第八話:軍事記録

 xxxx 年 x 月 x 日

 作戦報告書。

 作成:ダリス・ホフマン一等兵エヴィアン付き秘書官。


 作戦地域: エルトニア紛争地方。

 作戦名称: 特別収容プロトコル人質奪還作戦。

 作戦指揮者:ダリス・ホフマン一等兵、今後略称略 [公式データ削除済]。

 作戦遂行者:ユベラ・フォーラ宮廷魔法使い、ケアル隊長及び魔戦特務隊、同階級秘匿。


 現地時間 xx時 xx分。

 反政府軍の支配地域への現着。

 状況を整理後、ダリス一等兵 [公式データ削除済] ユベラ 魔戦特務隊で作戦を実行。

 直後、第六小隊、およそ完全武装した120名と正面衝突。

 魔道兵器及び、非人道的な奴隷による盾を確認。


 xx時 xx分。ダリスのブックハンマー [公式データ削除済] ユベラの魔法の矢により半数が壊滅。

 敵、魔道兵器にて最上級魔法障壁を展開。

 その後、魔戦特務隊及び、ケアル隊長の手により破壊に成功。


 x時 xx分。プロトコル魔道機動部隊 通称、高速魔凶サイレントマター、六名の存在を確認、及び衝突。

 その後、ダリスによる鎮圧[公式データ削除済]。人的被害なし。


 x時 xx分

 特別収容所にて行方不明者、及び捕虜の存在を確認、奪還。

 総勢27人、軽症者4人、重傷者1人。

 作戦実行時における人的被害はゼロ。

 同日、作戦終了――。



「ふう……自分の名前があるとやっぱ書きづらいな」


 俺がまだ軍事記録を書いているのは、自分自身を削除する為だ。

 一部を除いて知られていない為、公式の書類と分けて書いている。


 にしても、今回の作戦は確かに大変だった。


 結果的に無事人質を奪還できたものの、とんでもない魔道兵器をだされた。

 まあケアルたちが凄かったが。


 にしても高速魔凶も恐ろしかった。


 空を飛んだり地面から現れたり消えたり。

 更に六つ子で顔も一緒だった。


 誰がだれだかわからない連携技には苦労したな。

 とはいえ、ブック×6回で終わったが。


「本当に字が綺麗だな」

「……ん? ケアル!? なんでここに? あ、いやケアル隊長」


 秘書室で静かに書いていたら、気づけばなぜか隣に彼女がいた。

 こうしてみるとかなりの美貌だ。


 作戦中で気づいたのだが、意外と素直な所もあるとわかった。


「二人きりの時に敬語は必要ない。私は負けたからな」

「いやでもそうはいっても……流石に」

「……敬語はなくてもいい。いや、なくせ」


 するとケアルは、なぜか強く言い放った。


「ええと……わかった。でも、後から戻せとかいわないでくれよ」

「そんなことは言わん。……私も、その方が嬉しいからな……」


 最後の言葉の後、なぜか顔を逸らした。

 ……なんだ?


「それで、なんでここに?」

「エヴィアン様に呼ばれたのだ」

「……怖いな」

「何が怖いのだ」

「いや、なんかこう、新たな作戦とか」

「可能性は高いな。我が国の前線は東へ駒を進めようとしているからな」


 この前、大規模作戦が終わったところだ。

 できればのんびりしたいなと思うのはエゴだろうか。

 

「そういえばケアルって普段休みとかなにしてるんだ?」

「……なんだと?」


 ただの質問だったのだが、どうやら気に障ったようだ。

 せっかくある程度の仲になったのにまたこじれてしまう。


「あ、いや、ただ少し気になっただけだが――」

「りょ、料理が多いな。エプロンをつけて、こうハンバーグとか作るんだ。美味しいぞ。かなり美味しいと言われるんだ。隊員たちからも好評でな」

「へえ、食べてみたいな」

「…………」


 するとなぜか今度は不敵な笑みを浮かべた。

 え、なんだ、なにがおきてるんだ!?


「ま……気が向いたらな。本当に気が向いたときな」


 多分向かないんだろうが、こういう一言が、隊長っぽいよな。


「うふふ、仲良しさんですねえ」


 驚いて後ろを向くと、完全に気配を消して本を読んでいるユベラがいた。

 何でいつも分からないんだ俺は。


「……いつのまにいたんだユベラ」

「ケアルさんのエプロンを想像する前ぐらいからいましたよ」

「……隊員には言うなよ」

「あら、どうしてですか?」


 するとケアルが、また泣き出しそうになる。

 ちなみに二人はなんと同期らしい。戦ったこともあるらしいが、ちょっとみてみたかった。


「意地悪はダメよ、ユベラ」

「うふふ、はい」


 それから少し遅れて、エヴィアンが現れた。

 不安な顔をしているのは俺だけだ。


 さて、次はどんな任務だろうか。


「さて、みんなで海へ行きますよ」

「……ん? どこの海だ?」

「フェーンですよ。知りませんか?」

「……あの観光地で有名な?」


 フェーンは、この地域でもめずらしい中立国で、海沿いにある所だ。

 綺麗な景色、ビーチ、食事、そしてもちろん本屋も。


 戦争の影響がないおかげで古い本も多くあると聞いている。

 一度行ってみたかったが、そんな余裕はないだろうと思っていた。


 すると、ケアルが訪ねる。


「どんな任務ですか?」

「任務? ああ、勘違いさせてごめんなさい。これはただの、みんなで海に入って楽しみましょうってこと」

「……え? 私たちだけでってことですか?」

「そうよケアル。これからも仲良くするんだから、そのほうがいいでしょ? 魔戦特務隊の隊員さんたちまで来ると手薄になっちゃうから、それはまた交代でってことになるけど」


 するとケアルは嬉しそうだった。

 というか、楽しむってなに!?


「うふふ、どんな水着がいいかしらねえ」


 え、ユベラすんなり!?

 俺は、慌てて尋ねる。


「ええと、その、海はいいんだが……本屋とかも?」

「もちろん、皆で行きましょう」


 すげえ! ハッピハッピハーピー!


 でも、本当か? 本当だよな?


「ケアルはどんな水着を着るの? それとも今度一緒に買いに行く?」

「……それは助かるな」

「うふふ、えっちいのにしよっか? ダリスさんが喜ぶような」

「な!? 何を言っているんだ!?」

「二人ともスタイルいいですもんね。私はどうしようかな? あ、ついでに一つだけ気になることがあって、中立国でありながら敵国に魔道兵器を流してるって噂なんですよね。それだけ間に調べていいですか?」

「承知しましたわ」

「畏まりました」


 ん、サラっととんでもないこと言わなかった? 気のせいかな?


 でもいいか。一度行きたかったところだ。


 ……ん、てかこれ、男は俺一人ってことか?

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