第19話 終わらない懺悔
一人の男性が、神社を訪れる。
年齢は、50代半ばといったところか。
賽銭箱にお金を入れ、そこに正座し、手を合わせながら神様に
「神様、私の息子が自殺して3年。やはり、私は間違っていたのでしょうか。
私は、父に厳しく育てられました。怖い父ではありましたが、私の事を思って
一生懸命育ててくれました。
だから、私は父を心から尊敬し、自分に子供が出来たら厳しくしようと考えていました。
息子が小学校の頃、テストの成績が悪かったので怒りました。
点数は65点でした。
しかし、友達は90点取っていたのです。
私は、息子を叱りました。ゲンコツもしました。
息子はわんわんと泣きました。
しかし、私は男がそれくらいで泣くなと言い、さらにゲンコツをしました。
息子は、さらに大声をあげて泣きました。
妻に止められましたが、私は怒りが収まらず、倉庫に2時間閉じ込めました。
2時間経ったころ、息子は泣き疲れたのか、ヘトヘトの状態でした。
反省している様子が見えなかったので、その日は晩飯を与えませんでした。
息子が中学校の頃、あいつはクラスメイトにイジめられていました。
どうやら、サッカー部に入った同期によるイジメだったようです。
ある日、学校の先生から連絡があり、発覚しました。
私は、そんな息子が情けなく感じました。
確かに、息子は妻に似たのか、とても気の弱い男でした。
ですが私は、息子が少しでも強くなるようにと、徹底的に叱りました。
私は、息子を殴りました。
けっこう強く殴ったと思います。
息子には、そんな連中なんて殴り返せばいいだろと言いました。
息子は、めそめそと泣いていました。
しかし、そんな情けない息子の姿が、私には許せませんでした。
私は、ひたすら息子を殴りました。
そうすれば、息子も強くなってくれると、私は信じておりました。
しかし、息子はただ怯えるばかりで、少しも強くなりません。
妻が何度も私を説得し、妻が息子に話をしていました。
結果的に、学校の対応が良かった事もありイジめは解消されましたが、
私としては、人に頼らず自分で解決出来る息子になってほしかったのです。
高校に進学した息子は、部活に入りました。
中学の時に運動部で嫌な思いをしたせいか、美術部に入りました。
私は、男が文科系の部活なんて女々しくてすごく嫌いだったので、そんな事に時間を割き、部活で遅くなる息子に怒りを向けました。
そんな事をしている暇があるなら、勉強しろと。
高校は、お世辞にも偏差値の高い学校ではありませんでした。
だから、1分1秒でも多く勉強してもらい、少しでも良い大学に入ってもらいたくて、毎日のように厳しく言いつけました。
次第に息子は、私と口をきかなくなりました。
大学へ進学後、息子はアルバイトを始めました。
少しは自立したかなと思っていたのですが、やるバイトやるバイト
すぐに辞めてしまうのでした。
私は、いい加減にしろと叱りました。
しかし、息子は聞く耳を持ちませんでした。
私は、ムカついて息子の顔を殴りました。
すると、息子は私を睨みつけてきました。
憎しみを込めたような目だった事は、今でも忘れません。
大学を卒業した息子は、某製薬会社に入りました。
そこそこ大手の会社だったのでホッとしましたが、
息子はパワハラに遭ってしまい、会社を休むようになりました。
私は息子に、根性無しと言いました。
息子は、今まで私に何かを言い返すような事は一度もなかったのですが、
この時、初めて私に言い返しました。
『あんたに、俺の何が分かるんだよ』
と、息子は言いました。
息子は目に涙を浮かべていました。私に恨みを込めているかのような目をしていました。
私は腹を立ててしまい、うっかり息子に死んでしまえと怒鳴ってしまいました。
そして翌朝、息子は首を吊っていました。
妻は、ショックで寝込みました。
私は、頭の中が真っ白になりました。
その翌年、妻はその時の影響で体が弱くなっていったのか、
旅立ってしまいました。
私は一人となり、今は仕事も辞め、寂しい毎日を送っています。
神様、私は間違っていたのでしょうか?
いったい、何がいけなかったのでしょうか?
私はただ、息子を大事に思っているからこそ、あえて厳しくしました。
息子を愛しているからこそ、つらく当たりました。
ですが、息子には受け取って貰えなかったという事でしょうか。
それとも、息子はそれが理解出来なかっただけでしょうか。
私は、もっと厳しくした方が良かったのでしょうか。
もう、今さら何を考えても遅いのは分かっています。
しかし、何か少しでも解決策があったのであれば、私はそれを知りたい。
そして、私が妻や息子のとこへ行った時、もう一度話し合いたい。
そう思っています」
男は、また来ますと一言残し、家に帰っていった。
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