第六話:次回、ダリス・ホフマン――死す

 アントラーズは小国だが、軍事力に長けていると恐れられている。

 当然エヴィアンのおかげだが、それを支える部下も優秀なのだ。


 西の悪魔ことユベラは単独での行動が目立つが、軍事記録の舞台で一番活躍見せている人たちがいる。


 そんな彼女・・たちの部隊の名前は――。



「ダリスさん、今日はお肉多めに入れとくね」

「ありがとうございます!」


 一等兵に昇格、また秘書官という特別任に付いている俺だが、普段の生活は他の軍の連中と変わらない。

 飯は基本的に王城近くの別棟でとる事が多い。


 今いる食堂はとても大きな部屋だ。

 10つ以上並んでるテーブルと椅子。


 大きい鉄製のプレートにカレー肉とスープ、ウインナーに干し肉、ジャガイモと野菜を入れてもらう。

 ここの食事はいつも美味しく満足しているが、最近はよく動くので腹が減る。


 大盛も無料なので、最近はもっぱらご飯もりもりで食べている。


 いつもは目立たないただの書記官だったが、今は役職がついてしまったので、謎の男すぎるとヒソヒソされることが多い。

 後は、たまにだが変に絡まれたりもする。


 だが別に気にしない。

 悪い事をしているわけじゃないからだ。


 それでも殆どの奴らが詳しい事は聞いてこない。

 訳アリだとわかってるだろう。


 兵士も、エヴィアンが心配だからこそなのだ。


 テーブルに座ってお肉を一口。

 ホロリと溶け出しながらカレーと肉汁のうまみが溢れると、思わず頬が緩んだ。


 だがしかし、俺のテーブルに四人の女性が座り始めた。


「やあ、元気かいダリスさん」

「はい」


 彼女たちは俺たちとは違う模様が入った黒の軍服を着ている。


 この軍で、最も優秀な少数部隊だ。


 ――魔戦特務隊。


 魔法使いには女性が多い。

 生来魔力量が多いとのことだが、彼女たちはそれに加えて武術、剣術も男以上に使える。


 貴族でありながらも軍の中でもエリート中のエリート。


 他国が最も恐れるのは、彼女たちなのである。


 そしてそのリーダー、ケアルさんが、俺に話しかけてきた。

 赤髪で強そうな口調、ボンキュッボンのお姉さん。

 ほかの三人もちなみに綺麗である。


「で、今日はエヴィアン様とどんな話をしたんだ?」

「挨拶と仕事の話ですよ」


 するとケアルは、俺を睨んだ。

 彼女たちの信仰心はすさまじく、もはやエヴィアンのことを崇拝レベルに達している。


 俺みたいなブックブックしてるハエがいると不安なのだろう。


「ふうん、そりゃいいことだねえ。――羨ましいなァ!? ああ、羨ましい……羨ましいなぁ……ぐすん」

「ケアル隊長、人前ですよ!?」

「泣いちゃダメです。挨拶なら私たちもエヴィアン様とできますよ!」

「そうですよ! エヴィアン様は、男に興味なんてありません!」

「そうかな……そうだといいが……ぐすん」


 そして後から知った事だが、ケアルはめちゃくちゃ強気なのにエヴィアン様の事になると泣き虫だ。

 周りもそれを知っているが、同じ隊員以外で指摘できる奴はいない。


 以前、新兵の一人が、「何で泣いてるんですかあの人? 確か、めっちゃ強い部隊って話でしたよね」みたいな感じの影で笑ったらしく、後日そいつは丸刈りとなり、朝まで正座していたという。


 俺もわざわざ藪蛇をつつきたくはないので、できれば絡んでほしくない。


「安心してください。何もしてないんで」

「あァ! 当たり前だろうが! でも……夜におやすみなさい、とか言ったりするのか?」

「まあそれはたまに」

「な、な、な……ぐすん」

「ケアル様をよくも!」

「よくもよくも!」


 無茶苦茶すぎる。


 ただ俺もやっぱり人の子だ。

 好きな人が取られそうな気持ちになれば不安になるのはわかる。


 例え彼女たちはいくら強くても乙女。


「そういえばこの前、エヴィアン様が、ケアルさんの事褒めてましたよ」

「え、な、なんて?」

「可愛くて格好良くて、本当に頼りになる部下だって」

「それ……本当?」

「はい。でも内緒ですよ。周りには言えないけどって、いってたので」


 これは本当のことだ。


 するとケアルは、至高の顔で鼻血を出して倒れた。


「ありがとう人生……」

「ケアル様!? よくもよくも!」

「よくもよくも!」


 いやもう何しても無理やないか!

 するとその時、兵士が横に立った。


「魔戦特務隊、エヴィアン様がお呼びだ。――ダリス一等兵、君もだ」


 一緒に……?


 ご飯はまだ途中だ。

 しかし急いで向かわなければならない。


 王室に入ると、エヴィアンの前で敬礼する。

 最近はフラットに話しているが、ケアルの前で「どうした?」とかいったらぶっ殺されるだろう。


「ケアル」

「はい! どうかされましたか!」

「どうして鼻にティッシュが詰まっているの?」

「はっ!? し、失礼しました!」


 するとそのとき、エヴィアンが心配そうにケアルの頬に触れた。

 それがきっかけとなり、また鼻血が出る。


「ケアル様!?」

「ダリス、よくもよくも!」


 いや、今のは俺じゃなくね!?


 ようやく立て直した後、エヴィアンが驚くべきことを言った。


「次の任務はとても重要です。よって、ケアル及び、魔戦特務隊」

「はっ! どこへでも命令してくだされば、どんな相手でも殺しま――」

「ダリス一等兵と共にお願いします」


 するとその言葉に、いつもは従順なケアルが眉をひそめた。

 もちろん、ほかの隊員もだ。


「……今なんとおっしゃいましたか?」

「これはまだ秘匿ですが、ダリス一等兵の戦闘能力は非常に高く、あなた達の力となります。今回の任務の危険度を減らす為です」


 俺も初耳だ。

 だが今最近は割と暇をもらい、本ばかり読ませてもらっていた。


 任務に問題はない。


 ……俺はだが。


「……発言よろしいでしょうか」

「珍しいですね。どうしましたか?」

「私たちは多くの死地を隊員と共に乗り越えてきました。なのになぜ、一等兵である彼と同じなのでしょうか」

「信頼しているからです。曲がりなりにも私は、あなた達を失いたくありません。その為ですよ」


 だがその言葉は、火に油みたいなものだ。


 ケアルは納得していない。当たり前だろう。

 また、それに気づかないエヴィアンではないと思うのだが――。


「もちろんわかっています。だから今から、それを納得してもらいたいです」


 納得?

 ん?


 なんか嫌な予感がするブック。


「ダリス一等兵」

「はい!」

「ケアル、今から少し戦ってもらえますか?」

「……はい?」

 

 え? 俺が? あの、悪魔の軍団と恐れられた魔戦特務隊のケアルと?


「それはいくら何でも……僕はただの一等兵で――」

「ケアル、あなたがダリスを倒せば、彼には大人しくしてもらいますよ」

「……わかりました。――全力で相手させてもらいます」


 するとケアルが、恐ろしいほどの殺気を漲らせた。


 え?


 業火の如く燃え上がるケアル。


 消し炭にされそうな殺気。



 次回、ダリス・ホフマン――死す!?



 

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