第27話 ローダン侯爵と、王弟殿下による会議……
――ローダン侯爵side――
使えない現国王に変わり仕事をしている王弟殿下の元へと急ぎ、ボルゾンナ遺跡の調査の中止を伝えた。
「信じて貰えないでしょうが」と言う前置きをして、本日あった出来事を伝える。
ボルゾンナ遺跡は人形保護施設であった事。
中には脳だけの人形の元になった【アンク・ヘブライト】様や早々たる面子がいた事。
そして、現王が変わりまともな王になれば、その国王に会う事も視野に入れているという事。
ただし、自分たちは施設から出ないと言っていること等を伝えると、やはり王弟殿下は「是非会って話してみたい」と口に為さった。
但し、条件として【トーマ・シャーロック】を必ず介さねば中に入る事は許されない事や、人数制限、そして護衛を連れてくることは許されない事も伝えると、トーマに興味を持たれたようだ。
「トーマ・シャーロックか」
「はい、あのトトリーマ・シュバル夫妻の孫で御座います」
「シュバル家から名を返されたが、そうか……婿に入ったのか」
「とても愛し合っている夫婦のようです」
「ふむ」
「何せ結婚適齢期でもないのに、適齢期を過ぎそうな女性と結婚してますからね」
「ほう、それは珍しい」
その後はトーマの事を知っている限り話した。
箱庭師である事や、彼の箱庭には魔素溜まりになっていて、シャルロット様が研究している為入る事は許されない事。
人形師のスキルは妻の手伝いで生えて来たらしいが、人形を作る事は出来ないでいるとの事まで話した。
「人形師のスキルが生えて来たのに人形が作れぬとは厄介だな」
「ええ、ですが魔素詰まりや魔素の流れをよくする事が得意なようです。彼はメンテナンスとしてその仕事を請け負っています」
「ならば引く手あまただろうなぁ」
「元人形大臣モリアティの悪事に気づいたのも、トーマです」
「流石はトトリーマ夫妻の孫といったところか」
「ですが以前手元に戻ってきていない人形も多いのも事実……私の力不足です」
「国全体で腐敗が進んでいる……まともな大臣職についている者が少ないのも問題だな。私利私欲、利権絡みばかりだ」
「一掃出来ればいいのですが、全権があるのは……」
「ああ、陛下ならば何時発作が起きるか分からぬと言って部屋からもう一歩も出ていない。王妃様が頑張っているが、側妃様の邪魔が入って上手く事が運ばないようだ」
「側妃様の自由な振る舞いには皆さん頭を抱えていますよ」
そう、このハルバルディス王国は今や王妃様と王弟殿下で持っていると言って過言ではない。
国王陛下と側妃様は部屋から出なければいいが、何かと問題を起こすのだ。
特に側妃様には頭を抱える者たちが多い。王弟殿下も色目を使ってくるが、王弟殿下にとってはいい迷惑以外の何ものでもない。
「いっそ、兄上の発作が起きないかと考えてしまうよ」
「心中お察しします」
「ともあれ、そのトーマに礼を欠かさずにいればいいのだな」
「はい、場所はご案内できるかと」
「そうか……それは助かる」
「モリミア様は毎週土曜の午後に通うそうです」
「おお、モリミアも認められたのか!」
「それもトーマの一言があっての事ですね。ですが基本土日はお休みにしているそうなので、前もって連絡を寄こせば午前中の間に会わせて貰えるそうです」
「では明日にでも朝の朝礼後行ってくることにしよう。考古大臣や皆を集めてくれ。今回大きな収穫があったことを伝えねば」
「畏まりました」
そう言うと大臣たちを集めて緊急集会が行われる事となり、呼び出しから一時間後各大臣たちが集まり、王弟殿下から「ボルゾンナ遺跡にいての新しい情報だ」と伝え、俺からこれまでの経緯を話す。
まさか古代人形が生きているとは思っていなかった者達からは大きな歓声が上がったが、彼らは知能がとても高く、施設から出ることも無い事を告げると「無理やりでも出すべきだ」等と偉そうに口にする大臣たちに冷ややかな目を送る。
「その考えが退化だと仰るかと思いますよ」
「なっ! 我々の考えが退化しているだと!!」
「ええ、人形師が国の定めた魔法陣でのみでいか人形を作れないと言えば、随分と人類は衰退したなと笑われました。人形師は人形師に非ずとね」
「何と無礼な!!」
「いや、確かに一点物を作る人形師の魔法陣と、城の人形師たちが作る魔法陣は若干魔法陣の質が違いますぞ」
「古代人形を作ろうとしている部署での魔法陣は特に緻密だとか」
「簡略化すればいいという問題ではかったと言う訳ですな」
と、今まで人形師の魔法陣は簡略化し、増産すべきだと言う考えだった大臣たちは周囲の声に押されて声が小さくなっていく。
それもそうだろう。
国を衰退させていると言われれば何と答えていいのか分からない筈だ。
「今のままでは応用人形を作る事も不可能だろうと仰っていまいた」
「応用……人形?」
「ええ、その仕事に特化した人形だそうです。人形保護施設にいた人形には古代の軍人人形及び護衛人形に医者の人形。それだけではなく生前アンク・ヘブライトが作り上げた最高峰の人形であるピリポ・ハルディアも居ましたし、脳だけの人形の大元であったそのアンクも居ましたし、シャルロット・フィズリーも」
そう口にすれば早々たる面々に全員が驚き言葉を無くし、更に「人形でありながら人形師であるコウとエミリオもいましたよ」と告げると考古学大臣が立ち上がった。
「そ、そそそそ、そのような夢のような場所に貴殿は行って来たのか!!」
「ええ、ですが、」
「ワシも連れていけ! ワシが交渉してやる!! 施設ではなく王都で生活できるように、」
「それは無理です。彼らはあの施設より出る事は無いと仰っていました」
「ムググ……ならば会わせろ!! 動いている古代人形だぞ!? この目で見なくては!」
「ただ見物したいだけならお辞め下さい。そもそも貴方の態度ではアチラにいって首が胴体から離れる可能性の方が高そうです」
そう脅すと流石に「殺されるのはな……」と少し落ち着いた様子。
それもそうだ、護衛人形に軍の人形がいるのだから此方が下手をすれば殺されても文句は言えない。
「彼らは国の、そして人形師たちのレベルが落ちた事による衰退を大変気にしておられました。脳だけの人形は最早動く事は無いのだから、その分の金を人形師に回して魔法陣を古代に近づけろと仰せです」
「なっ!! 二度と動かないのか? あの遺跡が!?」
「ええ、動くことは無いそうです」
多くの金を得ていた考古大臣は驚き固まり、今後脳だけの人形用の予算は一切渡さない事に決まった。
無論考古学は大事なのでそちらの方で頑張って貰う予定だ。
「陛下が行くことが一番だが、部屋から出てこない……。よって、私が明日面会しに行こうと思う。カティスは私についてくるように」
「はっ!」
「では、ではワシも着いて行かせて下さい。決して無礼な行いは致しません!」
そう言ったのは先ほどの考古学大臣――ロンダ・フォッツァーだった。
とある青年にも礼儀を欠いてはならないが大丈夫かと聞くと、それが条件だというのならと言う事で、明日三人で行くことになった。
きっと自分が衰退させたという言葉を撤回して貰いたいのだろうが、あの面子を前にしてボロボロに言われるのがオチなのだがな。
そう溜息を小さいく吐きつつも、その後魔道具でトーマに連絡を行い、明日朝息子のモリシュ経由でそちらに向かう事を伝え、ようやく纏まる事が出来た次の日――。
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