ガチムチ系配信者、ムチムチ系配信者になってしまう

望月しらす

第一章

第1話 ガチムチがムチムチに至るまで

 今から、三十年ほど前にダンジョンは現れた。人類に多大な被害を与え、しかし摩訶不思議で希少な資源を産出する。いまだダンジョン関連のことは判明していないことばかりで、でも一獲千金を求めて探索者になる人は後を絶たない。


 俺もいわゆる探索者というやつで、ダンジョン産の資源や、なかに現れるモンスターの素材などを売りさばいてそれを収入としている。


 あとそれとは別にダンジョンを探索する様子を配信する迷宮配信者としても活動している。探索一本に集中するべきなのだが、昔親友と迷宮配信者として活動していた名残でソロとなった今も迷宮配信者としての活動は続けている。


 さて……そんなことよりも俺は現実逃避をやめてコイツと向きなわなければならないな。


 3mほどの巨体に六つの剛腕。深紅の瞳は尋常じゃないレベルの圧を放っていて並みの探索者だと人にらみで逝ってしまいそうだ。


 大阪の堺市にあるダンジョンの探索中に偶然発見した未知のエリア。安全第一でモンスターを順調に屠っていってたどり着いたのはボス部屋で、六腕のミノタウロスがそこには待ち受けていた。


 見たら分かる。確実に格上だ。……それも万が一すら存在しないくらいの格上だろう。


 でも、こんなところで死にたくない。先日ようやく上級の探索者として認められたばかりなのだ。やり残したことがたくさんあるし、交わした約束もまだ守れていないのだ。


 昔親友とバディを組んでいた頃、突然俺はバディの解散を申し出た。


 家が隣で幼馴染。アイツは何をやらせてもすぐに熟してこなす天才だったがそれゆえに苦しんでいた。そんなアイツに必死に食らいついて馬鹿みたいにあらゆる分野で追い縋ろうとした俺に悩みを打ち明け、心を開いてくれた。


 ダンジョンが現れても新しい競争の場としてお互いを高めあっていた……つもりであった。バディで配信をしていた頃、こんなコメントを見てしまうまでは。


『なんでもっと難しいダンジョンに挑まないの?』


 俺たち二人の探索の様子は毎回順調なものであった。危険なシーンもなく、不注意による事故やイレギュラーの発生による死亡でグロテスクな映像を垂れ流すこともない。安心して見られるダンジョン配信者としてそこそこの人気を誇っていた。


 俺はその時初めて気がついた。二人で力を合わせて探索していたつもりだったけど、何度かイレギュラーなモンスターが発生して死を覚悟した時、解決したのはほぼアイツの独力だった。


 その事実はとっくの前に視聴者も気づけたはずだ。では、なぜ誰も気づいていないのか。


 ……それはアイツが調整していたからだ。アイツが俺に活躍の機会を与え、映えない動きで個性を殺す。そうすることで俺にも注目をいかせてそこそこ人気の配信の完成だ。


 俺も視聴者も、みんなアイツの掌の上で操られていた。でもそれは孤独を恐れるがゆえのものだ。それは分かっていた……分かっていたんだ。


 俺は耐えられなかった。もっと難しいダンジョンにだって挑めるアイツの力を俺という枷が抑えてしまっている。アイツと俺の関係はもはや対等なライバルではなかった。その事実に耐えられなかったのだ。


 そうして俺はバディの解散を申し出た。そしていつか絶対に追いついてまたバディを組もうなどと約束を交わした。アイツも俺もどこかそんな日は来ないことを悟りながらそれぞれの道を歩むことになった。


 今じゃどうだ。アイツは日本一の迷宮探索者で俺は中堅。ようやく上級入りしたと思えば未探索域に先走って命の危機に瀕している。


 あぁ惨めだ。こんな自分が。安全を第一に探索をしていたくせに上級になった途端になんでもないフリをして浮かれていやがった。


 だが、こんな時になって気づくのだ。安全第一にしてアイツに追いつける訳がなかったのだと。


 アイツが心を開いてくれた俺は、馬鹿者だった。アイツに勝つためなら反則上等で剣道で喉を狙っていたし、陰気臭い表情しか見せないアイツのために覚えたての知識で危ない実験を行ってしこたま怒られた。近所の山で頂上から下山する際に勝手に競争と称して猛ダッシュで下ろうとして盛大に転んだ。全治3ヶ月の大怪我だった。


 俺はそんな馬鹿者だった……しかしそんな俺にアイツは心を開いたのだ。


 それに比べてダンジョンが現れてからの俺はどうだ。毎日のように更新される迷宮での死者数や行方不明者数、目の前の明らかな危険にビビって安全第一が口癖になった。


 そんな俺の意見をアイツは尊重したのだろう。二人でも絶対安全に生きて帰られるように手を回してくれていたのだろう。


 でもそれじゃダメだったんだ。アイツは陰気臭い顔をまたするようになっていたんだ。俺のために力を持て余していたんだ。


 なら、するべきことは盛大に振り回してやることだった。


 それに、この状況では安全なんてありゃしない。逃げても追いつかれるなら、危険を冒してでも挑んでやる。


 もし大逆転があったなら、それからは盛大で大馬鹿な大冒険をしよう。リスクを背負ってやりたいようにやってやろう。大馬鹿者であった俺にならできるはずだ。


 だから今は、目の前のコイツをどうにかしてやろう。見ていろよ視聴者共。今までの俺の堅実さのけの字もない……無茶苦茶な戦いを見せてやる。




 ***




 そうして俺は死力を尽くしてミノタウロスに挑んだ。何度も剛腕に被弾したがその度に魂を励起させ、渾身の一撃を放ち続けた。


 そして今……俺の目の前にはボス部屋の天井があった。横には、生き絶えたミノタウロスの代わりに宝箱。俺は戦いに勝利したのだ。


 まぁ身体はボロボロだしこのまま地上に戻れるかも怪しいくらい精魂尽き果てた状態だけどな。


 しかし、俺も探索者だ。こんな時でもお宝には目が眩んでしまう。


 そうして俺が宝箱を開くと中には……と思った時には遅かった。宝箱からは真っ黒な煙が吹き出し、俺の意識は闇に埋もれていくのであった。



 ……



 …………



 ………………



 ふと、目が覚める。視界に入ってくるのは明らかに家の天井ではない。ゴツゴツした岩の天井で、まるでダンジョンの中のようだ。


 ……うん? ダンジョンの中?


 そうだ、俺は宝箱を開けて、意識を失ったのだ。


 とりあえず、周囲の確認をと思い立ちあがろうとして……身体の違和感に気がついた。


 そうして目線を身体に下ろすとそこにあったのは――


「なんだこのムチムチボディは!?」


 ――確かな筋肉の存在を醸し出しつつも圧倒的な肉感を誇るムッチムチの女の身体であった。




 ーーーーーーーー











 以下 投稿に至るまでの流れ


 ダンジョンモノ書こう!

 ↓

 せや、細身の奴やとおもろないからガチムチ主人公でいったろ!

 ↓

 あれ、ガチムチとムチムチって似てね?

 ↓

 よし、両方使おう


 こんな流れでできたので初投稿です。

 対戦よろしくお願いします。




















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