異世界転生はミミックと共に

タヌキング

望んだのは普通の異世転生ストーリー

僕の名前は日之影 正彦(ひのかげ まさひこ)。ゲームオタクの高校中退のエリートニートであった。

ある日、僕は車の玉突き事故に巻き込まれて死亡。17歳の人生にピリオドを打った。

しかし、そんな僕を見かねた天界の女神様が、異世界でやり直すチャンスを僕にくれた。だがその見返りとして異世界に居る魔王を倒して欲しいというのだ。

王道の異世界転生パターン来た。これあれだ、女性からモテちゃうヤツだ♪

女神から一度だけ使えるゴッドスキルと呼ばれるチートスキルを貰い、僕は意気揚々と異世界転生した。

ちなみに異世界転生する場所は選べないでランダムらしいが、大丈夫、理由は無いが僕なら何処でも上手くやるさ。



と、思ったのだが、いきなり密室に閉じ込められるのは無しだろ。

壁と天井と床が石の長方形のブロックで出来た狭い部屋。出入り口も無く、あるのは中央に置かれた黒い色をした怪しい宝箱だけである。

あれかな?この宝箱を開けて使えるアイテムをゲットして、ここを脱出できるってことですかな?


「そういうことですかーーーー‼女神様ーーーーー‼」


助言が欲しくて叫んでみたが、女神からの返答はなかった。クソッ、あの年増のババァ、異世界に人間を送ったら、あとは投げっ放しジャーマンかよ。全く恐れ入るぜ。

こうなったら勇気をもって宝箱を開けるしかない。しかし最近見たアニメの影響で、宝箱を開けるという行為が前振りにしか思えない。

いやいや、序盤から宝箱がアレってことは無いだろ?そんなの出たらゲームだったらクソげーだよ。

そう自分に言い聞かせて、恐る恐る僕は宝箱に近づいていく。そうして宝箱に両手で触れて開けようとした瞬間。宝箱は自分から開いて中から下をベロリと出した。

あぁ、やっぱりか。


「キシャァァアアアアアアアア‼」


宝箱はミミックだった。

なんて言っている場合じゃない。鋭い歯で僕に飛びついて来て、噛みつこうとしてくる。僕は咄嗟に後ろに後退して難を逃れた。どうやら移動速度は遅い様だ。


「キシャアアアアアア‼」


「はぁ、なんでこんなの一緒に密室なんだ。」


思わずため息が漏れる。足が遅いからと言って侮ってはいけない。ここは狭い密室なのだから少しの油断が命取りである。ミミックがジリジリと近づいて来るのが、僕の恐怖を増幅させる。

あっ、駄目だ。精神的プレッシャーが凄い。引きこもりニートには、この切羽詰まった状況が耐えられない。このままでは体より先に心が壊れてしまう。

そう思った僕は女神から貰った一回限りのチートスキル、ゴッドスキルを使用することにした。本当は牛のモンスター(♀)とかに使いたかったが致し方ない。


「ゴッドスキル発動‼モンスター擬人化スキル‼」


僕は右の手の平をミミックに向けてそう叫んだ。するとミミックの体が青白い光に包まれた。


「キシャアアアアアアアア⁉」


突然のことに戸惑うミミック。フッフフ、これで貴様は終わりだ。

ミミックの体は段々と変化していき、現れたのは何と・・・一人の幼女だった。

黒髪オカッパ、黒いゴスロリ衣装、黒いブーツ、全身黒の衣装の僕の腰より少し下ぐらいの身長の可愛らしい幼女がそこにはおり、赤いクリっとした目が何とも愛らしい。これは本当にミミックの擬人化なのかと疑いたくなるが、黒い宝箱をランドセルの様に背中に背負っているので多分間違いないと思う。


「うわっ⁉人になってる‼」


自分の手足を見て驚くミミック。

あっ、そういえば擬人化出来るとは聞いたけど、仲間になってくれるとは聞いてない。これはヤバいのでは?


「・・・よくも私を人の姿にしてくれたな。お礼をさせてもらう。」


赤い目で僕を睨みつけてくるミミック。あっ、これ終った。ゴッドスキル意味なかった。

足が付いたせいか素早い動きでミミックは僕に飛び掛かって来た。これにて一巻の終わりである。

と、思っていたのだが、ミミックは僕の胸にしがみ付き、顔をスリスリさせてきた。

えっ、これ何?


「ハグしてあげます。よくやりました。私はとても嬉しい♪」


あっ、良かったぁ。どうやら僕の命は助かったみたいだ。

ミミックは密室の隠し通路を知っており、彼女が壁の五つのブロックを押して行くと隠し通路が出現。どうやら順番通りにブロックを押さないと開かない仕組みになっていたらしい。ヒントも説明も無しに僕がこれに気付けたかは微妙であり、本当に助かった。


「お兄ちゃん弱そうだから外に通じる通路を開けたよ。ダンジョンの方だとお兄ちゃんが瞬殺される可能性あるから。」


「あっ、何から何まですいません。ありがたいです。」


幼女相手に敬語になる僕。それにしても、いきなりダンジョンスタートは無いだろ。僕は蜘蛛でもスライムでも無い一般人なんだからさ。

こうしてダンジョンの外に出ると、広大な草原が広がっており、空を見下れば雲一つない晴天の青空だった。まさに旅の始まりに相応しい感じだが、さっきミミックに食べられていたら見れなかった景色である。


「それでお兄ちゃん。お兄ちゃんは名前なんていうの?」


隣に居たミミックがそう聞いて来たので、僕は正直に自分の名前を答えることにした。


「日之影 正彦だよ。」


「ヒノカゲ マサヒコ?ぷっ、変な名前。」


人の名前を笑う奴はその人の両親に謝れ。まぁ、幼女だから許してあげるか。


「私の名前はね・・・私の名前は・・・あれっ?」


自分の名前を名乗ろうとして首をかしげるミミック。一体どうしたのというのだろう?


「どうしたの?」


「そういえば名前らしい名前無かった。お兄ちゃん付けて♪」


「えっ?マジで?」


モンスターに名前を付けるという作業は、前の世界のゲームで腐るほどやったが、この様に意志の有る擬人化魔物に名前を付けるのは初めてである。ここはセンスが問われるな。


「じゃあミミックだからミミちゃんで。」


「ふぅー、安易な名前。まぁ良いわそれで。」


あからさまに不機嫌そうな顔をする命名ミミ。どうやら僕に対するミミの評価が下がってしまったらしい。甚だ遺憾だ、可愛いじゃないかミミ。


「じゃあ、お兄ちゃん行こうか。恩返しでミミも付いて行ってあげる。」


「えっ?何処に?」


僕の返答にズコッと吉本新喜劇風にこけるミミ。どうやら独特の感性の持ち主らしい。


「あ、呆れた。何処にって魔王城でしょ?お兄ちゃん転生者なんだから。」


「僕が転生者なの知ってるの?」


「そりゃ私の目の前で転生してきたら嫌でも目に付くよ。大方、下級の女神にでも言いくるめられて転生して来たんでしょ?」


「よ、よくご存じで。」


下級なのか上級なのか定かでは無いが、ここまで言い当てられるとは、どうやらミミは転生に詳しいらしい。


「どうしてそんなに転生に詳しいの?」


「エヘヘ♪それはね♪」


と、ミミはそこまで言いかけると、急に先程まで晴天の青空だった空が暗くなり始め、落雷までドーンと鳴り始めた。


「きゅ、急にどうしたんだろ?異世界の天気は変わりやすいの?」


「そんなことはないよ。これは別の理由だね。どうやら魔王城まで行く手間が省けたみたい。」


ニヤリと笑うミミ。一体どういうことだろう?と僕が首をかしげていると、空からバッサバッサと翼の羽音が聞こえてきて、一人の男の人が天空から降りて来た。

男の人は金髪の長いロン毛、頭に二本の角を生やし、鼻の高い外国人顔のイケメン、服装は黒で統一されたビジュアル系バンドのボーカルの様な服、背中には大きな黒い蝙蝠の様な翼を生やしている。これはもしかすると、もしかするとですよ。

男の人は草原に降り立つと僕の方を向いてフッと笑ってから、こう話し掛けて来た。


「私の名前は魔王ベル・ターズ・オリジナール。この世界を恐怖と混沌で支配する魔王だ。転生者よ、悪いが貴様の様な存在は早々に消えてもらうぞ。」


はい出た。ボスがいきなり来ちゃうヤーツ。詰みました、はい詰みましたとも。そんなの反則じゃ無いですか。駄目ですよそんなことしたら。僕の第二の人生これにて終わりでーす。お疲れ様でしたー。打ち上げ何処にします?

僕が完全に諦めてしまった時、ミミちゃんが魔王に向かってこんなことを言い始めた。


「ベル君、私の前でよくそんなことが言えたね。」


ベル君って‼魔王相手に君付けは不味いって‼一瞬で灰にされちゃうって‼

案の定、魔王は機嫌を損ねた様で、ギロリとミミちゃんを睨め付けた。


「貴様、この私にそんな口を利くとは良い度胸じゃないか。一体何者だ?」


「うふふ♪これに見覚えないかしら♪」


クルリと回り、背中の宝箱を魔王に見せるミミちゃん。魔王は訝しげに宝箱を凝視した。


「なんだその小汚い宝箱は?見覚えなど・・・ま、まさか⁉」


急に焦り始めた魔王。多分ガスコンロの火を消し忘れたとかそういうことでは無さそうである。


「そのまさかです。アナタと同じ上位存在に作られた存在。パンドラボックスとは私のことよ♪」


「き、貴様‼何でここに⁉私が高難易度のダンジョンの奥底に封じ込めていたというのに‼それにその姿は⁉」


「問答無用‼パンドラボックス開放‼」


僕は完全に置いてけぼりを喰らってしまっている。上位存在?パンドラボックス?何それ美味しいの?

するとミミの宝箱がパカッと開き、中から紫色の煙が噴き出した。いや煙というより瘴気と呼んだ方が良いのだろうか?そのおどろおどろしい瘴気が魔王に襲い掛かる。


「ギャアァァアアアアアアアア‼」


魔王の悲鳴が聞こえると共に、魔王は瘴気に包まれ見えなくなってしまった。

しかし暫くすると魔王は瘴気から抜け出して、ズタボロの血塗れの姿で泣きながら、ヨロヨロと覚束ない感じに飛んで、遠くの空に逃げて行った。


「あれれ逃げちゃった。根性無いね魔王君。」


ミミは宝箱から尚も瘴気を垂れ流しながら残念そうにしている。

どうやら僕は助かったらしいが、おどろおどろしい瘴気を見て怖くて堪らないせいだろうか?高校生にもなって失禁してしまっている。いやどうもすいません。


「お兄ちゃん漏らしたの?もう駄目ねぇ。」


「は、はい、すいません。」


ミミのことが恐ろしくなり、ついつい敬語で話してしまう。弱者は強者にこびへつらうのがこの世のルールである。


「もう敬語はやめてよー。ちょっと待っててね。もうすぐ瘴気で終わるから。」


ミミの言う通り、暫くすると瘴気が出終わった。良かった、これ以上瘴気を見ていたら、僕の正気が失われるところだった・・・図らずとも駄洒落になってしまったことを深くお詫びしたい。


「お兄ちゃん、宝箱からホップアイテム取って。」


「ホップアイテム?」


「そう、災いの後には希望があるの。ランダムだけど、きっと良いアイテムが入ってる筈。」


「へ、へぇ、じゃあ見てみるね。」


ぶっちゃけ怖くて仕方ないが、僕は恐る恐る宝箱の中を見てみることにした。

すると中には・・・。


「さ、皿に乗った苺のショートケーキが入ってたよ。」


まさかの生物とはね。しかも何故にショートケーキ?

僕がショートケーキを宝箱から取り出すと、ミミは口から涎を垂れ流した。


「何それ?美味しそう♪」


「食べる?」


「うん、食べる♪」


幸せそうな顔でショートケーキを頬張るミミ。口にクリームやらが付いているので後で拭いてあげよう。

それにしても魔王を撤退に追い込むほどの力を持った彼女は一体何者なのだろう?

考えても全く分からないが、とりあえず僕の異世界転生は向かうところ敵なしの様なので一安心である。





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異世界転生はミミックと共に タヌキング @kibamusi

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