【KAC20243】パパ上様日記 ~我が実家の箱~
ともはっと
第一話:パパ上、実家に降り立つ
私ことパパ上の実家は、独立国家富山王国にある。
どこにあるかと言ってしまうと身バレするのであえて言わないが、まあ、なかなかに田舎である。
どれくらい田舎かと言えば、そらもう、すぐそばに立山連峰が聳え立ち、天気のいい日なんてその山の中腹にあったりする家々が見えたりするほどには田舎である。
分かるかい?
圧迫感があるようにも感じるけども、それ以上に山々の大森林の自然に圧倒される。それが毎日そこにあるのだ。
当たり前にそこにあるから当たり前の光景であって、そこに感動を覚えることもない。
だけども、私が帰省したときに一緒にセットでついてくる我が家の家族は、みんなその光景を見て圧倒される。
何度見ても凄い、と、必ずその山々を見ては言葉を失いじっと見つめ続けるのだ。
まー、何が面白いのかね、なんて思うけども、富津はチーバ君のつぃんこでおなじみの千葉県住まいのほうが長くなってしまった私も、久しぶりに帰ったらそう思うようになるのかもしれない。
なお、そんな私は、つぃんこ住まいではない。なぜいきなり暴言吐いたのかと、自分で自分を不思議がっているところではある。
富津市民の方々、誠に申し訳ございません。
さ、怒られる前に
ある日、そんな富山王国に凱旋した私達一家。
高速道路を使って車の旅。山々は雪化粧をする冬の頃。
実家の駐車場兼庭に車を突っ込ませて止め、昔はこの庭で魔法陣書いたなぁとか思いつつ、計9時間ほどの自動車の旅を終えてゆっくりしたい私の耳に届いたのは大婆様の声。それこそ、ナウ〇カでジルをジルられた時にも傍にいたはずの大婆様なみの、我が家が誇る大婆様だ。
「よぅきたねぇ、ゆっくりしてかれ」
そこで違和感。すぐに分かった。
あ、これ、私のこと忘れてるわ。と。
覚えてるときは、あんたようきたねぇ、の後必ず私の名前を呼んでいた大婆様。私の子供らのことも忘れているのだから、つまり大婆様にとって私たちは、誰かの知り合いが泊まりに来た程度の認識なのだろう。
流石に102歳という高齢にもなると、物忘れも激しいものである。何年も会っていなかったのだから仕方ない。
仕方ないなんて思いながらしょぼーんと軽く落ち込む私は、私の部屋へとい――
「……おかしい。ここは私の部屋のはず」
ない。私の部屋は、今は実姉とその娘の部屋と成り果てていた。
ほとんど見たことはある間取りだけど、ちょっと知らない荷物があったりする状態だった。それこそ、実兄と実姉も使い続けた、子供用のタンスだってそこに置いてある。ピアノだってあるんだぜ。調律? もう何年やってないんだこのピアノ。
18畳くらいの部屋なのにそんなもんが置いてあるから狭く感じる。けど、昔は更に二段ベッドがここに置いてあって、私の勉強机も置いてあった。それらがなくなったと考えると広く使えるようになったのだなと思うとともに、ちっちゃな頃の私はそこでのびのびと過ごしていたのだから、子供にどんだけ広い部屋与えているのかと今にして思う。
部屋中央の屋根からぶら下がった、柔らかいオレンジ色の光を放つ、異世界風のシャンデリアに照らされたピアノを懐かしそうに(使ったことないけど)指でつつっと撫ででみると、指先につくのは白い埃。
……おい。本当にどんだけ整備してないんだこれ。
しかしそんなことは今はどうでもいい。
部屋がないのだ。私たちはどこで寝泊まりすればいいのか。
なんてこった、仏壇の間だと……!?
「いやあんた、里帰りしてるときは仏壇のとこで私達と寝泊まりしてるでしょ。何をいまさら」
「こういったらこの部屋使えるかなって。だってここ、元々は私の部屋だし」
「毎回それやるのやめなっ! 義姉さんが笑ってるけど、どこうともしないとこみて理解しなっ!」
大婆様なみに忘れたことにしようとした私ではあるが、私が凱旋したときは20畳ほどの仏壇の間で仏壇と共にお泊りをしているので、今にはじまったことではない。
仏壇の間は広い。そこに家族四人使わせてもらっているのだ。
困るのは朝だけ。
朝、仏壇のとこで大婆様がお経唱えるんだよ。それ聞いて目覚ますんだよ私達。
そりゃ般若心経全部覚えるっての。
とりあえず、そんなことを言って私を陥れた妻のティモシーの脇腹に、「ぶんっ」と口から効果音と共に、エアーライトセーバーで刺したふりをすると、「うっ」と脇腹に衝撃を受けたティモシーが呻いたのでそれでよしとすることにしよう。
まあ、それはそれとして。
息子たちが実姉の娘と出会うと、ちょっとした我が家の探検が始まる。
何もない田舎なので暇なのもあるけど、特に娘のチェジュンと実姉娘ことアネムスは、きゃっきゃうふふと探検するわけだ。え、息子のセバス? あいつはスマホに夢中だ。娘たちと仲良く遊ぶには大きくなりすぎたのさ。
「ねーねー、ままー」
「ぉう。パパだけどどうした」
「この部屋の奥、なにがあるのー?」
チェジュンが指差したのは、元私の部屋の奥。その奥には、なぜか高級な、昔ながらの意匠の曇りガラスの引き戸があった。
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