第26話 容赦ない古代人形達による現代への叱責が飛び交いつつも、何とか交渉は成功したようだった。

 そして、此処が【ボルゾンナ遺跡】ではなく【人形保護施設】であることも伝えると、とても驚いていた。

 今の時代の人形は長くて20年しか動かない事を俺から聞いていた為、「人形に何故寿命を付けたのかは謎だな」と口にし、応用人形、つまり専属の人形の少なさにも苦言をしていた。

 また声帯を作られない人形の多さにも憤りを感じていた様で、「我々人形は人形師から作られるが奴隷ではない」と口にし、二人はとても怯えていた。



「現代の人形の在り方はまるで奴隷だな。そんな現世になった理由を聞きたい」

「はい、人形師は国が管理すると言う決まりがあるのです」

「国が管理? 確かに俺達の時代でも国が管理していたが、そんなに質の悪い人形師しかいないのか?」

「ミルキィと話し合っていたんだが、国が保管して許可を出している人形を動かす為の魔法陣が、古代の魔法陣とは随分と違うんですよ」

「何故だ。効率よく一人で回せるようにと当時の人形師達が作り上げた最高の魔法陣だろう?」

「それを改悪したのが国なんです。自分たちがよりよく管理する為に劣化版の魔法陣を作り上げ、魔素を入れ込む作業も数人掛かり、もしくは一人でやるなら日数を掛けて早くて3日も掛かります」

「「「「馬鹿だな」」」」

「馬鹿だと思います。それに、そもそも応用人形を作れる人間がいないんですよ」



 そう俺が言うと流石のアンク達も驚いたようで、「応用人形が作れない馬鹿な人形師しかいないのか」と口にし、二人は「応用人形?」と聞いたことのない言葉だったのか首を傾げている。



「恐らく、応用人形を作る為の魔法陣すらないかと」

「馬鹿な! 現代の人間達は阿呆なのか!?」

「国が阿呆なんですよ。老害たちは自分達さえよければと考えているでしょうし、後先の事なんて知った事かと言う感じなんでしょうね」

「本当にクソみたいな世の中になっちまったんだなぁ」

「現代の人形は抑揚なく喋りますし、心があるようでも声帯を作られない人形が殆どなので喋れません。辛うじて綺麗に喋るのは弟妹人形ですが、人形は無駄口叩いてないで仕事をしろ。と言うのが現代の状態です」

「「奴隷だな」」

「奴隷と一緒だな」

「また、寿命は国が決めており、5年から最長20年とされています」

「は――……本当に国が馬鹿なんだな」

「どうせ古代の魔法陣の作り方も失われているんだろう?」

「どうなんですか? ローダン侯爵」



 急に話を振られて驚いていたローダン侯爵様だったが「古代人形を作ろうと頑張っている部署はある」と教えてくれた。

 だが結果は芳しくないらしい。



「余りにも緻密すぎて魔法陣を作れる者がほんの僅かしかおらず、緻密すぎて途中で魔法陣を保つことが出来なくなってしまうんだ」

「うっそでー? マジかよ」

「古代人たちはそれが当たり前だったんだがな。緻密さを練り上げて、最高傑作を作ろうとしていたのが古代人の人形師達だ。今の人形師たちは随分と飼いなさらされたペットの様なものなんだな」

「呆れて言葉もでねぇな。人類が衰退するのも分かるわ」

「返す言葉も御座いません」

「つまり、その緻密な魔法陣自体が、今でいう【ロストテクノロジー】でもある訳か」

「使えるならチートって言われてるアレか」

「なるほどねぇ」



 そう言って人形達がチラリと俺を見たが、俺は涼しい表情で茶を飲んでいた。

 俺の方から人形師とは絶対に語らないと決めているからですが、そんなチートが使えるのに人形の性格は完全ランダム、完璧には俺でも作れないのです。



「脳だけの人形に予算をつぎ込む無駄な金があるなら、国のお抱え人形師に古代魔法陣を覚えさせた方が金の有効活用だな」

「その上で応用活用の人形作成ですかね」

「それと、アルマティとイルマティは即刻処分。これは絶対ですわ」

「出来ればあなた方とは色々とお話をしながら事を進めていきたいのですが……」

「俺もです! 色々と勉強させて頂きたい!」



 そう二人が告げると、アンクとピリポは暫く考え込んだ後、ローダン侯爵には「何かしらの成果を出せば許可を出さないことも無い」と伝え、モリミアに関しては「トーマと共に来るのなら許そう」と許可を出した。



「もし仮に、国のトップが変わる事があれば、相手次第だが会話をする余地はある」

「「本当ですか!?」」

「無論俺達はこの施設から出る気はない。トーマの箱庭経由で来るといい。だがゾロゾロ凝られても困るから最高呼べるのはトーマを除いて3人まで。トーマ本人に礼儀を持たない者は入れん。トーマ、いいよな」

「まぁそれくらいなら」

「後は有象無象にいる外の連中を引き下げろ。俺達は奴等と会話する気はない」

「畏まりました」

「俺も仕事をしているので、前もって連絡があると助かります」

「では、彼等との連絡を取れる唯一の人間として、国で給金を出そう。彼等と話したがっている人で尊い方がいる筈だからな」

「それでも毎日は無理ですよ? 俺も人形達のメンテナンスしないといけませんから、午前なら時間は開けます」

「分かった、それでいい」



 そう強気に出ると了承し得て貰えたので良かった。

 こうして我が家経由で此処に来ることも決まり、食料関係も我が家経由で運ぶことも決まり、ホッと安堵したが――。



「もしトーマ君にアレコレ言う人間がいたら名を教えてくれ。即罰する事にする」

「お願いします」

「あの、週一でいいから古代の事を色々と教えて頂きたい! 駄目でしょうか!」

「どうするトーマ」

「まぁ、モリミアには今後も頑張って貰いたいので構いません。俺も一応仕事休みに土の曜日と日の曜日は貰っているので、土の曜日の午後からならいいですよ」

「ありがたい!」



 ――と、こうして今後は連絡を受けて我が家から、と言う事になった。

 最高人数は俺を省いて3人まで。

 護衛は付けない事も組み込まれた。

 運ばれた食料に関しては、一旦俺の箱庭で寝かせてから運ぶことも決まり、箱庭には今ヤギと鶏を飼っていることを告げると、豚と牛も飼えないかと言われたので、時間をくれと伝えた。



「トーマの箱庭は素晴らしくてよ。魔素が充分にありますもの。私たちはそれぞれ魔素のある場所でしたら自分たちで魔素を吸収する事が可能ですの。だから身体がイマイチなんて感じた時はトーマの庭でお茶なんてしてると落ち着きますわね」

「そうなのかトーマ」

「ええ、魔素が多いのでそこで育った野菜等を食べると魔素を吸収できるそうなんです」

「普通一般で作った人形もそうなのだろうか?」

「マリシア、どうなんだ?」

「ん――。私には当たり前すぎてわからないねぇ。ただ、外で貰った野菜とトーマの庭で収穫した野菜とじゃ全く貰える魔素は違うのは分る」

「今と昔とでは、存在する魔素の量が違うんだと思いますわ。トーマの庭はいわば魔素溜まりと言うべきかしら」

「「「魔素溜まり」」」

「普通そういう所だとモンスターとか沸くんですけれど、アレが生えてますものね……だから同じ魔素でも清き魔素と言うことになりますわね」

「ああ、なるほど」



 ――世界樹。

 あれがあるからこそ魔素溜まりでモンスターが沸くのではなく、聖なる土地として魔素も清らかなんだろう。



「トーマの箱庭にも興味が沸いたな。だが見られるのは好きじゃないんだろう?」

「そうですね。少々困ります」

「ほほほほ。わたくしも研究の一環で行ってますから邪魔されるのは好きではないわ?」

「「箱庭には入りません」」



 こうして俺の箱庭はシャルロットのお陰で守られた。

 それから暫く会話をした後、ローダン侯爵様は城に戻って緊急会議を開く事を伝え、それと同時に外にいる考古学者たちを引き下げると言う約束もしてくれた。

 これにはホッと一安心と言った所だろうか。



「朝の僅かな時間でもいいので毎回頼む事にはなりそうだが……トーマ君、よろしく頼む」「はい、わかりました。土日は休ませてください」

「ああ、分った」

「土曜の午後でしたらまだいいんですが」

「うむ、その事も伝えよう」

「では、話は以上だな。後は城に持ち帰って話を纏めるといい。再度言うが俺達は外に出る気はない。来るならそちらからだ」

「分かりました」



 こうして保護施設に人形達も外に出る気はない事を伝え、纏まった所で外の扉から初めて外に出て見送りに来てくれたダーリンさんとシャルロットさんに御礼を言って扉は閉められた。

 ワッと集まってきた考古学者たちだったが――。



「今日よりボルゾンナ遺跡の調査を中止るとする!! 今後近寄る事なきように!!」

「な、それはあんまりです!!」

「中に入れさせてください!!」

「人形達がそれを望んではいない。その一任はモリミアとトーマに託された」



 その一言で殺意ある視線が飛んできたが、こればかりは仕方ないだろう。



「モリミア様……トーマとか言ったか? 纏めた本は出すんだろうな!!」

「そうですよ!! 我々にも知識を下さい!!」

「本をお出しするのも学会で発表するのもモリミア様に任せます」

「いやいや、トーマも参加しような?」

「ええええ……」

「モリシュの箱庭経由なら直ぐだ」

「王都には行きたくないんですけど……碌な事にならないのでモリミアさんにお任せしまうすよ。田舎者は田舎にこもってこそナンボでしょう」

「……分かった。学会には俺が出るが本は出してくれ。それでいいか?」

「それくらいなら構いませんよ。印刷所を紹介してくださいね」

「ああ、心得た」



 こうして話は纏まり、取り敢えず【アルマティとイルマティの危険性について】のノートを先だって本にする事が決まり、俺も少し忙しくなりそうです。

 その後ボルゾンナ遺跡の調査は中止され、俺達は馬車に揺られて帰り、今日はもう訪問者はいないだろうと言う事でホッと家に戻り、箱庭に帰り皆さんに労われたその頃――。




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