モブなのでひたすらサブクエやる事にしました~RTAプレイヤーに見捨てられた犬を助けて適当に生きてるだけなのに気付けば世界最強。一方犬を見捨てた奴はヒロインにも見捨てられてチャートが狂いまくって最弱

にこん

第1話 転移、そして犬を拾う

あー、俺はゲーム【ライトニングファンタジー】の世界に転移したんだってことには直ぐに気付いた。


俺に残っている日本での最後の記憶はこれだ。


とあるRTAイベントに参加していたのだが、目当てのゲームである【ライトニングファンタジー】を見るために席に座ったんだ。


で、走者が走り始めたタイミングで白い光がゲーム画面から放たれた。


眩しくて目を閉じた。


で次に目が覚めたとき、俺はこんなふうに異世界にいた。


ライトニングファンタジーで主人公が最初に訪れることになる小さな田舎の村に俺はいた。


ここを始まりの村と言う。


で、俺はライトニングファンタジーを一通りプレイしたから知っているんだが、俺のこの世界での扱いは完全なるモブだと思う。


ライトニングファンタジーのストーリーはこうだ。


まず、日本から主人公達が集団で異世界に召喚されることになる。


んで、主人公は右も左も分からずに異世界での生活を開始して、その過程で仲間を集めてやがて魔王を倒しに行く、という王道ストーリー。


なので俺は主人公に声をかけて仲間にしてもらおうと思うんだよ。


主人公に声をかけて仲間になることが出来ればもう勝ったも同然でしょう。

ってわけで、今から声をかけに行こうと思う。


どうやって主人公を見つけるんだって話なんだけど、このゲーム序盤に犬を助けるイベントがあるんだ。


トラバサミにかかってしまった犬を助けるイベント。


そこにいけば心優しい主人公が犬を助ける場面に遭遇出来るはずである。


助けてるタイミングで声をかけようと思う。


ってわけで、犬を助ける場所にレッツゴー。


「ここだな」


俺は物陰に隠れてトラバサミにかかった犬のことを見ていた。


ほら、主人公が声をかけるまで見つかりたくないんだよね。できれば。


もし、近くにいるのがバレた時


「なんで助けてやらなかったんだ?」って主人公に聞かれてはイメージが下がるだろうから、だ。


そのため距離を開けて犬のことを見守っていた。


しばらく待っていると。


タッタッタッと走る音が聞こえてくる。


「おっ?」


少し期待しながらそちらに目をやると


(おぉ、原作主人公が来たぞ)


えっほ、えっほって走りながらやってきてた。


(早く犬を助けろ、俺を仲間にしろ)


犬を助けろ、と期待の眼差しで原作主人公を見ていた。


原作主人公はやがて犬の前にさしかかる。

そのとき犬も声を出す。


「くぅん、くぅん」


この声が聞こえるのでプレイヤーはどうしても犬の存在に気付くのだ。


チラッ。


原作主人公は確かに犬の方を見た。


でも立ち止まることなくこう言った。


「犬を助けるのは時間のロスです。このまま無視して行きまーす。犬を助けるのは10秒のロスになりまーす」


タッタッタッ。


主人公は犬の前を走り抜けていった。


「くぅん……くぅん……」


後に残されたのは痛々しい姿の犬と、呆然としている俺。


「えっ?」


なんで、そうなるの?


「ってか、あいつ今『犬を助けるのは無駄』って言ったよな?まるでRTAをしてるみたいだ……ってか、あいつひょっとしてRTAプレイヤーか?」


うん。考えてみれば不思議では無い。

観客の俺がここにいるわけだし、RTAをしていた奴もゲーム世界に入ってくるのは不思議なことじゃない。


そして、RTA走者なら犬を助けに戻ってくることもないだろう。


(仕方ない。俺が助けよう)


俺はそう思って物陰から出た。


そして犬の方に向かうとしゃがんだ。


トラバサミに挟まれた犬の足からは血が出ている。痛そうだ。


これをスルーしてストーリーを進める主人公、うーん。なかなかのド畜生である。


「くぅん」


俺を見てくる犬。


「今解除してやるからなぁ」


俺は両手でトラバサミの両サイドを持つとぐぐぐーっと広げていく。


すると、犬が足を抜くためのスペースが出来た。


「くぅん」


ぺこり。

頭を下げながら足を抜いた犬。


「もう捕まるなよ」


俺はそう言ってトラバサミから手を離した。


ガシャン!

と音を鳴らして勢いよくトラバサミはまた閉じた。


「危ないよなぁ、これ」


俺はトラバサミを閉じたまま目立つ場所に置いておくことにした。


それから犬に目をやった。


原作ではこのままどこかに走り去っていくのだ。

この世界でもそうだろう、と思って目を向けたのだが。


「くぅん……ハッハッハッハッハ」


鼻息荒くして俺の足にしがみついてくる。


ブンブンブン。


しっぽも振っている。


「ひょっとして、懐かれた?」


おかしいな。原作ではこんなんじゃなかったのに。


まぁいいか。

犬に懐かれるのは悪くないし。


「ははは、かわいそうにな。でも俺は見捨てないから安心しろよな」


犬の体を撫でてやる。


「はっはっ」


しっぽを振っている。

かわいいヤツだ。


しかし、どうしたもんかな。


予定が狂ってしまった。

予定では主人公の金魚のフンになって楽勝異世界ライフ、と考えていたんだが。


さて、どうしたもんか。


俺はとりあえず犬の方を見ることにした。


「そういえば、この傷大丈夫なのかな?」


しゃがんで犬の足を観察してみる。


原作でも気になっていたけど。


血を流しているしこのまま放置するのも悪手だと思うんだよな。


「俺は別に急いでないし、傷の手当しよっか。放置してたらバイ菌入っちゃうかもだしな」


俺は犬を抱き抱えてそのまま移動を開始することにした。


この村には少し離れたところに【浄化の泉】と呼ばれるすごく澄んだキレイな泉がある。


そこでこの犬を傷口を洗うことにしよう。



俺はこのとき知らなかった。


この犬がこの先俺にとっての勝利の女神になることを。


そして原作主人公にとっては、チャートを乱しまくる悪魔(無自覚)になることを。

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