第37話 びっくぼいす!

「うわーーーーーっ!!!!!凄いです!!!!!!」


うるさっ。


俺の家を訪ねてきたのは、工学部の生徒達。


工学部実用整備派部長の遠藤ヤリスを中心に、何人もの女子生徒が部屋に来たのだ。


大体俺も分かってきたのだが、この学園都市は頭がおかしければおかしいほど有能である傾向が強い。どうなってんだか知らんがそうなんだから仕方ないよね。


……で、思ったんだが、俺の家を家探ししているのは、ヤリスだけじゃなくないかこれは?


人の武器庫を勝手に漁り奇声を発している女と、人の書庫を勝手に漁り奇声を発している女の二匹がいるようだ。


監視カメラに写っている。


「ホギャー!!!!こ、こここ、これはっ?!天皇陛下が士官学校の首席卒業者にのみ贈るという、恩賜の高周波ブレード軍刀?!?!?!!?!こんなすんばらしいものは、写真ですら中々見ないのに!!!!あー凄い!凄い!イイッ!……イクッ!」


白目を剥いて絶頂しているイカれ女。


薄いブルーの髪色をしたベリーショートに、時代遅れなフリッツヘルムを被った、変なの。


スタイルは細身で身長はそれなり。


インプラントは、左腕そのものを切り離し可能なプラグユニットにしているようだ。


あのプラグユニットは、軍用サイボーグによく見られる特徴だな。普段の腕を自分で外して、ガトリングアームなどの戦闘用武器腕に即座に換装する為のコネクタ化処理だ。


「ホギャー!!!!こ、こここ、これはっ?!二百年前の超有名作家トルルキンの『指輪伝説』の初版?!!?!?!!軽く五千万クレジットは超える超稀覯本んんん!!!!あへあ〜、古い本の香りぃ〜……」


アヘ顔を晒して絶頂しているイカれ女。


グレーの髪を無造作に伸ばしっぱなしにして、丸い瓶底眼鏡型の古いサイバーグラスをかけるチビ女。


ガリガリに痩せており、風呂に入ってなさそうな感じがしている。


戦闘用の機能は殆どない、精密作業用の小型アームを手首に収納した、作業用サイボーグだな。


んー……、いやぁ……、キモいなあ……。




まあ、なんかキモいのがいるのは放置の方向で。


俺は、ちゃんと正門から入ってきてチャイムを押し、更に挨拶して手土産の菓子折りを渡してきたヤリスを可愛がってやることとする。


……こいつ、ただ声がクソデカなだけで、内面はかなりまともだからな。


常軌を逸した情熱はあるが、この歳で菓子折り持って人の家に訪ねるとか、あまりにも良い子過ぎるだろ。


いや、他みんなマジキチばかりだから、普通に礼儀正しくされると相対的にまともに見えてしまうと言うか……。


その辺は良いや。


とにかく、車庫に案内する。


「これはっ?!!!!まさか!!!ガソリン駆動車ですか?!!!!」


「そうだ。むかーしあった、ルクサスって会社のRFRって車だ。今じゃ骨董品だよ」


「ルクサスですか!!!現在の最大手の!!!リクエン・ホイールワークスの前身の一つですよね?!!!!」


「そうだな。エンジンも見るか?」


「是非に!!!!!!!」


そう言って、家の中から聞こえてくるオホ声をスルーしつつ、ヤリスといちゃついた……。




ヤリスは、俺の家にある車両コレクションをバラして撮影し満足すると、満面の笑みで俺に礼を言ってきた。


「もういい時間だな、飯でも食いに行くか?奢るぞ」


「えっ?!!!!そんな!!悪いですよ!!!!」


「まあまあ、ヤリスは可愛いし良い子だからな。デートしようデート」


「うわーーーーーっ!!!!可愛いなんて!!!言われたの!!!初めてです!!!!照れちゃいますよーーーーーっ!!!!!!!」


声デケェ……。


とりあえず俺は、ヤリスの肩を抱いたまま、飲食店に向かった……。


「ヤリスは良い子だな。短髪にして衛生的な姿をしているのは、整備士としてばっちりだぞ」


「いえいえ!!!当たり前のことです!!!!」


「それに、こうやってプライベートで会う時は、ちゃんとお洒落して来るのもすごく良いぞ。大人っぽくて素敵だ」


「ありがとうございます!!!!!」


ヤリスは、このように露骨に口説いても怒らないな。


うーん、なんなんだろうか?


「お前さ、知らん男にこんなにベタベタ触られて嫌じゃないのか?」


「え?!!特にはそう思いません!!!私!男の人と会うの!初めてなので!!!」


あっ、そうか。


「試験管ベイビーか」


「はいっ!!!戸籍上!私には!父親は存在しません!!!!」


なるほどね。


まあ今時、自分の子宮で子供を育てて産むのなんて物好きしかいないからな。


遺伝子データを国に提供して、それを引き出して好みの他のデータと組み合わせて、試験管で子供を作るのが今の時代だ。


セックスなんて、単なる娯楽扱い……。


そしてこの学園都市なんて、男に会うことはまずないからな。


会ったとしても、今の世の中の大半の男は、顔面をサイバーウェアで固めてロボットみたいになっているのが普通。


生の顔を持っている俺には、無条件で好意的って訳ね……。


「不快には感じない?」


「はい!!!!私は!!スキンシップは好きですよ!!!!」


「手つきがいやらしくても?」


「特には気にしません!!!!痛くされないなら!私は怒りません!!!!!!」


そんなもんなのか。


「んじゃ、今晩抱かせてくれって言ったら?」


「優しくしてくれるならOKです!!!!!」


ふーん。


「貞操観念とか、どうなってるん?」


「ありますよ?!!!!でも!!このままじゃ!一生独り身コースなので!!!!思い出がほしいと思います!!!!!!」


あー……。


電脳化か。


電脳化した我々サイボーグは、電脳ネットワークのVR世界でありとあらゆる快楽を得られる。


子孫を残すにも生まれた時に政府に渡した自分の遺伝子情報から試験管ベイビーをデザインできる。


だから、生の肉体でセックスをわざわざする必要がないんだとか。


「私も!!!!大きな声では言いにくいのですが!!!!生理的欲求を満たす為のAVRG(アダルトVRゲーム)くらいはやっています!!!!!!」


いやクソデカボイスで言ってるじゃん。


……まあいいや。


とにかく、こうやってVRの世界でいくらでも気持ちよくなれるから、現実世界でのセックスの価値はあんまりないんだよ。


そもそも、サイボーグはみんな、子宮や精巣も付けてないし、ヤッても子供はできないしな。


「私は!!!先生のことが好きですし!!抱かれてみたいです!!!!!生の肉体での性行為は!!!!貴重な経験です!!!!!」


まあ、うん。


そうね。


「んじゃ、今晩は楽しもうか」


「はいっ!!!!!」


俺は、ヤリスとちょっとお高い店で食事を済ませた後、俺の家で行為に及んだ……。

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