舞台裏(騎士エドワード視点)
ぐら、と男の体が傾いた。そのまま力なく地面に崩れ落ちる。
大きく切り裂かれた胴体を中心に、ゆっくりと血だまりが広がっていった。
「エドワード、それで最後ですか?」
振り返ると、メイスを手にした神官ユリアンがやってきた。彼の武器もまた俺の剣同様に血で汚れていた。
「俺の担当分は。あと……」
「こっちも片付いた」
ユリアンとは別方向から、魔法使いスカルが現れる。彼が手にしている杖にも、先ほどまでの戦闘の名残があった。
俺は地面に転がっている男の体を、足で転がす。
「服はありふれた安物。装備にも身元を示すものはナシ……玄人の暗殺者だな」
「ここ数日で数が増えましたね」
彼らのねらいは、全部同じ。
ウィルヘルム陛下だ。
雇い主はよほど裕福なのか、金に糸目をつけず、次から次へと暗殺者を送り込んでくる。アレックスが昼も夜もまとわりついて警戒してなければ、とっくの昔に殺されていただろう。
死体を見下ろして、スカルが首をかしげる。
「
「聡い方ですからね、暗殺者自体は気が付いていると思いますよ。もちろん、黒幕が誰なのかも」
苦笑するユリアンに、ますますスカルが不思議そうな顔になる。
「だったらどうして」
「アレックスが『まだもうしばらくは、知らなかったことにさせてあげたい』と言うものですから」
「陛下は王だ。報告されたが最後、対処を迫られることになる。正式に気が付かないうちに相手を諦めさせたいんだろう」
「そこまで気を遣って守って尽くしておいて……アレックスはどうして陛下のプロポーズを受けないんだ」
仲間から聞いてやっとアレックスと陛下の関係を知ったスカルは顔をしかめる。そこには、『理解不能』と大きく書いてあった。
「俺は、ちょっとわかるかな」
剣の血をふいて、鞘におさめる。
この死体はジオネル伯にも報告できないから、秘密裡に処分しなければ。
「そばにつくようになって気が付いたが、陛下は、根っからの王族なんだ。だから、民や部下のことはよく注意して見てても、自分のことにはまったく頓着しない」
「ご自分の体も、伴侶の座も、必要と判断すれば、簡単にあげてしまうお方ですからね」
「でも、アレックスがほしいのって、そういうのじゃないだろ」
行動が破天荒なせいでわかりづらいが、あいつはあいつで、恋する乙女なのだ。
陛下に求めるものが違う。
そして、陛下に与えたいものも。
「わかってくれると、いいんだが」
こればっかりは外野がアドバイスできない。
なりゆきを見守るしかないだろう。
うまくいくと信じたいが、相手はアレックスである。何をしでかすか知れたものではない。
俺は祈るような気持ちで空をふりあおいだ。
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