 俺がきょとんとしていため、アルは黙ったまま目を丸くしていた。

 しばらくして、アルは口を開いた。


 「はぁ、馬鹿な奴だ……」

 「え?」


 アルはため息を吐いていた。

 そして扉の方に体を向けると、そのまま脱衣所の出口へと歩いていく、そんなアルを見て、思わず俺は声をかけた。


 「えっ、どこに行くの?」

 「……」


 アルは少しこちらを見ていた。


 「少し、外の空気を吸ってくるだけだ」

 「あっ、そうなんだ……」


 そしてアルは、脱衣所から出て行った。


 「ん──」


 マズいことを言ったのではないかと、少し不安になった。

 さっきの反応、明らかに俺のことをおかしな人間だと思ったに違いない、迷惑だったかな──。


 「まぁ、大事になるよりはマシか……」


 そう言って、俺は指で頬をかいた。

 しばらくしたのち、俺も脱衣所を後にした──。

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