第26話 スキルの検証

その日の夜、野営地で食事を取りながら先ほどのスキルの件について話しをしていた。

「せっかく得たスキルだし試してみたいところだけど、カサネさんは使ってない魔法とかはないか?」

「使ってない魔法ですか・・・う~ん。一応代用の利く魔法ならディグですかね」

「それってどんな魔法?」

「地面を掘る魔法ですね。普段は使いませんし道具さえあれば代用はできると思うので」

「なるほど。とりあえず、交換対象の交渉が完了しなければ交換されないと思うからそこまで試してみても良いか?」

「交渉まで、ですか。分かりました。アキツグさんを信じます」

「ありがとう。それじゃぁ、君の魔法ディグと交換したい」

「・・・・・・さっきの同意確認の声は聞こえないですね」

「あれ?これじゃダメなのか。カサネさんはさっき条件を満たしたはずだから、これで行けると思ったんだけど。てことは魔法ごとに何か条件があるとか?」

「かもしれませんね。ディグも使ってみましょうか?さっきはアイシクルアロ-を使った後に同意確認の声が聞こえましたし」

「そうだな。頼む」


カサネはまた杖を取り出すと今度はそれを地面に向けた。


「ディグ」


その言葉に応えるように杖が指していた地面に穴が開いていく。


「便利なものだな。そういえば詠唱とかは必要ないのか?魔法って詠唱とか魔法陣とか必要なイメージだったけど」

「高度な魔法になると必要になりますね。私が使っている魔法も詠唱した方が精度や威力が上がるんですけど、普段は速度重視で詠唱破棄しています」

「へぇ。そんなこともできるのか」

「あ、同意確認の声が聞こえました。アキツグさんが実際にその魔法を見るのが条件に含まれているみたいですね。それでは、同意・・・します!」


「「相手が魔法ディグの交換に同意しました。交換対象を提示することで交渉が可能です」」


カサネさんが同意すると俺にも交換交渉の声が聞こえてきた。

こういう感じになるのか。やはり順序が気にはなるが、そちらは一旦置いておいて

彼女に手持ちで高そうな品を一通り提示する。


「今持っているのはこのくらいだけど、どれなら交換して貰える?」

「う~ん・・・交換するとしたら、これかこれですかね」


彼女が指定したのは姿隠のマントと消音のブーツだった。

当然ながら提示した中で最も高い二つである。

やはりそうなるか・・・予想していたが、なかなか厳しい現実だった。

今までの経験から基本的に交換レートは俺に有利になるはず。その上でこの結果になったのは好感度もあるだろうが、彼女がディグを必要としている(需要が高い)ことが大きいのだろう。使わないと言っても大事な魔法である。相応に対価の要求値が高くなることは予想できていた。

と、そこで一つ思いつく。


「ちなみにハイドキャットの言語は交換対象として提示できるか?」

『むっ。アキツグは私と話せなくなっても良いってこと?』

「ち、違うって。知識も交換の対象になるのかを知りたいだけで実際に交換したりはしないよ」

「ふふっ。選択肢にはなるみたいですよ。選択するにはこちら側の価値が足りないみたいですけど」

「そ、そうか。こっちから提示しておいて、追加しろって言うのもどうかと思うけど、それも交渉のうちだからな」

「そうですね。ふふっ」


カサネは楽しそうに笑っている。不機嫌そうだったロシェもカサネの発言に満足したのか丸くなって転寝に戻った。


「知識の件はともかく、交換に同意してくれたカサネさんでもこれだと、その魔法を必要としている人に交換して貰うのはほぼ無理と考えたほうが良さそうだな」

「そうですね。というか、よくそんな魔道具持ってましたね。超高級品じゃないですか」

「あぁ。これはカルヘルドである魔道具研究員の依頼を受けた時の報酬でな」


そういって、依頼の経緯を説明した。


「そんなことがあったんですか。言われてみれば、アキツグさん食事の支払いも物々交換でしてましたね」

「やっぱりスキルのことを知ると物々交換のことにも気づけるんだな」

「あの時は不自然に感じませんでしたけど、スキルのことを知った後だと良く相手に拒否されないなと思ってしまいますね」

「ほんとにな。さて、本当なら交換した後で戻せるのかとかも知りたいところだけど、流石にリスクが高いしそっちは今後機会があることに期待するか」

「・・・良いですよ。交換しても」

「えっ?いや、でも戻せなかった時に後悔しないか?」

「絶対しないと言えば嘘になりますけど、ディグなら仮に使えなくなっても戦闘面で影響することは少ないですから」


有難い申し出だけど、どうしたものか。

交換が成立する以上、同じ内容で交換できないということはないと思うのだが、絶対とは言い切れない。でも、この機会を逃したら次はいつになるか分からないしなぁ。


「それじゃ、頼んでも良いか?もし返せなかった時はできる限り代替になる方法を探すから」

「そこまで気にして下さるだけで十分です。それにその場合は対価として私もどちらかの魔道具を貰うことになりますよ?アキツグさんは大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ。それじゃ交換しよう」

「はい」


お互いの意思を確認すると、消音のブーツがカサネさんの手に渡り、俺は魔法を得られた感覚があった。

念のため能力を確認してみる。


--------------------------------

スキル:わらしべ超者Lv5

(解放条件:特定条件下で相手が交換に同意する)

自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。

自分の持ち物と各種サービスを交換してもらうことができる。 

手持ちの商品を望む人に出会える。

条件を満たした相手と知識を交換できる。ただし相手からその知識は失われない。

 ※相手が同意したもののみが対象となる。

条件を満たした相手と魔法を交換できる。相手が交換に同意した場合、相応の代価を交換材料として交渉できる。


交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。

スキル効果により金銭での取引、交換はできない。


魔法:ディグLv3


--------------------------------


うん。確かに増えている。Lvが3なのはカサネさんのを引き継いだからだろうか?


「カサネさん、ディグのレベルっていくつだった?」

「3です。もしかしてレベルも引き継げたんですか?」

「どうやらそうみたいだ。なんかずるい気もするけど、高レベルの魔法なんてそれこそ交換して貰えないだろうな」

「確かにそうですね。レベルが高いってことはそれだけ使い込んで経験を積んだってことですから」

「だよな。確認もできたし、もう一度交換できるか試してみよう」


結論からいうと、魔法の再交換は問題なくできた。但し、カサネさんにディグが戻ると魔法の交換が制限され一時的に使えない状態になった。

頻繁に魔法の交換をすることなんてないだろうから、特に気にならない内容ではあるがこの辺のスキルの仕様を確認できたのは収穫だった。


「とりあえず、ちゃんと魔法を返すことができて良かったよ。それにスキルについて色々理解を深めることができた。カサネさん、協力してくれてありがとう。本当に助かったよ」

「いえいえ。お役に立てて良かったです。ちなみに私からも一つ提案してみて良いですか?知識同士の交換の場合は無くならないんですよね?ハイドキャットの言語と私が持っている魔法の基礎知識とかで交換できないでしょうか?これだけで魔法が使えるようになるというものではないですが、今後魔法が使えるようになった時に魔力の扱い方や制御方法の役に立つと思うんですが」


「「相手が魔法の基礎知識の交換に同意しました。ハイドキャットの言語と交換可能です」」


「お、交換できるみたいだ。俺にとっても有難い話だし交渉成立だな」

「言ってみた甲斐がありました。交渉成立ですね。ロシェッテさん、さっそく何か話してみて貰っても良いですか?」

『・・・あなた達、もう夜も遅いわよ。いい加減寝なさい』


言われて気が付くと辺りは既に真っ暗だった。

二人でロシェに謝って、その日は交代で眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る