父親から養子だと伝えられた途端、遠い先祖から命を狙われています~代々伝わる陰陽師の力と俺の中に秘められた宇宙の神の力でこの世界を成り上がる~
@tatubee
第1話 告白
「龍穂。お前は俺の子じゃないんだ。」
おなじテーブルで朝食を食べていた親父が
何食わぬ顔で俺に言う。
「・・・・・へ?」
親父の突然の言葉に、トーストをテーブルの上に落としてしまった。
「勿体ないぞ。しっかり食べろ。」
「・・・いや、いやいや!!」
親父はテーブルに落ちたトーストの事を心配しているが、
それどころではない。
俺は親父が何気なく言ったことの方が大事だった。
「何・・・言ってんだ?」
「言葉通りの意味だ。ほれ。」
親父はティッシュボックスを渡してくる。
このまま親父を問い詰めても、トーストの事を指摘されそうなので
モヤモヤしながらも、裏返ったトーストを拾い上げ
バターで濡れたテーブルをティッシュで拭く。
「・・・親父。本当なのか?」
テーブルを拭き終わり、朝ご飯を食べながら親父に聞く。
赤ん坊の時の記憶はさすがにないが、
小さいころから八海で過ごしてきた記憶は鮮明にある。
その中には親父と母さんの姿があり、
その二人が本当の両親ではないことを
疑いもしなかった。
「ああ。お前が赤ん坊の時に両親は亡くなった。
そこから俺達が養子として迎え入れて
ずっと育ててきた。」
親父は朝ご飯を食べ終わり、本棚の方へ歩いていく。
「えっと・・・・これだ。」
一冊のアルバムを手に持ち再びテーブルへ座る。
そのアルバムは両親や兄貴達と思い出が詰まっており
何度見返したかわからない。
「確かここに・・・・」
親父はアルバムをめくり、一枚の写真を取り出す。
そこに写っていたのは病室での一枚。
夫婦らしき男女と生まれて一か月と経たないような赤ん坊が
写されており、
母親と思わしき女性が赤ん坊を大切に抱え、
父親の方は漫勉の笑みを浮かべている。
「これがお前の両親だ。」
親父は俺に手渡してくる。
何度も見返したアルバムだが、このような写真を
見た記憶は一度もない。
「・・・・・・・・・」
俺はまじまじと写真を見るが、この二人が本当の両親だと
いう実感は全く持てない。
(ドッキリか・・・・・?)
と言うか、今この時でさえ親父が嘘をついているのではないかと
すら疑っている。
だが、親父の性格は真面目であり
俺に嘘をついたことなんて数える事しかなく
一瞬親父の顔を覗くが、
その厳格な顔は嘘をついているような顔ではなかった。
「その写真はお前に預けておく。
大切にしまっておけ。」
そう言うと親父はイスを引いて立ち上がり、
どこかへ去ろうとする。
突然のカミングアウトに頭がぐちゃぐちゃになっている俺には
この場から逃げ去ろうとしているようにしか思えなかった。
「・・・親父!!」
逃げる親父を追いかけようと力強く椅子を引いて
駆けだす。
強く引かれた椅子が体制を崩し、音を立てて
倒れるが直している余裕はなかった。
親父の後を追って急いで廊下に出ると、
縁側からサンダルを履いて庭に出ようとしている親父を見つけ、
急いで庭に出る。
「親父!!なんで逃げんだよ!!!」
怒声を上げながら親父の元へ駆けていくと、
親父は真剣表情で俺へと振り返り
「隣に来い。」
と、一言だけ言ってくる。
「いや、そんなことよりも・・・」
「いいから。」
親父を問い詰めようとするが、
強く言われ渋々隣に立つ。
「これがお前の両親の墓だ。」
目の前に俺の背丈の半分ぐらいの石が置いてあり、
親父は屈んで石を眺めながら俺に言ってくる。
「これが・・・・・?」
墓石とは思えないほど、どこにでもありそうな石であり
小さい頃、庭で遊んでいた時に倒してしまった記憶が
あるほど庭の景色に溶け込んでいた石であった。
「お前の両親との約束でな。
お前を近くで見守りたいとこの石の下に埋めてくれと言われていた。」
「そんな・・・・」
そんなバカな話はないと言いたかったが、
悲しそうに石を見ている親父を見ていると
そうは言えなかった。
「・・・・・・・・なあ、親父。」
「なんだ?」
「俺の・・・・両親は、なんで死んだんだ?」
もっと他に聞きたいことがあったはずだが、
目の前にある両親の墓石を前にして気になった
事を親父に聞いてみる。
「・・・・・・・・・・・戦死だ。」
親父は少しの沈黙の後、現代では
なかなか聞かない死因を俺に教えてきた。
「戦死?」
平和な現代ではあまりに聞きなれない死因に
俺は思わず聞き返してしまう。
「ああ、お前の両親は戦って亡くなったんだ。」
親父は立ち上がり、俺の方を向く。
「何と・・・戦ったんだ?」
「・・・・・・・・」
親父は答えることなく、
俺の方をじっと見つめたままだった。
「・・・・・・・・・今日はお前の両親の命日だ。
この日に伝えてくれと頼まれていたんだよ。」
親父ははぐらかすかのように、
今日と言う日になぜこんなことを伝えたのかという
理由を明かしてくる。
聞き返してもよかったが、
きっと親父は教えてくれないのだろうと感じ、
俺はこれ以上深く聞き出すのを止めた。
「・・・・・すまんな。」
黙って親父の方を見ていると、
突然謝ってくる。
「急にこんなことを言われて、驚いたよな?」
親父は俺に頭に手を乗せ、撫でてくる。
もうそんな歳ではないと手を払いのけたいところではあったが
あまりにも悲しそうな顔をした親父を見て
このまま受け入れることにした。
「・・・・・・・・・・・?」
撫でている途中、頭の中で何かが割れたような音がした。
体験したことがない感覚に少し驚くが、
いつも厳格な親父が取った行動の方が
驚きであり、あまり気にならなかった。
「・・・龍穂。俺はな、例え血がつながっていなくとも、
過ごした時間で築き上げた関係こそが、
全てだと思っている。
俺はお前を本当の息子だと思いながら育ててきた。
きっと、龍穂も俺の事を親だと思いながら過ごしてくれてきたと思っている。
もし・・・龍穂が俺の事を父親だと思っていてくれて、
これからもそう思っていたいと感じてくれていたのなら、
その思いは変えないでほしい。」
いつも厳しい親父から飛び出した言葉。
血がつながっていないと明かした親父からの本音は
深い愛情が込められており、
俺自身もその願い通りにいたいと思っていた。
「・・・・なら、なんで言ったんだよ・・・。」
本音を前にして、俺は反抗する様に親父に尋ねる。
そんなに俺の事を思ってくれていたのなら、
血がつながっていないことを心の中にしまい込んで
くれてもよかったはずだ。
「言わなくちゃいけなかったんだ。
お前のために・・・な。」
「俺の・・・ため・・・?」
真実を明かすことが俺のためになる?
どういう意味だろう。
「その時が来ればわかる。
多分それはすぐに・・・」
親父の言葉を遮るように、家のチャイムが鳴る。
朝早くからうちに来る人なんか・・・・。
「・・・猛と出かけるんだろう?」
「・・・・あ。」
そうだ。昨日猛から連絡があって
朝から山に行くんだった。
「俺に聞きたいことは山ほどあるだろうが、
明日の午前中までは家にいる。
遊びに行ってこい。」
親父は俺の頭を叩く。
東京に出張予定の親父は明日の午後にはいなくなってしまい、
最近は忙しいらしく、次はいつ帰ってくるかわからない。
本来であれば、遊び言っている暇はないが、
ぐちゃぐちゃの頭では本当に聞きたいことを
絞り出せないだろう。
それに猛を待たせたら後が面倒くさい。
ここは一度外に出て頭の中を整理したほうがよさそうだ。
「・・・・わかった。そうする。」
迎えに来た猛を出迎えるため、
廊下に上がろうとするが
靴下のまま外に出たことに気付く。
俺は縁側に座り、廊下に土をつけないために靴下を脱ぐと
急いで廊下を駆けた。
「・・・・約束は果たしたぞ。」
親父が何かをつぶやいた気がしたが、
俺は聞き取る事ができない。
何を言ったのか聞こうとしたが
チャイムがもう一度鳴らされたので、
急いで玄関に向かった。
______________________________________
「いい天気だな!!」
俺の隣で強く照らす太陽を手で隠しながら空を見る男。
「そう思わないか?龍穂!」
こいつは清水瀬猛(しみずせたける)。
俺の友人だ。
高校入学の時に八海へ引っ越してきた奴で
家が隣であり、ずっと一緒に登下校をするくらいの仲だ。
「・・・・そうだな。」
「なんだよ~。嫌な事でもあったか?」
いつも明るく、カラッとした性格なので
落ち込んだ時は元気を分けてもらっているが
今日だけは受け取れそうにない。
「まあ・・・・・な。」
「元気出せよ!龍穂も今日を楽しみにしていたじゃんか!!」
深く聞いてこない所も猛の良い所だ。
両親と血がつながっていたなかったなんて
誰にも言えないだろう。
今向かっているのはこの八海の地にそびえる霊峰。
そこで俺達は夏休みの課題をこなそうとしている。
「やっと神道初級認定試験を合格したからな!!
式神を使役できるんだぜ?」
俺達が通う学校は通常科目の他に、
三道を習うことが出来る特殊な学校だ。
三道とは魔道、神道、武道の総称であり、
魔術、神術、武術を習得するための授業の名前となっている。
初級、中級、上級、特級と三道それぞれに等級が定められており、
認定を受けるごとに使用を許可される術式などが増えいく仕組みだ。
高校から神道の授業を受け始めた猛は
やっと神道の初級認定試験に合格し、
式神を使役できる資格を得た。
夏休みの神術の課題は等級ごとに分けられており、
猛は式神の使役となっている。
初めての使役という事で、中級試験を合格している且つ
仲が良い俺は使役を手伝ってやってくれと先生に頼まれていた。
「龍とか使役できねぇかな?」
「出来るはずないだろ。そもそもこんなところに龍はいない。」
山道を歩いていると、猛のテンションが上がってくる。
調子をこいて龍を使役したいと言ってくるが、
伝説上の生物がこんなところにいたら、
すぐにニュースになっているはずだ。
「初めての使役だぞ。木霊なんていいんじゃないか?」
俺は自らが使役している木霊を札から出す。
木の精霊である木霊はあちらこちらに飛んでおり、
人に対して友好的であるため
初めての使役にはもってこいだ。
「ん~。それじゃおもしろくないじゃん?」
だが、猛は渋っている。
木霊以上の精霊を探すとなると猛以上の
実力の持ち主しか候補がいない。
式神の主な使役方法は相手と信頼を通わせるか、
実力でねじ伏せるしかない。
(まあ・・・・ほっとくか。)
一度痛い目を見て、自らの実力を把握するのも強くなる道の一つ。
調子に乗っている猛にはいい薬になるだろうと
俺はなにも言わず、猛についていく。
山を登り始めたばかりだが、木霊の数は増していく。
この山では山岳信仰があり、多くの修練者が修行を積んでいるが
一般人でも登山が出来るように緩やかなコースが作られている。
そう言った道では精霊の数は減っていくものだが、
霊峰の名は伊達ではなく、山の入り口でも
木の住み着く精霊の数は多い。
綺麗な山の風景を飛び交う木霊を見ながら歩いていくと
少し先に分かれ道が見えてくる。
片方は一般人用の緩やかなコース。
もう一方は修練者が使用している険しく、そして
危険な道となっており、それを説明する看板と
鎖で道が塞がれていた。
「・・・・・・・・・・・・・なあ。」
「行かねえぞ。」
塞がれている道をじっと見つめながら何か言おうとしている
猛を否定する。
「まだ何も言ってねえよ!!」
「お前の視線が物語ってるだろ。
その先の道は命の保証が出来ねえし、
それとその鎖を超えることも命の保証はできないぞ。」
俺の話を聞かずに、猛は鎖の隙間から
修練者用の道に入ろうとしている。
「はぁ・・・。どうなっても知らねえぞ・・・。」
俺はため息をつきながら歩いてきた道を振り返った。
沢山の精霊が見れると有名なこの山には
年間何万人と登山者が訪れる。
当然その中には好奇心で閉ざされている修練者用の道を
行こうとする人もいるわけだ。
実力が無いものがあの道を登れば、
ほぼ確実に命を落とす。
それを防ぐ役割をしているのがこの山を守る神社の神主達であり、
今頃許可も無く道に入る者がいると知らせが入ったはずだ。
「・・・来たか。」
山道を駆ける一羽の烏がこちらに向かってくる。
通常とは倍以上の大きさの烏の上には人影が見え、
近づいてくるにつれ、紅白の装束を身にまとった巫女の姿が見えてきて
緊迫した迫真の表情を浮かべていた。
俺は分かれ道の真ん中に立ち、猛が進もうとしている
修練者用の道の方を腕を上げて指さす。
すると烏は方向転換をし、俺の目の前を猛スピードで
駆け抜け今様に鎖を通り、道を歩もうとしていた猛に向かって
突っ込んでいった。
「何・・・・しとんじゃああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
巫女は烏から勢いよく跳ねると、歩き出した
猛に向かって飛び蹴りを放つ。
怒号に気付いた猛は振り返ると目の前に現れた足の裏に
驚愕し、防御を取る暇もなく
足が腹に突き刺さった。
「ゴハァッッ!!!!」
巫女を飛び蹴りをもろに食らった猛は聞いたことの無いような声を上げながら
修練の道の地面を削りながら吹き飛ばされていく。
「だから言ったのに・・・・・」
「猛!!あんたの目は節穴か!!!」
手に持っていた竹ぼうきで地面を突きながら倒れている猛を
怒りつける巫女。
同じ学校に通い、クラスも同じである佐渡真奈美(さわたりまなみ)だ。
この山の神を奉り、山を守る役目を持つ神社の娘であり、
許可なく修練者の道を進もうとする登山者を
父親である忙しい神主に変わって時々止めに入っている。
「龍穂も!あんた猛の保護者を任されているんだったら
しっかり止めてよ!!」
「いやぁ、調子乗ってるから一回痛い目見た方が
良いと思って・・・・。」
怒りの矛先は俺にまで向けられる。
山登りが目的の登山者のほとんどは看板を見れば
この道が危ないと分かり、緩やかな山道を歩いていく。
猛の様に無理やり進もうとする奴の大半は
神道初級認定試験に受かり、式神を使役できると
浮かれた奴らなのだそうだ。
「あんた修練を舐めてんの!?
丸腰でこの道を進んだら確実に死ぬよ!?」
何度も同じような奴らを止めに入っている
真奈美はかなりお怒りのようで、説教モードに入っている。
始めは言い返していた猛も
自然と正座になり、鬼の形相の真奈美の顔を見れないのか
俯きながら説教を受けていた。
「あらら~、ああなると長いですね~。」
憐れむ顔で猛の方を見ていると、後から声が聞こえる。
「何してるんですか?」
振り向くと、そこにはジャージを着た小柄な女の子が俺の顔を覗いている。
一つ下の後輩である加藤楓(かとうかえで)。
八海上杉家とは主従関係を結んでいる加藤家出身であり、
幼いころから一緒にいて、妹のような間柄だ。
「調子乗ったバカが説教受けてんだよ。」
「ああ~、そういえば初級に合格したなんて言ってましたね・・・・。
ご愁傷様です。」
楓は二人の方へ向かって言うが、果てしてどちらに言っているのだろうか?
修練者ようの道は、かなり険しく山登りどころか
崖登りと言えるようなところも存在する。
神社に許可を取ってこの道を進む者は最低でも一日、
長い時は一か月も戻ってこないこともある。
山の中で修練を積んでいる者もいるが、
この道は険しい上にかなり長い。
鍛えられた修練者でも
体力が持たずに引き返す者もいるくらいだ。
「あんなに怒らなくてもいいと思うんですけどね~。」
だが、忍者の末裔である楓はこの道を散歩道と言っており、
毎朝五時に起きて険しい山道を風の様に駆け抜けて
から登校するという人間離れをした趣味を持っている。
恐らくここにいるのも趣味を終えた殻なのだろう。
俺も何度か付き合わされたが、付いていくのに必死で
ここに戻ってくるときには息が絶え絶えになってしまっていた。
「・・・・楓。」
「なんですか?」
説教を受けている猛に聞こえないよう、小さく
楓に声をかける。
「この辺にいる木霊以外で猛が
使役できそうな精霊がいないか探してくれないか?」
猛は諦めることを知らず、このまま式神探しをしていたら
日が暮れるどころか何日この山にこもることになるかわからない。
この山の事を熟知している楓なら
木霊以外で猛が使役できそうな奴を連れてきてくれるかもしれないと
思い、頼んでみた。
「・・・あの人、武道の初級に合格出来ていないですよね?」
少しだけ考えた後、楓は真顔で俺に尋ねてくる。
猛は三道の初級を合格できたのは神道のみであり、
魔道と武道は見事に落ちた。
ちなみに魔道の初級を合格出来れば危険時での魔術の使用が許可され、
武道は危険時での武器の使用が許可される。
要するに猛は丸腰かつ、戦うことが許されない状態で
式神の使役を試みているのだ。
「なんであの人、あの道に行こうとしたんですか?」
至極まっとうな事を楓が聞いてくる。
修練者の道では木霊より強い妖怪が住み着いており、
鍛えられた修練者でさえ極稀に死亡したという報告も入ってくるぐらいだ。
だからこそ、真奈美も真剣に猛を止めに入っているのだ。
絶対に入るなと事前に、何度も言われてたはずなのに
何故か入ろうとした猛をみて
「・・・・・バカだから。」
俺はそう答える事しかできなかった。
_____________________________________________
「はぁ・・・・」
ため息を吐く猛と緩やかな山道を歩く。
「当たり前だろ。大人しく木霊で手を打て。」
「木霊か・・・・・」
木の精霊であり、人に対し友好的であるため
戦闘をしなくても使役が出来る使役の入門と言えるような存在だ。
学校の誰もが使役している木霊を人とは違うのが良いと
言う思いだけで嫌がっているのだろうが、
決して実力がないわけでは無い。
木の力を使い、攻撃や防御もできるバランスの取れた
選れた精霊なのだ。
「・・・・・木霊って言っても
こんなやつもいるぞ。」
札から俺が使役している木霊を召喚する。
「くろ・・・・い・・・木霊?」
通常の木霊の体は白くなっているが、
俺の木霊の体は漆黒で染められている。
「環境によってはこうやって色が違う個体が生まれることもある。
通常なら木霊は木を生やす力しかもっていないけど・・・」
俺は木霊に指示を出すと、木霊は目の前の山道に
小さい竜巻を起こした。
「こういう風に違う力を使うこともできるんだ。
もしかすると、この中にも俺の木霊と同じように
違う力を使う奴もいるかもしれないぞ?」
「違う・・・力か・・・・・。」
猛が食いつき始める。
精霊は生まれ育った土地の影響を強く受ける。
水の神の近くで育った木霊は水の力を持ってたりするので
そう言った地の精霊は神道を志す者にとって重宝されるのだ。
(まあ、俺の木霊は譲り受けたものなんだけどな・・・・・)
小学校に入学するときに、一番の上の兄貴から譲り受けた木霊。
どこで使役したか一切わからないが、
恐らく特殊な土地で生まれたのだろう。
「・・・・いいな、それ。探してみる!!」
俺の木霊を見て目を輝かせる猛は山道から逸れ、
森に向かって駆けだす。
「あ・・・おい!!」
呼び止める俺の声を無視して奥へ進む猛を追いかけようとした時、
ポケットに入れてある携帯が鳴りだす。
急いで画面を見ると、そこには楓の名前が表示されていた。
森の中に入った猛の後を追いながら携帯を取り出す。
「もしもし!」
『龍穂さん。今どこにいますか?』
いつも明るい楓の声のトーンはいつもより低く、
何かしらの緊急事態が起こったと伝わってくる。
「山道を外れた森の中にいる!猛が式神の候補を探しに
入っちまった!」
『・・・簡潔に言います。
山の様子がおかしいです。もしかすると何か起きているのかもしれません。』
毎朝山に入り、庭の様にかけている楓がおかしいと
言っているんだ。
何かしらの異変が起きていることは確かなのだろう。
「・・・・分かった!猛を探して下山する!!
楓は人を呼んでおいてくれ!!」
まだ朝は早い。もう山を登っている人はいるだろうが、
数はそこまでではないだろう。
俺は携帯を切り、声を上げながら猛を探す。
「猛ー!!!」
この山が霊峰と呼ばれる所以は、神力の豊富さにある。
神力とは神術を使うための力であり、
その力が多ければ多いほど、精霊や神が現世に留まることができ
仕える力も強くなっていく。
あれだけの大量の木霊が飛び交う風景も
神力が豊富なことを示しており、
その力を狙った輩がこの山に入ってくることもある。
悪だくみをした人間や、この霊峰を我が物にしようと企む
悪神など様々であり、
俺の育った八海上杉家はそう言った輩を
真奈美の父親が勤めている神社と連携し、
追い払う役目をになっていた。
森の中を駆けながら携帯で猛に連絡を入れるが
繋がることはない。
(そんな深くまではいけないはず・・・・)
登山用の道には電波塔が整備されており、
もし、猛のように道をそれが者がいても
携帯だけは繋がるようになっている。
そのような状況がつながらないとなると
この一瞬で猛が電波が届かない奥深くまで入り込んだのか。
それとも電波塔が何者かの手によって異常をきたしているか。
どちらにせよ、楓が感じていた異常は
確かに起きている様だった。
「木霊、頼む!!」
木霊にも協力してもらい、猛を探す。
俺だけであれば、楓や真奈美などの応援を待つことが出来るが
戦う術を持たない猛が襲われば
怪我ならまし、下手をすれば殺されるなんてこともある。
それだけは避けたいと必死に声を上げるが返ってくることはない。
「・・・・!!」
どこからか何かがぶつかるような音が聞こえ、
俺はその方向に向かって走り出す。
音が鳴る方向へ近づくにつれ、メキメキと何かが倒されていく音が聞こえてくる。
木霊達が逃げ惑う様に辺りに散っていき、
木々が倒され、森が荒らされていく。
俺も何度かこの森に来た妖怪達と戦ったことがあるが
このようなことが起きたのは初めてだ。
音が鳴る場所に着くが、倒されていない木の後ろに隠れ
様子を伺う。
身を隠しながら音の原因場所を見ると、
そこには血を流し倒れている猛の姿があった。
「ッ・・・・」
思わず声を上げそうになるが
何者かの咆哮が鼓膜に襲い掛かり、声を必死で抑える。
珍しい木霊を探しに行った猛は
声の主に襲われたのだろう。
意識はなく、破れた服の間から見える腕はひどく腫れあがっている。
骨が折れているようだが、命に別状はない。
だが、大きな足音は猛の方へ向かってきており
このままだと命を落としかねないだろう。
「・・・・・・・・」
俺は勇気を振り絞り、目立つように堂々と木の影から姿を現す。
「こいつは・・・・・!!」
森を荒し、猛を襲った化け物。
額からは日本の角を生やし、大きな二つの眼をした巨人。
手には岩で出来た棍棒を手に持ち、
牙の生えた口からは涎をたらし、目は虚ろ。
「鬼・・・・・か。」
目の前にいるのは鬼であるが、様子がおかしい。
地霊として山を守る役割を持つ鬼は
この霊峰でも修行を積む修練者達を見守り、
時には助ける神の様な扱いを受けている。
そしてこの山で鍛錬を積み、神と成った修練者は
長い鼻を持った天狗として、地霊に生まれ変わると言われており
鬼と同等の存在になると言い伝えられてきた。
だが、俺の目の前にいるのは二つ目の鬼。
この山にいる鬼とは姿形が一致しないこの鬼は
地霊とは別のもう一つの側面、地獄の獄卒として
恐れられてきた鬼なのだろう。
音を立てて姿を現した俺を鬼は虚ろな目で視界にとらえると
体を逸らしながら咆哮を上げる。
敵と判断したのだろうが、まともな思考を持っているとは
思えない。
神として崇められることもある鬼は意思疎通ができるほどの
知能を持っている。
ここに居るはずのない地獄の獄卒を召喚した使役者が
何かしらの術を仕掛け、この霊峰に解き放ったとしか
考えられなかった。
(使役者は・・・・)
咆哮を上げている鬼を視界に入れつつも、
辺りを警戒する。
『おらんようじゃ。』
(・・・・・そうですか。)
鬼は棍棒を振りながら俺の方へ走ってくる。
『どうする?奴は意識を失っているぞ?』
札から刀を取りだし、応戦しようとするが
あの棍棒を受け止めては
刃こぼれしてしまうだろう。
「・・・・青さん!!」
俺は使役している式神の名前を呼ぶ。
小さな頃から一緒に過ごしてきて、様々な事を教えてもらってきた
俺の師匠とも、家族とも呼べる式神だ。
棍棒を振り回しながら走ってきていた鬼は
足を止める。
理性がなくとも、本能は残っていたようだ。
「・・・何年振りかの。こうして堂々と姿を現したのは。」
俺の体に寄り添うように巻き付いてきた青さんと呼んだ式神。
地獄の獄卒である鬼を本能で止めてしまうその正体。
「早めにやってしまいましょう。
人の見つかると厄介ですから。」
鉄の様に硬い青い鱗。人を簡単に飲み込めるほどの大きな口と
控えめな大きさだが刃物の様に鋭くとがった牙。
太く、長い胴に口には二本の髭。
「そうしようか。」
俺が召喚したのは龍。伝説上の生き物を
召喚し、鬼と向かい合った。
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