第3話 追憶
夢から覚めると、私は病院のベットにいた。
──よかった、死ななかったんだ。
それにしても、だいぶ酷い怪我だなぁ、と沢山の包帯から思う。
骨折しているのか……、ん、あれ? そこに寝ているのは──
「お母さん?」
「ん……おはよう、って優波?!」
寝起きでよくそんなに大きな声を出せるなぁ、と驚いた。
「良かったぁ、ずぅっと心配してたんだよ……」
そう言いながら、母は私の座る布団に涙する。
正直、こんなに私に泣く母は今まで見たことがない。
涙を脱ぐって涙を拭った母は、父を呼びに病室を離れた。
「それじゃあ……お父さん呼んでくるからね」
「うん、いってらっしゃい」
──左足、左腕の骨折と打撲で全治1ヶ月。当分歩けそうにない。
あの少年を探すにも程遠いなぁ、そう思いながら病室の窓の外を見つめている。
すると──
「優波?! 起きたのか!」
と父の、これまた大きくて太い声が響いた。本当に……うちの家族は騒がしいなぁ、と愛を無性に感じる。
──しょうがないなぁ……今はこの幸せを噛み締める、ただそれだけだ。
それにしても骨折をしたのが利き手じゃなくて良かった。そう思いながら右手を見つめていると……。
「これは……あの時のビー玉!」
ずっと握りしめていたんだ。
それにしても、このガラス玉──
“綺麗だなぁ”。
──チリーン。
またあの音! どこから鳴ったんだろう……? 猫はどこ?
必死に上半身しか動かせない不便な体で探す。
「やっぱりいるなら外だよね……?」
そう問い掛けながら窓の外に目をやると、銀色の猫が桜並み木の下にいるのが見えた。
「そこにいたんだ」と、今すぐにでも外へ駆け出したいのに、それが出来ない自分の体にため息をつきながら言った。
私が起きたことを知った父と母は病院の先生を呼び出した。
「先生、この度は娘の命を救って下さり、本当にありがとうございました」
母が切り出したその言葉に、この人のお陰で死なずに死んだことを知り、私も母に続いて頭を下げた。
「いやぁ、私もどうなるか分からなかったですけどねぇ。この娘さんは奇跡で生き延びたようなもんですよ」
こんな空気に割り出すのは申し訳なかったが、このまま行くと手術がどうのこうので長続きしそうだったから
「あのっ、私って──歩けるようになりますか?」
といって割らせてもらった。これは、気になっていたことの1つでもあったから。
「ん──……リハビリも含めると、3週間ちょっとはかかるかなぁ」
3週間……。短そうで長そうな、なんとも言えない数字だ。
そもそも少年がどこにいるのか、検討だってついていないというのに。
それでも──そう、ぐうたらしている暇なんて私にはない。だってあの時終るはずだった私の人生は、あの少年の条件を呑むことでまた命を吹き返すことが出来たのだから。
“少年を見つけるための人生”。
私は少年を見つけるために今──生きているのだから。
3週間だって、やれることはなんでもする。歩けるようになるまでの期間だって、たっぷり時間はある。
その時に色々考えよう。
──そう思い私はまた、先生に気になる事を質問していった。
長い長い話が終れると私は病室に戻った。
「それじゃあ、母さんたちは戻るね。何かあったら直ぐ呼びなさいよ」
「うん、分かった。じゃあね」
父と母が病室から出たのを確認すると、私は頭の中の思考回路を働かせた。
──まず。
「少年は、どこにいるのか……だよね」
これが私の人生のゴールである。
少年の顔──それが分かればきっと……。きっとそんなに遠くへは行っていないはず。近くにいる、きっと。
少年の顔は確か──。
あれ……? 思い出せ……ない……。
誰だっけ……。何か──、誰か──。
大切な人が、居たような気がするのに。
あなたは……、
“あなたは……だれ───?”
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