第10話 バックアレイ・ランナー

「……で、ご質問は?」


「「「「はいっ!」」」」


数百人が手を挙げた。


うむ、こりゃ捌けんな。


「よーし、一旦手ェ下げろー」


「「「「はい」」」」


んー、となると、こうか。


「最初の授業だ」


俺は、手を叩いて言った。


「この中で、一番立場が高い奴は誰だ?」


「はい!一応、アタシがアイリス学園の生徒会長です!」


そう言って手を挙げたのは……、おお。


今時あり得ないくらいの芋だ。


黒髪、ほぼノーメイクの、お下げの前髪ぱっつん。


顔つきも、可愛いが平凡な感じで、強いて言えばぱっちり二重の瞳が特徴か?


素朴な感じの、良い子そうな、芋い子だ。


「んじゃ、生徒会長は、これから十分でここにいる生徒から質問を集めて、重要そうなものをピックアップしろ」


「え?!」


「はい、開始」


「いや、その」


「んー?人を使う訓練と……、他の奴らは、人に使われる訓練だぞー?遅れると無差別におっぱい揉みまくるからなー」


「それは大変ですね!分かりました!」


さて、芋い子はどうやってこの人数をまとめるのかなーっと。


自己主張とかできなそうな見た目だけど、どうなん?


「「「「生徒会長ー!¥$€♪☆○*°%@!!!!」」」」


案の定、生徒会長を取り囲んで、一斉に生徒達が勝手なことを言い始めた。


最高に面白い授業だろうし、俺に聞きたいことはいっぱいあるもんなあ。


興奮状態の生徒をどうやって宥める?


それと、生徒達はいつ落ち着ける?


芋い生徒会長は、暴走する生徒達に……。


「うぅるっせぇぞ馬鹿共があっ!!!!!!」


と、クソデカい声で怒鳴りつけた。


うっそぉ、そういうことするんだこの芋い子!


見た目と違って結構性格荒いんだね!可愛いね!


しかもこの大声……、喉に音響機器をインプラントしてるな?


そしてこの出力!恐らくは軍用モデルの音響兵器だ。


裂帛!凄まじい大声での威嚇で、周囲の生徒達は怯んだ。


その隙に、生徒会長は生徒達に声をかける。


「まず、質問をカテゴライズしようぜ。アタシの勝手な考えでアレかもしれんが、とにかく、三つに大別できるはずだと思うんだ」


「「「「三つ?」」」」


「そ、三つ。『授業内容について』と『評価基準について』だな。それと……」


「「「「それと?」」」」


「『イケメン先生の個人情報』!!!!」


「「「「おおおおおっ!!!!」」」」


わあ、テンション高ーい。


学生って良いなあ。


「まず、真面目に授業を受けて、学園長推薦を狙う奴らは、『授業内容が具体的に何なのか?』と、『学園長推薦を貰える評価基準は何なのか?』が気になってる訳だ」


「そうよ!学園長推薦……!例え三種でも、『成績上位優秀者』並に箔が付くわ!もしも一種が貰えれば、どんなメガコーポにも幹部待遇で受け入れられるという、あの学園長推薦!欲しくない子はいないわ!」


そう叫ぶのは、俺を案内してくれた赤ツインテのツンデレちゃん、ナナオだ。


ナナオはどうやら、真面目に授業を受けるつもりのようだな。


「ああ、そうだ。だから、真面目に授業を受けたい奴らは、ちゃんとした授業の内容と評価基準、開催日時と場所を聞かなきゃならない。で……」


「で?」


「アタシみたいな、ぶっちゃけ授業は二の次で、イケメン教師とエッチなアバンチュールがしたい生徒は!後五分で全力でローカルネットに質問を書き込めェイ!!!アタシが情報処理するゥッ!!!」


「「「「うおおおおっ!!!!」」」」


わあ、元気いっぱい。




「そんな訳で、質問をまとめました!」


「ジャスト十分。全員、加点対象だな」


俺は、瞳の発光パターン通信で、生徒会長からデータを受け取る。


そしてそれを確認すると、履修登録した生徒のオープンチャンネルに通信ポートを繋げて、ホログラムで目の前に『+1点!』と表示してやった。


同時に、質問内容テキストをダウンロードする……。


……ふむ、なるほど。


「では、答えていこうか。まず、授業内容だが、『トラブルシューター学』の名の通り、『バックアレイ・ランナー』としての仕事に役立つ技術を学んでもらう」


「「「「ええっ?!!!」」」」


ん、ああ。


そりゃ驚くか。


「あの〜、先生?裏路地歩き(バックアレイ・ランナー)って、恐喝、強奪、暗殺に傭兵家業なんかをやる、非合法な非正規雇用者ですよね?」


そうなるな。


ランナーってのはそういうもんだな。


……一般的には。


「そう思うだろ?だがな、ランナーの中に軍属の者がいるってのは知らないか?」


「ま、まさか……、日本陸軍の特殊部隊『ニンジャ・エージェント』のこと、ですか?でもあれはダークウェブの与太話とか噂で……」


そう言って笑う生徒会長。


ああ、そうだな。


「その通りだ。表向きにはそういうことになっているな」


「……もしかして、マジ、なんですか?」


「日本陸軍、特殊作戦部隊第三番。部隊名は『雨夜の月』……。隠密行動、破壊工作のプロフェッショナルだ。あそこは特殊な黒装束と面頬が正規装備でな、あの部隊を見た米兵の奴らがニンジャ部隊だと騒ぎ立てたから〜……」


「あーあーあー!聞きたくないでーーーす!!!軍の機密とか漏らさないでーーー!!!」


「おっと、いかんいかん。とにかく俺が言いたいのはこうだ。……『ランナーの仕事ってのは、本質的に言えば軍の特殊部隊と同じってことになる』って話だな」


うんうん、そう言いたかったんだ俺は。


「普通のランナーは、フィクサーという街の顔役のような奴らから仕事を回されるが……、新入りはクソみたいな汚れ仕事ばかり。下手に活躍したり、逆にしくじれば、殺し屋に追われる身に転落……。そりゃ、嫌だよな?」


頷く生徒達。


「だが、軍公認のランナーとなれば、軍の特殊部隊か、それの下部組織扱いになる。信用は段違いだ。少なくとも日本軍から仕事を貰えば、下らん死体処理や暗殺に窃盗はやらんで済む。ま、仕事は護衛や警備、調査に潜入とかになるだろうから、命の危険はあるがな」


「でも……、ランナーはかなり……」


「そうだな……、危険は大きい。だが稼げるぞ。休みも多いしな。メガコーポで働くよりも楽しめるケースだって多い。要領が良けりゃ、将来的にはフィクサーにもなれるかもな」


「フィクサーになれば、宇宙旅行とかできますか?!」


「できるんじゃないの?俺の知り合いのフィクサーも、毎年年末は宇宙で過ごすって言ってたし」


欧州しばらく活動していた時の話だな。


「まあ、簡単に言っちまえば、この授業の目的は『特殊部隊の養成』となる訳だ。では次に、具体的な授業内容について話していくぞ」

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