王×勇。魔王を討伐した女勇者に童貞を要求された国王ですが、求婚したら断られました。なんでだ。

タカば

求婚拒否勇者

 その日、俺は肌寒さで目が覚めた。

 寒い。肩から腕が冷たい空気にさらされて冷えている。それなのに、胸には何か温かいものが触れていて、そこだけぬくい。

 なんだこれ。

 どういう状況だ。

 体全体がだるくて思考がまとまらない。

 どうにかこうにか、重い瞼をもちあげてみたら、目の前にイケメンの寝顔があった。


「……?!」


 朝日を受けてきらきらと輝く金の髪に金のまつ毛。すんなりと通った鼻筋に、柔らかそうな珊瑚色の唇。天使画顔負けの、極上の美がそこにあった。

 イケメンはシーツの端から素肌の肩をさらしている。その上に乗せられた俺の腕も素肌だ。腕が寒いのは俺もイケメンも裸だからであり、胸が暖かいのは腕の中にイケメンを抱きかかえているからだとわかった。

 なんだこれ。

 どういう状況だ。

 状況を把握しようと思って目をあけたのに、さらにわからなくなった。

 このイケメンが何者なのかは知っている。

 名前はアレックス。

 長く王国を苦しめてきた魔族の多くを討伐し、ついに『門の魔王』を討ち果たした勇者様である。アレックスに魔王討伐を命じたのは他でもない、国王の俺だ。重責を負わせた相手を間違えたりはしない。

 なぜ救国の英雄が俺の腕の中にいるのか。

 昨夜の記憶を掘り起こそうと必死に思考していると、人の気配に気が付いたのかアレックスが目を覚ました。長いまつ毛に縁どられたまぶたが開き、澄んだエメラルドグリーンの瞳が姿をあらわす。

 アレックスは俺の姿を認めて、とろけるような笑顔を向けてきた。


「陛下……おはようございます」


 寝顔の時点で極上の美を誇るイケメンである。

 笑いかけてきたら、そりゃー美しいに決まっている。

 なんだこのキレイな生き物。つうか、寝起きで気が抜けてるせいで表情がめちゃくちゃかわいいとかどうなんだ。いやいやいやいや、見とれてる場合じゃなくてだな。


「ええと」


 なんと言葉をかけていいかわからず、間抜けな声だけが口からこぼれる。

 ずっと相手を抱えたままだったことに気が付いた俺は、慌てて腕を離した。ずる、とシーツがズレてアレックスの肢体があらわになる。


「あ」


 ぱっとアレックスの顔が赤くなる。

 そこにあったのは、女の体だった。

 張りのある胸、細い腰。

 そうだ、思い出した。

 こいつのフルネームは「アレキサンドラ」。れっきとした女だ。

 背が高くて手足が長くて鎧着て剣さげて歩いてるから男に見えるだけで。

 俺は昨日、こいつに魔王討伐の褒美として童貞をねだられて、求められるまま共に一夜を過ごしたのだ。

 つうかお前も処女だったよな?

 どう見ても初めての反応だったよな?

 女がなんてものを褒美に欲しがってんだよ!

 与えた俺も俺だが!

 求められたからといって、勇者(女)に手を出すなど、一国を預かる王としてあるまじき行動である。だいぶ取り返しがつかない。


(しかし……)


 やったことはやったこと。

 自分の行動に責任をとるのも国王の仕事だ。

 昨夜の一件は正直勢いまかせだったが、覚悟がまったくなかったわけじゃない。


「アレキサンドラ」


 俺は彼女の体にシーツをかけなおしながら、声をかける。


「お前、王妃になるか?」

「は?」


 アレックスはぽかんとした顔になった。


「昨夜お前が言った通り、俺は必ず結婚しなくてはならない。王妃が必要だ。それに救国の英雄である勇者をこのまま放り出すわけにもいかない。お前が王妃になるのが一番いい」


 俺はもう一度、覚悟を決めて提案する。


「アレキサンドラ、王妃にならないか」


 アレックスはにっこり、とふたたび極上の笑みを浮かべて


「嫌です」


 きっぱり断った。



「は?!」


 なんでだよ!!!!!!

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