第4話 ガクエン見物

「そんな訳で!ワシ、学園長の徳川テンショウは!この学園に赴任してきた新たな教師を歓迎するのじゃ〜!」


「何だそのキャラ」


「……のじゃロリ学園長とか萌えませんか?」


「んん、まあ、可愛いとは思うぞ」


ヴィクセンの演技力からして、無理にキャラを作っている違和感はないからな。


「……で、お主はどうしてこの学園都市に?」


「ああ、元帥殿に左遷先を選べと言われたから、適当に『可愛い女子高生といちゃつきたい』っつったらここに」


「あー……」


ヴィクセン、いや、学園長と呼ぶべきか。


学園長は、死んだ目をしながらこう言った。


「あのクソ垂れ坊主、この私に先輩を丸投げしてきたってこと……?は、ははは、いつか潰すわ……!!!」


……聞かなかったことにしよう。


「あー、で、一応表向きには、学園都市の治安維持手伝いと『光芒』がネットに残した『負の遺産』を回収することが任務になってる。その為には、生徒含む一般人の殺傷の許可も出ているぞ」


「んん……、まあ、それはのう。お主は殺人鬼ではないから、殺す相手は選ぶと思うのじゃが……」


「文面的には、後進国への潜入調査の指令書だな。だから、現地民に対するハニートラップも有り扱いだ」


「……まあ、うん。恋愛は個人の自由じゃからのう」


「ん、良いのか?」


「良い男に恋するのも青春じゃよー。……但し、孕ませたら責任は取ってもらうがのう」


なるほどね。


「とにかく、可能な限りお主を庇うし、手を貸すのじゃ。何かあれば随時連絡を頼むのじゃ〜。あ、プライベート用ではなく、仕事用のアドレスも送るのじゃ」


そう言った学園長の瞳が点滅する。


これは、光パターンと電波などを組み合わせた、サイボーグ同士の一般的な通信方法だな。


俺も、網膜のスキャナに光パターンを取り込み、受信したデータを一応ファイアウォールに通してから電脳内のメモリに格納する。


「あと最後に……」


「ん、まだ何かあるか?」


「久しぶりに会った愛する人に、キスくらいしていって下さいよ♡」


なるほどね。




しばし学園長といちゃついた後、政府が用意したセーフハウスに移動。


どうやら、セントラル・エリアのそれなりのランクの住宅地に一軒家があるらしい。


家は、二世代家族が使うような大きなところで、本邸の他、離れに地下と地上の二室がある大型ガレージと、ガンラック。


地下の隠し部屋に軍用武器やロボットが並ぶ。


その他にも、かなり良い酒が陳列されるバーカウンターと、インプラント移植用の手術台まである。


その上、サクラダK.K.製の高級家事ロボットがずらりと並び、防犯用の戦闘ロボまでいる始末。


「隠す気あるゥ〜?」


文句を言いながらも、俺はガレージに入る。


そこには……。


「……これ、俺の車じゃねえか」


俺の、車とバイクのコレクションが並んでいた。


わざわざ、日本本土にある家から持って来たのか……。


まあ、良い車だからな。


サクラダK.K.製の軍用ジープに、リクエン・ホイールワーク製のスーパーカー。アメリカのサムター社製レーシングカー。


イギリス、ラザフォード社の、百台しか生産されなかった限定モデルのバイクとかも、もう手に入らない代物だ。


ガソリン駆動のアンティークカーまである。


ガンラックを覗けば、そこにあるのも俺の愛用品。おお、天皇陛下から貰った恩賜の軍用高周波ブレードまで。


まるで、俺の家を丸々持ってきたみたいだ。


「なるほどなあ」


とりあえず、軽く武装してから、バイクに乗ってこの辺の地理を覚えるか……。




住宅街を抜けてしばらく。


セントラル・エリアの飲食店にやってきた。


街並みは、日本本土より自然が多めで爽やか。


どちらかと言えば女性的な印象を受ける風景だな。


……それもそのはず、この周辺にいる生徒は、女の子ばかりだ。


理由は単純で、男子の多くは、徴兵されて軍学校に行っているからだな。


聞いた話によると、学園長が防げたのは、女子生徒の徴兵を回避することのみ。


男子はやはり、殆どは軍に行く。本人が行きたがるのだ。


とは言え、昔のようにいきなり戦場に出される事はもうなく、軍学校で数年間の訓練の後に、軍役をこなすってだけの話になっているらしい。


むしろ、男子の軍学校行きは、世界のデファクトスタンダードとなっており、止めると逆に拙いんだとか。


例えば、輸送部隊上がりがドライバーになって、補給部隊上がりが料理屋になって……、と言ったような感じだ。


俺がガキの頃は「学歴」がものを言ったが、今の時代での男は「軍歴」がものを言うらしい。


まあ、何でも良いか。


とにかく、街にいるのは女の子が殆どだ。


しかし、飲食店も、女の子向けのお洒落なカフェなどばかりなのか?と思えば少し違う。


確かに、お洒落なカフェの比率は多い。


健康的な化学スパイス配合カレーや、ソイミートを使ったベジタブルハンバーグなどの店舗が多いのは否定できないだろう……。


だが、忘れることなかれ。


ここにいる女の子達も、たまにはガッツリ食べたくなることもあるだろう。


運動部の子もいるだろうし、重サイボーグならエネルギーの必要量は多いし。


何より、育ち盛りの学生達が、お洒落なだけの飲食店があればそれで良い!などと言うはずがないというのもある。


そんな訳で、駅前のラーメン屋に俺は来ていた。


「へえ、培養肉を使った渾身のチャーシューが目玉、か」


合成タンパク肉ではなく、わざわざお高い培養肉を使った厚切りチャーシューか。


麺も、生産プラント直送の新鮮な造成麦を、レプリケータによる3Dプリントではなく、手打ちにしているとか。


スープも培養魚肉でとった出汁が利いていてうまいそうだな。


今、電脳でネットにアクセスして、食べログサイトを見た。


店名は……、ええと、麺麺軒か。


あんまりイカつい名前にすると、女子高生は入らんから、こんなもんか。


俺は男だから、例えば「豚なんちゃら!」とか「家系なんちゃら!」とか書かれている店には即入るんだが……。


まあ良いや、ラーメン食おう。


「すいません、チャーシューメン大盛りに味玉トッピングで」

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