第40話 テリサバース教会の崩壊①

――国王が困っているのは、簡単に説明するなら『国王を交代させるのならば、テリサバース女神の御威光により、少なからずの金銭と食料を要求する』と言うものでした。

今現在、テリサバース教会の総本山では雷雨続きで作物が育たない為、支援して欲しいと言えば良いものを、これ幸いにと要求して来たらしい。

さらに言えば少なからずの金銭と言うのが中々の金額で、それは総本山の大司教が決めた金額なのかと疑ってしまう金額だった。



「今も昔もテリサバース教会は変わりませんのね」

「と、言いますと?」

「わたくし、一時期テリサバース教会のとある場所で隔離されていましたの。しかも地下ですわよ? 表には滅多に出れませんでしたの」

「なんと……」

「へぇ~…テリサバース教会って監禁もするんだぁ」

「監禁ならテリサバース教会の十八番でしょう? 【ロストテクノロジー】持ちを【危険人物】扱いして教会に集めてますけれど、その中で奴隷様に『教会の為にロストテクノロジーを使ってアイテムを用意しろ』って言ってるのもテリサバース教会ですし」

「それでテリサバース教会の作る物は高いんですね」

「うん、高いねぇ~」

「そもそも神の御威光と言いつつ、過去に色々やってきてますわよ? それをお伝えしたらどうかしら?」



【過去に色々やっている】と言うのがまた古代人形だから知るカードの一つなのでしょうが、一体テリサバース教会は何を隠しているんでしょうね。

そう思っていると、意外な事を口にし出した。



「わたくしが居たテリサバース教会では、当時【最も美しいミイラ】を作る事に専念してましたの。遺体を永遠に美しいままで展示するという悪趣味な物でしたわ」

「遺体を?」

「うそー…。今テリサバース教会はミイラ作りとか禁止にしてるじゃん?」

「1つしか作れなかったから、禁止にしたんですのよ」

「1つしか作れなかったというと?」

「テリサバース教会が、とある【ロストテクノロジー】持ちに作らせた幼女のミイラしか、永遠の美しさを保つことが出来ませんでしたの。無論協会は喜んでもっとミイラを作れとその【ロストテクノロジー】持ちに依頼したようですけれど、『これは彼女の両親に頼まれているからこそ作るのであって、教会の為には作りたくない』と断固拒否。その男性を殺害してますわ」

「「なっ」」



確かに遺体を完璧なミイラに作れる男性を殺せば、その後誰が作るのかと言う問題に差し掛かると思うのだが、テリサバース教会は考えもしなかったのだろうか?



「それからミイラ作りは誰も成功しないから禁止にしましたの。そのミイラを作った【ロストテクノロジー】持ちが特別な知識があっただけで、他の同じ力を持つ者達では作れなかったと言われていますわ。その後、その両親から永遠の美しさを保つミイラを教会の威厳で奪い取り、今もテリサバース教会の総本山で奉っているのだとか。とっても悪趣味だと思いませんこと?」

「だが、それを言った所で『そんなものはない!』と白を切られれば」

「『メデュアナシア様は今もご健在ですか?』って聞いてごらんなさい。恐らく恐怖為さいますわよ」



どうやらそのミイラの名は『メデュアナシア』と言うらしい。

テリサバース教会が奉るたった一人の死後も美しい姿を保つ幼女のミイラ……。

きっと大切に保管されているのだろう。

だが、ミイラ作りを禁止しているのに、そのミイラを持っているというのが他国の王にバレるのは不味い事だというのは俺でも分かる。



「そして、何故その名を知っていると聞かれたらこう答えなさい。『シャルロット・フィズリーから全てを教えて貰った』と」

「なるほど……」

「でも信じますかね?」

「今回の断罪劇にはわたくしの名は轟かせたつもりでしてよ? 信じる、信じないはアナタ方次第では? とでもお返しすればよいのですわ。それでも信じないと、そんなものはないというのでしたら……テリサバース教会の事をわたくしが色々と暴露してさしあげますわよ? とでも脅しを掛けておくと良いですわ。そう……テリサバース教会が一番探している物が何か……それも知っていると伝えれば顔色を青くしますわよ」



そうにこやかに語ったシャルロットに、アンクさんは「ああ、アレの事か」と語り、どうやらアンクさんも知っているようです。



「テリサバース教会が必死に探しているモノ。確かにあるな」

「ええ、在りますでしょう?」

「だが、余りにも現実的ではない。現実的ではないが……」

「昔、一人の娘の心に生まれた事があるそうですわ」

「それは知っている」

「テリサバース教会は彼女を聖女として崇めた。でも、ある日馬車で移動中に突如として姿を消した聖女様……。その後は幾つもの世代を超えて、今は一人の青年の心――箱庭にてそれはありますのよ」

「なんと!!」

「へぇ~~……男が聖女になっちゃうの?」

「その場合、聖者でしょうね。その情報もわたくしは握っていると言えば、嫌でもハルバルディス王国に難癖付けたテリサバース教会は取り下げると思いましてよ?」

「でも、そうなればシャルロットが狙われるだけでは?」



そう俺が問い掛けると、シャルロットはクスクスと笑い、「この施設にはどう足掻いても入れませんわよ」と笑った。

無論その為にはテリサバース教会に俺と繋がりがある事は伏せる事が前提らしいが。



「テリサバース教会は躍起になってわたくしを探すでしょうね。古代人形故に知って欲しくない、覚えていて欲しくない情報なんて幾らでもありますもの」

「確かにな。あの教会はテリサバース女神を信仰しながら、どうにも胡散臭い」

「金の亡者ですわ。アルマティとイルマティを作れと言ったのもテリサバース教会ですし」

「「え!!!」」

「意外と、あの方々、悪事に手を染めてますのよ?」



そう言ってニッコリ笑ったシャルロットに、俺はテリサバース教会がやらかした『賢王亡命』を思い出しました。

悪事に手を染めているテリサバース教会。

金に執着するテリサバース教会。

それを知ったからこそ、『シュライ賢王』は亡命したのではないだろうかと――。



「賢いものならば教会を信じませんわ。女神は信じてもね」

「「……」」

「それが答えでしてよ」



そう語ったシャルロットに、国王陛下とモリシュは呆然とし、俺は小さく溜息を吐いたのだった――。



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