第二十七話:強い意思

 兵士が整列するときの音が好きだ。

 足並みがそろって、全員がビシッと背筋を伸ばす。


 初めてアントラーズ軍に入ったときは、スタミナはまだしも、こういった細かい部分が大変だった。

 書記官として働いていたこともあり、仲間と共にってことは殆どなかったが、今でもこうやって合同訓練は楽しんでいる。

 

 まあ、周囲を見るとそうではないみたいだが。


 内容は、年に一度の恒例行事のことだった。


 ――アントラーズ軍の勝ち抜き大会だ。


 これは、兵士の腕っぷしを競う大事な試合でもある。

 優勝すれば一目置かれるし、無様に敗退すれば白い目で見られる。


 去年、俺は一撃で負けた。

 当然、目立たないようにしただけだが。

 それもあって舐められているのだろう。


「今回、上位入賞者には選抜試験に進んでもらい、重要な隊を任されることになる」


 だがそこで、新しい話があった。

 敵国との戦いに備えて、着実に準備が進められている。


 俺は秘書官として向かう予定だったが、そこで、現れたのはユベラとケアルだった。


「おお、めずらしいなユベラ様とケアル様だ」

「相変わらず二人とも綺麗だ」

「……美しい」


 意外にもといっては失礼だが、兵士からの人気は高い。

 恐怖を感じるものもいるが、美貌には抗えないのだろう。


「早速ですが、試験はこれからにさせていただきます」


 今訓練を終えたばかりだ。

 兵士たちがどよめくが、そこでケアルが「何が問題か?」と威圧した。

 誰も言葉を返せない。


 ほどよく負ければいいので関係ないと思っていたが、そこでユベラと目があった。

 俺は耳がいい。


 そして――。


「エヴィアン様のお達しです。――優勝してくださいとのことです」

「――がんばれよ、ダリス」


 隣にいたケアルまでもが、俺に向かって囁いた。


 今まで俺は正体を隠していた。

 だがもちろんずっとその状態ではいられないとわかっていた。


 エヴィアンも俺に対して言っていた。

 時が来れば、お願いしますと。


「マジかよ。どんな試験だろ」

「何でもこいだ。俺はまだ動けるぜ」


 兵士たちの中に強者は大勢いる。

 その中で優勝しろということだ。


 秘書官として前線に出る事は可能だが、次の敵国との戦いでは大勢が入り乱れる。

 強者がいれば、士気にも関わるだろう。


 つまり――俺も周りから認められる必要がある。


 蛮族の王、徒労も言っていたが、この世界は強者にみな憧れを抱く。


 強ければいい、単純な話だ。


 今まで争い事は避けて通りたかったし、何もしたくなかった。


 けど今は違う。


 そろそろ、ブックマンの力を見せつけてやるときか。


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