第8話 エリート少女

「ダーク・レイヴンを知っているか?」


いや俺なんだが……。


「言葉を返すが、どこでその名を聞いた?」


「情報の出所は話せんな。だが、確かな情報だ。あの戦場には確かにいたんだ……、『全てを焼き尽くす黒い鳥』が……」


ふむ……。


「仮に、そいつと会えたらどうするんだ?」


褐色女は目を閉じる。


そして、少し、過去に想いを馳せて、言った。


「礼が、言いたいんだ」


と。


「欧州戦争の最前線で、昼は戦争で、夜は兵士達の慰み者として『消費』されてきた、私達移民傭兵を救ってくれたその人に……、どうしても、礼が言いたい」


ふむふむ。


「貴方のお陰で、私達は幸せになれたんだと、伝えたいんだ……」


なるほどー。


感動的だな、だが無意味だ。


「そりゃいいな、泣かせるぜ。……だが、これは善意で言うんだがな。その名前については忘れた方がいい。下手すりゃ、『消される』ぞ?」


「……理解している。『ダーク・レイヴン』のコードネームを知るだけで、相当危ない橋を渡たらされたからな」


「へえ?その割には簡単に口にするなあ。俺が軍の出なのは分かるだろうに、消されるとは思わんのか?」


「ハ、それは無いな。『ダーク・レイヴン』を知ると言うことは、貴方は極めて高い立場にある。そうだろう?……軍の下っ端殺し屋なら、『ダーク・レイヴン』などと言う言葉は知らないし、そもそも奴らは会話も忠告もなく即座に殺しにかかってくる」


ふぅん?


頭も回る、か。


……ふぅ。


だが、腹芸は面倒だ。


とりあえず、これだけは言っておいてやろう。


「そうだな、お察しの通り、俺はそこそこに立場がある。だから言っておくが、『ダーク・レイヴン』について探るのは本当にやめておいた方がいい」


「しかし」


「……幸せになれたんだろう?その幸せを捨てるような真似はするなよ」


「……理解した」


してねーなこれ。


後で個人的に探るつもりだ。


ま、ええわ。


好きにすりゃあいい。


どうせ、調べられてもコードネームまでだ。


軍のセキュリティを破るなんて民間人には無理だろうし、心配不要だな。


……いや、どうだろうか。


今の日本の情報セキュリティ担当は『アイツ』だからな……。


まあいいや、そん時はそん時だ。




で、名前を聞いた。


犬耳ピンクロリは、武市カルイ。


褐色メカクレ大女は、板垣ミコシ。


そしてこの赤髪ツインテツンデレの坂本ナナオ……。


この三人はよくつるむグループとのこと。


ナナオは、この学校の風紀委員で、階級にしてキャプテンⅢのエリートらしい。


具体的に?


うーん……、聞いた感じだと、持っている権限と金は本土の警察官の警部くらいかね?


そのナナオを中心に、ルテナンⅡ(キャプテンの一つ下)の資格を持つカルイとミコシが、普段から治安維持活動をしているそうだ。


三人の女に連れられて、しばらく学校を巡る……。


……大体の雰囲気は掴めた。


俺の知る「学校」と同じだと考えない方が良いなこれは。


どちらかと言えば、こう、「職業訓練所」とか「大学」みたいな意味合いが強い。


前も言ったが、「学歴」=「資格」みたいなもの。


俺が思っている「高校生」のイメージとは色々と違う。


クラス、みたいな繋がりもなく、受ける講義を選んで生徒がそれぞれ教室移動する方式はまさに大学そのものだ。


そして、講義の内容は、学園都市での仕事にも関わってくるものらしい。


「私?私が今まで得た『学歴』は……」


例えば、ナナオの学歴。


十七歳の高校二年生で、『電子制御火器管制・応用』『捕縛格闘術・発展』『科学捜査・発展』などを取っているらしい。


これは凄いことらしく、俺でも分かりやすい形にまとめると、昔で言う「国家公務員一種」と「剣道五段」くらいの資格を持っている扱いになるらしい。


そりゃまあ、確かに、「エリート」を自称したくもなるわな。


「そうよ!私はエリートなの!」


「そうだなあ、偉いなー」


撫で撫で。


「こ、子供扱いしないでよねっ!」


あらかわいい。




そんな感じでイチャイチャしていると……。


電脳通信で、学園長からメールが届いていた。


開く。


《今後の授業について》

《学園長の徳川じゃ。

新任教師、瓜中バンジよ。お主が開講する授業は、基本的に『トラブルシューター学』として扱うぞい。

それ以外にも、やりたければ『射撃学総論』『格闘術総論』など、以下リストにあるものなら好きに開講して良い。

また、『トラブルシューター学』の履修者には、『学園長推薦三種』を最低でも付与するのじゃ。

ああ、それと、今日の13:00からアイリス学園の大講義場で最初の講義を頼むぞい》


ほー……?


「何か、十三時から俺の講義があるらしいぞ」


「「「知らなかったの?!!?!!?!」」」


知らなかったなあ……。


「私、学園長推薦が貰える授業だからって、かなり楽しみにしてたんだけど?!!」


あ、そうなんだ。


だから、俺のことを学校の受付で出待ちしてたんだな。


「でもあいつ、今メール寄越して来たんだぞ?」


あ、またメール。


《追記》

《メール遅れてごめんちゃい♡》


なるほど。


返信。


《無題》

《死ぬか?》


っと……。


お、即メールが帰ってきた。


《誠に申し訳ございません》

《ちょっと待ってください。流石に冗談です、すみません。

こちらの方での書類処理が遅れておりまして、連絡が遅れたことを謝罪します。

本当に忘れていた訳ではなく、単に、書類の承認を得る為のプロセスが長く、時間がかかっていたのです。》


ガチじゃん。


笑える。

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