第16話 楽しかったはずの外出

施設内のお店を一通り見て回り、二軒目の

ビルに入ったところでお昼時になり

すぐ近くにあったカフェに入る。


「ちょっと休憩しましょう。

朝からずっと歩きっぱなしでしたし。」


そう言うと店員さんを呼び、次々と注文していく楓。

メニューを制覇する勢いの楓に

店員さんは驚きながらも手元の伝票に書き込んでいく。


楓と外食をする時、ほぼ必ずバイキングかビュッフェを選択する。

そうしなければ財布がすぐに空っぽになってしまうからだ。


「・・財布大丈夫か?」


「はい!お母さんから連絡があって

色々あるだろうからって生活費を振り込んでくれてました!!」


資金はあるようで頼んだメニューを見ながら

ウキウキの楓は鼻歌まで歌いだす。

かなり多くもらったのだろうが、

素直にバイキングやビュッフェに入って安く済ませ

別のものに使ったほうがいいんじゃないかと

思い、言葉が喉まで出て来そうになるが

何とか押し込める。


(これ以上は怒らせたくない・・・・)


怒らせた理由が分からない以上、ご飯に上機嫌に

なっている所に水を差すのは良くないだろう。


「そういえば龍穂さん。交流試合の話聞きました?」


先に届いたドリンクを飲みながら楓が尋ねてくる。


「いや?まだ何も。」


「予定だと私と龍穂さんのペアで出場するみたいですよ。」


交流試合の形式は分からないが、楓と一緒に戦えるのは心強い。

八海の山で何か起きた際、何度も一緒に退治をしてきたので

お互いの行動を理解しており一番戦いやすい相棒だ。


「それじゃ大丈夫だな。」


「いやいや。相手は大阪校の生徒ですよ?

生半可な相手じゃないですって。」


「大型の式神が来たら俺。対人戦なら楓。

問題ない。勝てるよ。」


念を押して大丈夫だと伝えても心配そうな楓。

明るく能天気なように見えるが

意外と繊細で心配性な所がある。


八海の山の奥は神力が豊富で、それにつられた

強力な妖怪や神力を利用しようとする人間が極稀に現れる。

そういった奴らと戦い、勝利し続けているのだから

自信を持てばいいのに・・・・。


「お待たせしました。」


色々な話していると注文した料理が続々と運ばれてくる。


「おいしそ~~!!!」


いただきますと言う声が店内に響き、

楓は料理に手をつけていく。


二人用のテーブルを使っていたが、料理が多すぎて

テーブルに乗り切らず隣の四人用の机を動かしてくっつけてくれた。


「いつも思うけどすごいな・・・・・」


ナイフやフォーク、スプーンが何往復もして

楓の口へ料理を運んでいく。

俺は良い食べっぷりを見ながら

大盛のパスタをゆっくりと食べて進めた。


「ごちそうさまでした。」


全てを食べきった楓は両手を合わせて頭を下げる。

カフェでこれだけの量を食べたお客さんはそうはいないだろう。

周りのお客さんもものすごい食べっぷりに

眼を丸くしながら楓に注目していた。


「じゃあ、行きましょうか。」


あれだけの量を食べたのに楓はすぐに立ち上がり

会計へと向かう。

その姿に周りのお客さんはさらに驚き

あれだけ食べたのに顔色一つ変えずなんですぐに動けるの・・・?、

と顔に書かれていた。




「見てくるので、ここで待っていてください。」


ご飯を食べ、再びお店を見て回る。

やっと手を離してくれたと思ったら

ランジェリーショップに入っていった。


「あ、店の前から離れないでくださいよ?

迷子になったら見つけるの大変ですからね?」


途中、振り返った楓からそんなことを言われたが

周りはすべて女性。

視線が気になり出来れば今すぐにでも離れたい。


(・・・フロアマップを見るぐらいなら大丈夫だよな。)


少し先にある見取り図を見に歩く。

このフロアはレディースのアパレルしかなく、

俺が一人で見て回れるところはない。


(大人しく・・・・・ん?)


一人で見ていたはずだが、気付けば隣に女性が立っており

俺と同じようにフロアマップを見つめていた。


「桃子がいそうな・・・・・なんや。」


綺麗に着飾った同い年ぐらいの女の子が

見られているのに気づき、こちらを睨んでくる。


式典などできる礼装のワンピースを見にまとった女の子は

顔の幼さからまるで服に切られているように感じた。


「いや、なんでもない・・・です。」


強めの口調の関西弁で話されかなりの圧を感じ

思わずたじろいでしまう。


「ふん。」


俺を威圧し終えると、再びフロアマップを見始めた。

邪魔ししちゃいけないと思い、元の位置へ戻るため

振り返り歩こうとすると腕が引っ張られ

体勢を崩しそうになる。


「待て。」


何が起きたのかを確認するために振り返ると

先程睨んで来た女の子が俺の服を強くつかんでいた。


「な、なに・・・?」


「あんた・・・、ここらへん詳しいんか?」


「へ・・?い、いや・・・。

この街にはきたばっかりで・・・・」


素直に答えると女の子は大きなため息を

わざとらしく吐く。


「使えんな・・・」


そして顔も名前を知らない相手なのに

かなりひどい一言をつぶやかれた。


「服を見に行った友達を探してるんや。

大阪ならめぼしい所は見当がつくんやけど、

東京はさっぱりわからん。」


「そうか・・・。力になれなくて—————」


「一緒に探してくれ。」


逃げようとしてもがっちりと服を掴まれ、

さらにはお願いまでされてしまった。


女の子の顔を見ると、睨みを利かせた強気な表情から

不安そうな顔つきへと変わっていた。

強がってはいるものの、慣れない街で友達とはぐれ

かなり焦っているのだろう。


「・・・・わかった。」


少し悩んだ後、あまり力になれないかもしれないが、

このまま放ってはおけないと承諾する。


「一応聞くけど、その友達も女の子?」


「そうや。」


「じゃあ、このフロアと・・・・、

後は上の階。そこら辺を探せば見つかるかもしれない。

でも・・・・・」


店の中に居たらすれ違いになる可能性がある。

それにランジェリーのように俺にはなかなか入りずらい

店に居たら外で待つしかない。

どうしたら効率よく探せるかと考えていると

後ろから聞いたことがある声が聞こえる。


「龍穂さん。」


そこには買い物を終えた楓が立っていたが

見るから距離をとっており、怪しんだ表情で

こちらを見ていた。


「楓!丁度いい所に・・・」


「その人。誰です?」


自分を待っていてくれた人が

突然知らない人と一緒に居たら何が起きたのかと思い

怪しむのは仕方がない。

俺は事の経緯を簡単に楓に話した。


「知らない人の友達を探している・・ですか。

相変わらずお人よしですね~。」


「頼むよ。手伝ってくれ。」


「わかりましたよ。ですけど・・・・、

まずはお互いの名前と、探している

人の顔を知る所から始めましょう。」


楓に言われて初めて気が付く。

確かに言われてみれば、俺はこの女の子の

名前を知らないし、探している友達がどんな人なのかも知らない。

それじゃ、俺が仮にその友達と会えたとしても

気付かずにすれ違ってしまうだろう。


「そうだな。俺は上杉龍穂。十七歳です。」


「私は加藤楓って言います。龍穂さんの後輩で

十六歳です。」


名前と年齢を言えば、多少は信頼されると思ったが

名前を聞いた女の子は目を見開き

驚いた後、すぐに目を細め再度にらみつけ始めた。


「・・・・純恋や。十七歳。よろしく。」


「同い年か。純恋、よろしく。」


先程までは警戒している睨め付け方だったが、

今回は明らかに怒気を身にまとっている。


「・・・・・・・・・・・・」


どうしたものかと助けを求めるが、隣にいた楓は恋をじっと見つめ

深く考え始めた。


「どうした?」


「・・・いえ、なんでもありません。

お友達が心配しているでしょうから

早く見つけてあげましょう。」


こちらを見ることなく、返答をする。

先ほどまでの怪しげな表情から

何時にもなく真剣な顔つきへと変わり

友達の捜索を急くためか早足で歩き始めた。


「ちょ、まだ友達の顔を教えてもらってないって!」


「大丈夫だと思います。」


自分から提案したはずなのに、俺の指摘を無視し

歩みを止めない楓。

どうしたんだとあたふたしていると

純恋も後を追って歩き出す。


「・・何なんだ?」


楓の行動に煮え切らないが

置いて行かれるわけにもいかず、

追いつくため俺も歩き出した。


「・・二人は面識があるのか?」


先頭を歩き、辺りを見渡している楓と

何も気にせず悠々と歩く純恋に

この状況を少しでも理解しようと尋ねる。


「・・・・・・」


楓はまるで聞いていないように何も答えない。


「どうなんやろうなぁ?」


隣にいる俺を細くなった横目で純恋は見てくる。


「・・・・・?」


返答になっていない。

見えてこない。何も見えてこないが、

純恋の反応から薄っすらと感づいてくる。


(・・・・俺か?)


初めは知らない人に見られていたから睨みつけていたが、

その後見せた不安そうな顔は自らの素直な心情が表に出ていたのだろう。


だが、俺達の名前を聞いた瞬間に再度にらみつけ始め

俺の問いにこの反応。


恐らく面識がある。

何時頃かはわからないが、楓とは毎日顔を合わせているので

俺達二人と面識がある可能性が高い。


もし、この予想が当たっていたのだとしても

不自然な点がある。


それは楓の反応。

俺は思い出せないが、純恋が名乗った時、

楓は何かを考えている素振りを見せていた。

きっと思い当たる節があったのだろう。


礼儀正しい楓が久しぶりに会った人に

礼儀を欠くようなことはしない。

もしかすると何かしらの事情があり、

冷ややかな対応をしているのかもしれない。


(今は深く聞かない方がいいな・・・・・)


純恋の友達を探し出し、引き渡し終えた時点で

楓に聞いた方がよさそうだ。


このフロアをぐるりと回ったが純恋を探している様子の

人は誰一人としておらず、

同じレディースのアパレルが詰まっている下の階へと進む。


「いないな・・・・」


睨んでいた顔がまた不安そうな顔に変わっていく。

はぐれた友達のことがそれほど心配なのだろう。

相当仲が良いが証拠だ。


「・・その友達はどんな子なんだ?」


楓は聞こうとはしなかったが、

それだけ思いが強い友達に興味が湧いて来て

純恋にどんな子を探しているのかを聞いてみることにした。


「素直で優しくて、いつも隣にいてくれて私を守ってくれる

優しい子や。」


「そうか。何年ぐらい一緒にいるんだ?」


「十年・・・以上やな。

ちっちゃい時に出会って一人だった私の傍にいてくれた。

ちょうどあ・・・」


何かを言いかけて純恋は口を噤む。


「・・・?」


「なんでもない。とにかく大切な子や。

やけど冷静じゃないと時、何も考えずに一人で

突っ走ってしまう所がある。

向こうも私の事を心配してるはず。

焦って訳の分らんとこへ行ってなければええけど・・・・・」


純恋は真っ暗な携帯を取り出し、ぎゅっと握りしめる。

なるほど、携帯の電源が無くなって

連絡手段がなくなったのか。

今更そんなことに気付く俺自身もまだ焦りが

抜け切れていないみたいだ。


下の階を見て回っていると、店内を見て回っている

女性達より一つ頭が出ている背の高い女の子が

キョロキョロと辺りを見渡している。


「・・・・あの子じゃないか?」


見るからに焦った顔で当ても無く探すその姿は

純恋が言っていた友達にぴったりと当てはまっていた。


「・・桃子!」


純恋は名前を呼びながら友達の姿を見て、晴れたような歓喜の表情で

店内を駆けていく。

人にぶつかろうとお構いなしに突き進む純恋に

友達も気付いたようで

向かってくる純恋向かって同じように走り出した。


二人は抱き合って再会を喜ぶ。

まるで数年ぶりに会っているかのような喜びようを

俺達は人混みの中、遠目から見ていた。


「・・行くか?」


ここで俺達が言ったら水を差すと思い、

楓に相談する。


「いえ、邪魔になりますから行きましょう。」


服を引っ張り、急かすように俺を連れて行こうとする楓。

だが、気になってしまい引っ張られながらも二人の方を見ると

友人の女の子は男物のスーツを身にまとっており、

ドレスを着ている桃子と合わせてみると

護衛とお嬢様なのかと錯覚してしまう。


「・・へ?」


そして奥から友達と同じようにスーツを着た

集団がぞろぞろと来ており、

楽しくショッピングをするための施設には

あり得ない光景に思わず立ち止まってしまう。


「龍穂さん。」


その光景を見て、楓は服ではなく腕を掴み

さらに催促をしてくるが

あまりに珍しい光景を見たいと体は動かない。


「行きましょう。」


それでも楓は引っ張る。

俺に見せたくないものがあるのかと

頭の隅で考えていると、その答えらしき人物が

視界に現れた。


「・・・親父?」


汗をかき、安堵した表情で純恋の元へ走っていく親父が

眼に入る。


皇に仕えているので頻繁に東京に来ていることは

前から理解しているが、その親父がなぜ

純恋を真剣に探しているのか、理解できない。


「っ・・!!」


何故いるのかを聞こうと、一歩目の足を踏み出した瞬間。

体をがっしりと捕まれ、視界がブレる。


「行きますよ。」


何が起きたのかと後ろを見ると楓が無理やり

俺の体を抱え、まるで逃げるように兎歩を使い

どこかへ連れ出そうとしていた。


「か、楓!親父が・・・・」


「後で話します。今はとにかく大人しくしていてください。」


眉間に少しだけ皺を寄せ、必死で駆ける楓。

怒る事なんてめったにない楓が苛立ちを見せるほどの事態。

一体何が起きているのだろうか?


だが、この状況では聞くに聞けない。

今はとにかく楓に身を任せることしか選択肢はなかった。


———————————————————————————————————————————————————————


「ここまでくれば・・・・」


気付けばビルの屋上まで連れ去られていた。


灰色のコンクリートで作られたビルの屋上には緑の

庭園が造られており、綺麗の整えられた

草木や花はコンクリートが多い東京の街に添えられた

彩と言えるだろう。


庭園に置かれたベンチに座り、

息を切らしながら辺りを見渡している楓に改めて尋ねる。


「・・楓。どうしてここに親父がいるんだ?」


「・・・・・・」


楓は答えない。

ここまでの明らかにおかしな行動は

親父と関係していることを指しているのだろうか?


「・・・・なあ。」


「私の口からは言えません。

答える・・・・資格がないからです。」


「資格?」


「ええ。はぐらかしたような発言が多いのは

謝りますが・・・、どうしても言えないんです。」


呼吸を整えながら、空いている俺の隣へ座る楓。


「スーツ姿ってことは、仕事だよな?」


「・・・ええ。そうだと思います。」


「じゃあ、あの純恋って子は・・・、

皇に関係があるってことか?」


仕事の事を親父に深く聞いたことはないが、

時折来る電話相手に指示を送っている姿をよく見たことがある。

長年皇に使えてきた一族なので

位の高さはそれなりにあるのだとすれば

基本は指示を送り、現場に出ることは少ないだろう。


そんな親父がわざわざ純恋を探しに来ていたとすれば

あの子は皇に縁があるような

重要な人物ではないのだろうか?


「・・・・・・」


沈黙を貫く楓。

例え俺の考えが当たっていたとしても、

まだ謎は多く残っている。


あの子は明らかに俺に対して警戒や不満があるような

仕草をしていた。

初対面なので仕方ない部分はあったとしても

警戒を解こうと名前を言った時、

怒りが増したことを考えると

俺達と何か因縁があるのかもしれない。


「・・やっぱり親父と会ってくるよ。」


この場にどれだけ考えたとしても、それは机上の空論だ。

すぐ近くに答えを知る人物がいるのだから

聞いた方が早い。

そう思い立ち、立ち上がろうとした足の右太ももを

楓は手で強く抑える。


「いずれ分かるときが来ます。ですから、今だけは

私のいう事を聞いてください。」


止める楓の手には魔力が込められている。

よほど必死なのだろう。


「・・!!」


それだけではない。

全力の時に見せる背中からは黒い小さな羽が生えており、

この場から絶対動かさないという強い意志を感じる。


そこまで引き留める理由は何なのか。

楓の本気を見て、俺はさらに謎を解き明かしたくなり

体に魔力を込め、力づくで立ち上がろうとする。


「やるんですか?」


楓もすぐさま反応し、無理やりベンチに抑え込もうとさらに

右手に強い魔力込めた。


平和な屋上庭園に放たれる二つの強い闘気。

このままお互いが譲らないのであれば

戦いが始まるのだろうと気構えをしたその時、


「何をしている。やめろ、くだらない。」


俺達を制止する声がすぐ近くで聞こえた。

一体誰だとすぐに顔を向けるとそこには


「親父。」


頭を掻きながらため息をついている親父がそこには立っていた。


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