行動原理

 色々なVtuberがいる。


 アクションゲームが得意なVtuber。

 FPSゲームが得意なVtuber。

 インディーズゲームが好きなVtuber。

 RTA配信が多いVtuber。

 歌が得意なVtuber。

 ASMR配信の多いVtuber。


 その他にも絵が得意、モノマネが得意、雑談好きなどなど。


 なんらかのジャンルでアピールしなければ、周りは見てくれない。


 今の箱に加入する前、面接で採用担当の人に何が得意かと聞かれた。


 その瞬間、躊躇した。


 答えはあったが、答えるべきなのか迷った。


 でも、得意ゲームがない以上、私は歌だと答えた。

 その時の採用担当の人は「そうですか」とどこか冷たい言葉だった。


 間違えたかなと後悔した。


 早く答えるべきだったか。それとも違う答えを出すべきだったのか。


 まあ、どちらにせよ不採用かなと諦めた。

 けれど、私は採用された。


 審査に歌唱があり、その時の私の歌に審査員が評価してくれたようだ。


 のちにその審査員に会うことがあり、その当時のことを聞くと「君にはグラデーションがあった」と言われた。


 正直、意味がわからなかった。

 グラデーション? 何? どういう表現?

 まあ、とりあえず私の歌は上手ということだろう。


  ◯


 子供の頃、何か喋るたびに馬鹿にされ、歌う時も馬鹿にされた。


 だから、国語と音楽の授業は大嫌いだった。


 その私が歌うことを好きになったのはカラオケだろう。


 さんざん馬鹿にされた私だが、機械は点数をつけて私を高く評価した。


 それが自信となり、私は歌うことに喜びを覚えた。


 私を馬鹿にした奴らより、高い点を出す。


 そして彼女らが間違いだったことを証明する。


 ただ、それで仲良くはならない。


 私は彼女らに嫌われた。いや、彼女らは私を見下していたから、初めから嫌われていたのだろつ。


 それが顕著になっただけだ。

 もう構わなかった。

 嫌いなやつは、私も嫌い。


 私はもっともっと歌って、もっともっと上手うまくなる。


 私は間違っていない。

 見返してやれ。


  ◯


 ある日、ボイトレの先生に歌っている最中に止められた。


 そのボイトレの先生は審査員をしていて私にグラデーションと言っていた人だ。


「駄目。心が揺さぶれない」


 ……は? 心? 何それ?


 わけわかんないことは言わないでよ。


 そんな私の心を汲んだのか先生は、「心にこないんだよ。ぐっとさ」と言って、胸の前で拳を握り、自身の胸を押す。


「君は何のために歌うの?」

「それは……リスナーの……皆に聞いてもらいたくて」


 間違ってはない。


「その皆にどうして?」

「そりゃあ、Vtuberですから?」

「仕事ってこと?」

「ええと、歌が好きで……聞いてもらいたくて」

「それは分かる。けど、そこじゃないでしょ?」


 ……そこじゃない。


 なら、どこだ。


「自分のために歌っているでしょ?」

「自分のため……ですか?」

「歌が上手い。それを押し付けてないかな?」


 そうかも……ううん。そうだ。

 私は自分のために歌っている。

 でも……それの何がいけない?


「今日はこれくらいしよう。君は今後、なんのために歌うのか。次のレッスンまで歌う理由について考えてくるように。これは課題だよ」


  ◯


 マンションに帰ってきた私はバッグをダイニングチェアに投げるように置く。そしてリビングの床に座り、ソファの上で腕を組み、額を乗せる。


「分かんなーい」


 独りごちる。そしてうめく。


 先生に言われた言葉が分からない。


 自分が上手く歌えるから、それを自慢するのはいけないことなのか。


 自分勝手だから? 自己中だから?

 もっと綺麗な理由じゃないといけないの?

 歌で相手の心を揺さぶるには、情熱がないといけないの?


 悩んだ。

 考えた。

 悩んだ。

 考えた。

 悩んで悩んで、そして考えた。


 けど、答えは降ってこなかった。


 分からない。


 高尚な理由を作らないといけないのか?


 サクセスストーリー風の行動原理。

 そんなものはない。

 私はただ……。

 私は……。

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