第14話 無礼な理由

「大丈夫か?龍穂。」


「な・・・なんとか・・・」


地獄の夕飯から何とか生還し時間が足りずにできなかった

寮内の説明をしてもらうため謙太郎さんとエレベーターに乗っている。


「張り切っていたな、アルさん。

いつのも倍ぐらいの量はあったぞ。」


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あの後遅れて食堂に着いた時、毛利先生を連れて賑やかだったのに

静寂が流れていた。


「・・アルさん?」


毛利先生が静かな食堂でアルさんの名前を呼ぶ。


「・・・・・・・」


気まずそうに眼を逸らすアルさん。

生徒達が絶望で声をすら出せない原因が食卓の上で存在感を放っていた。


俺は山盛りと言う言葉の意味を改めて実感した。

大皿の上に積み上げられたおかずは曲線を描いており、

それが様々種類でいくつも置かれている。

そしてイスが置かれている所には

山盛りを超えた漫画盛りのご飯が置かれており、

総勢14人で食べる量ではなく

あまりの量に毛利先生もアルさんに対し怒りを露わにしていた。


「張り切るのは良いですが限度と言うものがあるでしょう?」


「・・・はい。」


至極まっとうな意見にアルさんは悲しそうな顔で

俯いてしまう。


「まあまあ、みんなで食べれば問題ないでしょう?」


説教を始めようとしている毛利先生に謙太郎さんが割って入る。


「みんなで協力すれば食べられない量じゃないですよ。

転校生を歓迎したいアルさんの気持ちを無駄にしないためにも

頑張って食べきりましょう。」


謙太郎さんがアルさんのフォローをしているが、

歓迎したいという言葉を聞いた俺はあることを思い出し

再度食卓へ目を向ける。


「あれにケーキがあるのか・・・・」


思わずぼそりと呟いてしまう。

食べきれると言われ、かすかな希望抱いていた全員が

静かな食堂にかすかに響いた俺の言葉に反応し

一斉にこちらを見てきた。


「あ・・・・」


俺の言葉に驚愕している一同は再び絶望へと叩き落される。


「は、はは・・。ま、まずは席に着きましょうか・・」


アルさんが申し訳なさそうにみんなへ声をかけるが

足取りが重く、なかなか席に着こうとしない。


「美味しそうですね~!」


ただ一人、楓を除いて。


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「あれだけあったおかずを一人で三分の一ぐらい食べて、

さらにバカでかいケーキの四分の一ぐらい食べるなんて

龍穂の従者はとんでもない奴だな。」


昼間に食堂を見ただけでも嫌な顔をしていた楓だが、

いざ箸をもった途端すごい勢いでご飯を食べ始めた。


少し心配になり途中で大丈夫かと聞きに行ったが


『案外いけるものですね。』


と、あっけらかんとした表情で料理に手を伸ばしていた。


「あの小さな体で

あれだけ食べられる人間なんてそうはいない。

どういう体の構造になってんだ?」


謙太郎さんは首を傾げながら俺の方を見る。


「・・昔からああなんですよ。」


謙太郎さんの考えはあながち間違っていない。

忍びの家系である加藤一族はさかのぼれば

とある悪魔の血が入っているようで

楓も少なからずその血を引いている。


あのバカ力や大喰らいもその悪魔の血を引いていることで

得た力らしいが、純粋な人ではないことを知ってしまえば

見る目を変える人もいる。

明かすのであれば本人からの方が良いだろうと

俺ははぐらかして謙太郎さんに答えた。


エレベータ―のモニターに三と表示され、

音が鳴り到着を知らせてくる。


「着いたな。さあ、行こうか。」


謙太郎さんは平然とエレベーターから出ていく。

楓の事を不思議だと言っていたが、

この人も負けないぐらい食べていたはずだ。

それでも顔色を変えず案内をしてくれる所を見ると

この人も本当に人間なのか疑わく感じてしまう。


「アルさんから聞いているだろうが、五階までが

俺達が使えるフロアだ。」


扉が開くと、少し開けた空間にふすまが備え付けられたところに出る。


「ここは道場。どの時間でも使うことが出来るが

生徒手帳を使って入らないといけない。

あの機械は生徒達が触れた時間を常に記録し、

アルさんや学校が把握できるようにデータを残している。

消灯後に抜け出して使ったらすぐにばれて説教が待っているから

基本は自由時間のみ使えると思っていてくれ。」


謙太郎さんは説明しながら生徒手帳で襖の鍵を開け中に入る。


道場の面積はかなり広く、所属している生徒全員が同時に使用しても

不自由なく鍛錬が出来る広さだ。

トレーニング器具が置いてある部屋ではできない鍛錬でも

ここでなら十分にできるだろう。


「龍穂はいつも実家の道場を使っていたのか?」


「はい。早朝とかに・・・・あれ?謙太郎さん家に来たことあるんですか?」


「ああ、あるぞ。小さい頃だが一度行ったことがある。」


同じ上杉という苗字。うちと繋がりがあってもおかしくはないが

ずっと実家で過ごしてきて謙太郎さんと面識はない。

俺が外に出ていた短い期間で来たのだろうか?


「・・同じ上杉の苗字だが、俺は米沢上杉家の出身だ。

大元を辿れば龍穂や定明さんの生まれである八海上杉家と

同じ先祖なんだぞ?」


「そうなんですね。俺、親父からそういう話を聞いたことなくて・・・」


「先祖は同じだが、家柄の格としては八海上杉家の方が上だ。

本来は同胞として協力しなけらばならないが

こういったことでトラブルが起こることも少なくはない。

皇に使える職務を担っている影定さんは

色々考えた上で龍穂に伝えなかったのかもしれないな。」


確か上杉家はいくつかに別れた後、争った歴史があったはず。

自らの力を伸ばすため、障害になると判断した時

元は同じ先祖だと時がたてば対立してしまい時には争ってしまうのだろう。


「実際、八海上杉家の方が格上なのはおかしいと言っている奴もいる。

歴史上米沢上杉家の方が日ノ本に貢献しているという理由でな。」


「・・・・」


「そう警戒するな。俺はそうは思わない。

長年皇に仕えてきたという実績は米沢上杉家のどの実績と比べても

評価はされて当然だ。」


謙太郎さんの言葉に俺は一瞬警戒するが

殺気を感じさせず、八海上杉家を肯定する言葉に

これ以上の警戒は失礼だと思いすぐに解いた。


「うちの奴らが並べている御託は全て時代が違う何百年前の功績ばかり。

そんなことではいつになっても格を上げることはできない。

俺のじいちゃんである当主はそう言った奴らをねじ伏せるため、

何とか格を上げられるような功績を立てようとしていたが

なかなか機会に恵まれなかった。

俺はな龍穂。じいちゃんの意志を継いで米沢上杉家の格を上げ、

日ノ本一の家にしたいと思っている。

それには多くの味方が必要だ。

元は同じ同胞を妬んでいる場合じゃない。」


野望を語る謙太郎さんの表情は真剣そのものであり、

眼の奥には熱い覚悟が感じられる。


「ここに来ている生徒達も同じだ。何かしらを背負い、

強い決意を心に秘めている。

せっかくそういった奴らが集まったんだ。

出来る事なら家柄の優劣関係なく、手を取り合い

この厳しい日ノ本を共に登っていきたい。

俺はそう思っている。」


手を取り合い、日ノ本を登る。

自らの野望だけではなく周り全員の野望も叶えたい。

聞いただけでもかなり困難な願いだが

まるで子供様に熱く輝かせた瞳を見れば

偽りなく、本心で言っていることがわかった。


「綱秀もそう思うだろう?」


熱く語った後、謙太郎さんは体を向きを変え道場の出入り口の方を見る。

そこには手に木槍と木刀を持ちながら閉じた襖に寄りかかる

北条の姿があった。


「・・俺は自分の目的だけ果たせればどうだったいい。」


話しに夢中で近くにいるのは分からなかったが、

おそらく俺達の会話が終わるまで待っていてくれたようだ。


「何しに来たんだ?」


謙太郎さんが北条に問うが、答えることなく

こちらに向かって歩き出す。

そして俺達の目の前に立ち、俺に向けて木刀を差し出してきた。


「俺と立ち会え。

お前の歩法をもう一度見たい。」


何と再度俺と戦いを挑んで来た。

あれだけ激しい戦いをしたばかりなのに体力がよく持つものだ。


「綱秀。」


俺に木刀を押し付けようとしている北条へ向かって

謙太郎さんが呼びとめる。


「名前で呼べ。これから共に過ごす仲間だろ。

自分が持っていない技術を盗もうとする気概は良いが

無理に強要するのはダメだ。

しっかり龍穂の了解を取れ。」


叱られた北条は無言で刀を引く。

謙太郎さんの言い分は至極まっとうなであり、

反論の言葉さえ浮かばなかったのだろう。


そして俺を方を睨むようにじっと見つめ、

返答を待っている。


「・・・いいよ。やろう。」


少しだけ考えて、北条の頼みを承諾する。

ここで断れば同じ学年である北条との関係はさらに崩れるだろう。

出来ればこの先仲良くしたい。そう考えれば断る理由はなかった。


「いいのか龍穂。疲れてないか?」


「少し寝たので大丈夫です。それに・・・

腹の中の物を早く消化したいですから。」


教室での挑発のお返しだと少しだけ煽ってみる。

仲良くしたいと承諾したのに矛盾しているようだが

これくらいの煽りであれば大丈夫だろう。


「・・言うじゃねえか。」


北条はにやりと笑いながら俺に木刀を手渡してくる。


「実力が下の奴が下座に構える。ここに仕来りだ。

龍穂、奥に言ってくれ。」


謙太郎さんが背中を叩いて俺を上座である奥への

移動を催促する。


「俺は審判をやらせてもらう。

お互い口では大丈夫だと言っているが、

体には疲労が溜まっているだろう。

しまりが良い所で止めさせてもらうぞ。」


立ち合いを見るため、道場の壁際に謙太郎さんは立つ。

指示通り奥まで進むとどの道場にもある通り

神棚が置かれてあり、掛けてある一枚の掛け軸には

安倍晴明御霊神と書かれていた。


丁度いい立ち位置で振り返ると北条はすでに構えている。

奴は俺の兎歩を見ることを望んでいる。

であれば一兎流しか使うしかないだろうと

目の前で木刀を縦に持ち、膝をついて

抱え込むように頭を前に出した。


「用意・・・始め!!」


謙太郎さんの掛け声と共に兎歩を使い北条の元へ駆ける。

戦いの時と同じように一直線ではなく、細かく縮地を使い

翻弄する様に跳ねた。


「・・・・・・」


綱秀は構えを解かず俺を待ち受けているが

眼を俺の足元を捉えており、どうやって移動しているか

観察している。


間合いの広い槍では刀の様に相手の懐に踏み込むなんて機会は

ほぼないだろう。

経験が無く、応用が効かない技術の習得は困難を極める。

サービスだという気持ちでいつもより多めに

跳ねながら北条の元へ踏み込んだ。


「・・!!」


間合いに近づくにつれ、北条の槍の穂先が徐々に反応していく。

だが、足に集中しすぎて刀に対する警戒が薄い。


(・・・決めるか。)


これが長引けば中途半端な立ち合いになり、

木刀とはいえ当たり所が悪ければ大けがに繋がりかねない。

新たな技術の習得を目指している北条には悪いが

勝負を決めた方が良いだろう。


兎歩から縮地に切り替え、綱秀の懐に踏み込む。


「!!!」


北条は反応が遅れ、穂がある部分で対応することが出来ず

木槍を縦にしなんとか柄で受け止めた。


普通の槍使いであれば後は刀を振るい、押し込むだけだが

北条は棒術が使える。

手狭であろうとなんとかしようと槍を振るうはずだ。


「くっ・・!!」


予想通り棒術を使い距離を取ろうと振るってきたため

俺は刀で受け止め北条の狙い通り距離を取る。

刀が北条に届かず、槍だけが届く絶好の間合いに留まった。


「ふっ!!!」


俺を見た北条は棒術の握りから槍術へ流れるように切り替え

安全圏から全力の一撃を放ってくる。


(来た。)


これを北条から引き出したかった。

不意を突いた踏み込みで焦っている中、絶好で安全な距離を見せれば

誰だって飛びつくだろう。


俺を狙い向かってきた穂先を木刀で床に叩きつけるように振り抜く。

安全な距離と言うのはあくまで体に刃が届かない位置。

余裕がない中突き放たれた槍は無防備であり

衝撃に耐えきることが出来ずに穂先から地面に叩き落された。


槍を離すことはなかった北条だが穂先がこちらに向いておらず、

体から離れた位置で槍を持っているのですぐさま

棒術を使われることはない。


北条は槍を引き、体勢を立て直そうする。

そうはさせないと木槍を足で踏み、

動きが止まって所で刀を振り、北条の首筋に

添えるように止めた。


「そこまで。」


謙太郎さんの声が道場に響く。

立ち会いと言うよりかは俺の兎歩を所作、

そして使い方を見ていた。

明らかに負けに来てはいなかったようだが

槍の間合いを押し付けるような攻めは全く見せず、

立ち合いとは言えないような試合だった。


「・・・・」


足と木刀を引き、北条に手を伸ばす。

勝敗で優劣が付いたとしても敬意を持たなければならない。


「ありがとう。いい汗をかけた。」


これも煽りだと捉えられるかもしれないが、

北条も本気を出していなかった。

感謝を伝える言葉として間違ってはいないだろう。


「・・これでケリがついた。」


北条は俺の手を握ることなく、小さくつぶやく。


「・・?」


「昼間は邪魔が入ったからな。

今回の結果ではっきりした。龍穂が上、俺が下だ。」


昼間の戦いは俺の意識が飛んでいたのもあったが

本田先生や毛利先生の介入があった。

今回は謙太郎さんが審判をしたとはいえ

俺と北条のみの戦いでしっかりと勝敗をつけることができた。


「・・・・・・・・」


何とも言いようがない感情に襲われ差し出した手で頭を掻く。

なぜ、こんなに優劣をつけたがるのか理解できない。

同じ学校で学ぶ生徒同士なのだから

実力に差があったとしても立場は対等なはずだ。


「・・それ、やめない?」


北条に俺の気持ちを素直な言葉で伝える。


「上とか下とか堅苦しいからさ。

同じクラスメイトでいいだろ?」


これから先の学校生活で生徒間の優劣を意識しないと

行けないのははっきり言って窮屈だ。

そんなものは取っ払って対等な関係のほうがお互い楽だろう。


「・・・・・・・」


北条は信じられないという顔で俺の方を見る。

奥の方で視界に入っていた謙太郎さんはなぜか

笑顔で俺達の方を見ていた。


「・・・・・・風呂。」


北条は俯き、ぼそりと呟く。


「・・ん?」


「風呂。入りに行くぞ。」


いきなり風呂?

そう思っていると持っていた木刀を無理やり奪い

足早に道場から出ていく。


「フフッ・・・・」


北条の意図が分からず唖然としていると

後ろから謙太郎さんが肩に手を置いてくる。


「嬉しかったんだよ。龍穂が対等に接してくれると言ってくれて。」


「どういうことですか?」


「龍穂もスカウトされて転校してきただろう?

ここでは出身と評価した人物の格で生徒間の優劣が決まる。

まあ、大体の生徒は授業で先生たちにしごかれていくにつれ

傲慢は削られていき、優劣の意識は薄れていくものだが・・・、

綱秀の学年はそうじゃなかった。」


北条を追うように、謙太郎さんは襖の玄関の方を見ながら

話し始める。


「プライドが高い奴が多く集まった世代でな。

しかもそれぞれ面識があり、固まって行動していた。

どれだけ先生にボロボロにされても慰め合い、頑張っていたんだが・・・

プライドの高さがそれを悪い方向へ持って行ってしまった。」


「わる・・い・・・?」


「いじめだ。尼子涼音っていただろ?」


初めて聞く名前だが、話の流れからおそらく北条の隣にいた

ショートカットの女子生徒の事だろう。


(思い返すと・・話してすらいないな・・・)


一言目から喧嘩を売られたので仕方がない気もするが

それを買った俺も悪い。

後で改めて自己紹介をしておこう。


「あの子は実力は十分だったが華族出身ではなく、推薦者もあまり名声のない

上官達だった。

それに目を付けた奴らは嫌がらせを行いその優越感から

日々のストレスを発散した。

日に日に厳しくなる授業と比例する様に嫌がらせもエスカレートしていって

次第に暴力を振るわれるまで至ったんだ。」


「・・先生たちは気付かなかったんですか?」


「気付けなかった。暴力は服で隠れる位置に狙い、

見せたりばらしたら退学に追い込むと脅されていたらしい。

幸い、綱秀が早めに気付き止めに入ったんだが

同じように退学へ追い込むと脅された。

だが、あいつは抵抗した。

権威に対抗するために実力をつけ、全てをねじ伏せた。

いじめていた奴らも推薦を受けるにふさわしい実力を持っていたんだが、

綱秀はコテンパンにしていたよ。

たとえそれが何人相手でもな。

涼音へのいじめをなくすため何度も立ち合い続けた。」


一言目で喧嘩を売られ、素行が悪い奴なのかと思っていたが

今までの経験から得た仲間を守るための行動だったようだ。

権威を振りかざされる前に実力を知らしめておき

いじめを起こさせないようにするための手段だったのだろう。


「いじめていた奴らも綱秀との実力の差に心が折れていき、

権威と言うプライドだけが支えだった奴らは負け犬として

残る選択肢はなく、転校していったよ。

結局、いじめが全体に伝わったのは主犯格が残り一人となった時だった。

当然そいつは退学。校長先生と先生方、寮長のアルさんが二人に深く謝罪して

二人の戦いは終わった。

壮絶な戦いだっただろう。だから・・・今日の綱秀の無礼な振る舞いは

眼をつぶってやってほしい。」


謙太郎さんは頭を下げてくる。

辛い思いをした二人に何もしてあげられなかった後悔から

来る謝罪だろう。


「・・分かりました。」


北条の振る舞いに怒っていたわけでは無いが、

良い印象は受けなかった。

だが、聞くだけでも悲しくなってしまうほど壮絶な

裏があるのならしょうがないとさえ思えてしまう。


「感謝する。」


俺の返答に謙太郎さんは笑顔で応えてくれた。


「あの優劣をつけるような発言は俺を試していたんですね。」


「それもあるとは思うが、自分に言い聞かせていた部分もあるだろう。

まだまだ上はいる、実力を示すには足りないぞってな。」


「俺に示す必要はないのに・・・。

もっと優しく自己紹介をすればよかったのかも・・・・。」


「そんな気を使う必要はない。龍穂は何も悪くないんだからな。

それに・・・実力を示さなければいけないのは

校内だけとは限らないぞ。」


「・・・・?」


「少しすればわかる。それより風呂だ!

大浴場が四階にある!綱秀も待っているし

説明も兼ねて一緒に入るぞ!!」


暗い雰囲気を晴らすような大声と共に

俺の背中を叩き玄関に向かう謙太郎さん。


「一度自室に戻って着替えを用意しないとな!

あっと・・言い忘れてた。」


意気揚々と歩いている途中、何かを思い出し

こちらへ振りむく。


「綱秀も龍穂の事を認めたことだし名前で呼べ。

苗字だと距離を感じるぞ?」


俺に向かって指をさし呼び方を指摘された。

北条にも同じことを言っていたし、

対等に仲良くなりたいのであれば名前で呼ぶのは必須だろう。


「分かりました。」


意識してみようと返事を返し、謙太郎さんの元へ向かう。

三道省の上官を目指す高校だからこそ起こった悲劇。

立ち向かい、勝ち残った二人には敬意を感じる。


そんな二人から信頼を得るのは難しいかもしれないが

何とかやってみようと心に決め、綱秀が待つ風呂へと向かった。



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