第十八話:勝者ブックマン

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 ヴェルドスが、叫びながら――倒れていく。


「で、次の使い手は?」


 一応遺恨を残さないよう、すべての攻撃を放ってもらった。

 地団太で土を操る最大奥義は格好よかった。


 だがしかし、本のカドには勝てなかった。


 蛮族の王は面をつけているのでわからないが、かなり不服そうだ。

 俺だけ恨みかわれないよな? 大丈夫だよな?


「……ビブルドス、奴を引き裂け」

「御意」


 次は更にデカい奴が現れた。

 もうやめて、ブックマンは疲れたよ!


 と、思っていたら――。


「次は私が相手になろう」


 まさかのケアルが前に出た。

 さすがにと思ったが、エヴィアンが「よろしくお願いします」と言う。


「いいのか?」

「当たり前だ。任せておけ」


 そういえばケアルがしっかりとした相手と戦ってるのを見たことがない。

 一体どんな動きをするのだろうと思っていたが、驚いた。


「クソ! クソやろうが、ちょこまかと逃げ回りやがって!」

「そんな大振りで当たると思ってるのか?」


 完全に相手の攻撃を捌き切っている。

 まるで指導勝負。


 大人が、子供を相手にするときと同じだ。


 俺はチートをもらっただけのただのブックマン。

 だがケアルは違う。


 血と汗を流し、研鑽を積んで手に入れた立派なものだ。

 それが、とても美しかった。


 最後は手刀で首を叩いて気絶させた。


 続いては、魔女のような女性が出てきた。


 それに対し、ユベラが前に出る。


「ふふふ、いつでもいいわ」


 ユベラは全方位に魔法防御を展開した。

 蛮族の魔法使いは七種類の魔力砲を放ったが、それをすべて吸収し、相手に跳ね返す。


 受けそこなった魔力でダメージを受けると、膝をつく。


「ごめんね」


 微笑みながらスリットを見せると、蛮族たちが少しだけ「オウウ」と声を荒げたものの、蛮族の王が睨みつけた。

 そこに、エヴィアンが答える。


「私たちの勝ち、ということになるのでしょうか?」

「……次が、最後だ」


 次は誰だろうと思っていたが、まさかお蛮族の王、徒労が立ち上がる。

 そして、静かに面を取った。


 銀髪が揺れ、た鼻がスラリと高く、鋭い目つきをしている。

 その姿は美しく、思わず見惚れてしまうほどだった。


 後、たゆんたゆんたゆんたゆんも揺れた。


「よし、最後もまた俺が出よう――」

「ダリス、私が出ます」

「……何いってんだ? 相手は蛮族の王だぞ? 強いに決まってるだろ」

「わかっています。しかし、私は初めから”説得”したいといいました。それを示すには、私が行くべきなのです」


 エヴィアンが戦っている所を見たことはないが、噂によるとかなり強いらしい。

 ただそれでも向き不向きがある。魔力が特別高いわけでもない上に、毎日国の事を考えている。

 鍛える時間なんてほとんどないはずだ。

 しかし、彼女は前に出ようとする。


「おいケアル、ユベラ」

「エヴィアン様がそう決めたのなら、見守るだけですよ」

「……エヴィアン様、こちらを」


 何とあろうことか、あのケアルが剣を手渡した。


「いいのかよ、ケアル!? これは遊びじゃないんだぞ!?」

「命令には背かない。たとそれが、どんなことであろうともだ」


 ……彼女たちは俺なんかよりも長い時間を過ごしてきた。

 エヴィアンが引かない事を知っているのだ。


「ダリス、見守っていてくださいね。私、そんな弱くありませんよ」

「……ああ」


 エヴィアンは蛮族の王と対峙した。

 体躯の差は、まるで子供と大人だ。周りもざわつく。


 だが、蛮族の王は、明らかに嫌悪感を露わにした。


「……ふざけてるのか?」

「いいえ、あなたが出てきたのならば、私が出るのが筋でしょう?」

「我らの民は強者こそ正義。その意味がわかるか? 私は、力でのし上がってきたんだぞ」

「私も同じです。あなたを否定しません。私がやろうとしていることは暴力であり、あなた方の迷惑になると分かっています。それでも、成し遂げないといけないのです」

「……ふざけるなよ」


 試合が始まると、蛮族の王はすさまじい速度で駆け、大剣をエヴィアンに振り下ろした。

 驚いたのは、エヴィアンの判断力。

 受けたら剣が壊れるとわかったのだろう。斜めにして流すと、距離を詰めてカウンターを仕掛けた。


 見事な動き。しかし――蛮族の王には通じなかった。


 反転しながら攻撃を避け、後ろ蹴りをエヴィアンの腹部にお見舞いした。

 かなりの勢いで吹き飛ばされていく。

 

 俺は急いで前に出ようとした、だが、止めたのはケアルだった。


「動くな」

「お前……正気かよ。死ぬぞ!」

「……エヴィアン様は勝つ」


 だがケアルも歯を食いしばっている。

 ユベラに視線を向けるが、彼女の表情はわからない。


 蛮族の王がゆっくりとエヴィアンに歩み寄る。


「終わりだな。死んでもらおう」

「おいてめぇ! エヴィを殺したら許さねえぞ!」

「ハッ、何かいっているな」


 咄嗟に動こうとした、だが動かない。

 ユベラが、俺に魔法をかけていたのだ。


「お前、何してんだよ!」

「見届けなさい」

「……なんでだよ」


 魔法を解除しようとしたが、エヴィアンがよろよろと立ち上がる。


「この道はアントラーズに必要なんです……だから、私は死ねません」

「口だけは達者だな。――ならここからどうするんだ?」


 蛮族の王が、切っ先をエヴィアンに向ける。


「戦います」

「少しでも動けば――殺すぞ」

「それでも、私は戦い抜くと決めました。蛮族の王、蛮族の民よ。私たちには、この道が必要なのです」


 エヴィアンの首から血が流れる。

 それでも、ユベラとケアルは動かない。


 しかし俺は動いた。ユベラの魔法を解除し、ケアルを振り放った。

 そのとき――。


「ダリス!」


 エヴィアンが、俺を制止した。


 命令は絶対だ。しかし、こんな――。


「もし私が死んでも蛮族と争ってはいけません。それでは、世界統一ができませんから」


 それに対し、徒労が鼻で笑う。


「……バカだなお前は」

「ええそうです」

「お涙頂戴は結構だが、無意味に死ぬだけだ。最後に言いたいことは?」

「私はこの世界を統一し、平和にしたいと願っています。だから、諦めません――」


 最後の力を振る絞るかのように攻撃を放つ。しかしそれは蛮族の王によって弾かれた。


「……これがお前の言う、力か?」

「諦めない心が、私の力です」

「……ハッ」


 だがそこで、俺は驚くべきものをみた。

 蛮族の王が、剣を下ろしたのだ。


「我らの負けだ。道を明け渡そう。ただし、精霊の力は必ず取り戻してもらう。あとはいくばくかの食料、水、必要な物もいただくぞ」

「……良いのですか?」

「私は言った。強者が絶対正義だと。お前の意思は我よりも強い。それを――認める」


 だがそのとき、蛮族の民が叫んだ。「エドナ」「エドナ」と。


 しかし――。


「口だけの民め。ならばお前たち、そこの「ダリス」と戦ってみろ! あの動きがわからぬのか? なのにこの女は私と対峙した。それが、どれだけ凄い事か」


 突然の名指しに驚いたが、蛮族の民はまだ怒っていた。


「ダリスとやら、奴らを沈めてくれ」

「え?」

「ダリス、百人くらいです。多分、一時間くらいでしょう」


 蛮族の王とエヴィアンが、いつの間にか意見が一致していた。


「嘘ですよね?」

「ブック×100です」

「簡単に言うね」


 けどまあ、エヴィアンが戦うよりは随分と気持ちが楽だ。

 俺は、ゆっくりと前に出る。

 ブックを片手に。


「全員いっぺんでもいいぜ。俺に勝てるならな」


 俺の言葉わかったのだろう。叫び声が聞こえてくる。


 そこで、蛮族の王が叫んだ。


「我が名前は徒労とろう。ダリス、エヴィアン、ユベラ、ケアル。お前たちの強さ見届けた。だが民がまた納得しておらぬ。悪いがたのんだぞ」

「――ああ、ちょっと待ってな」


 それから長い戦いだった。


 とはいえ、ブック×100で叩き潰した。


 最後は――。


「『ゆびきりげんまん、嘘ついたらハリセンボン飲ます』めでたしめでたしだ」


 絵本を読み聞かせておいた。

 予想以上に喜んでもらった。


「……ゆびきりげんまん、泣けるじゃないか」


 徒労も、なんか満足げだった。


――――――――――――――――――――――

 あとがき。

 粘り勝ち(/・ω・)/

 

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