寒気がするから恐れ慄く。
明鏡止水
第1話
……さむい……。
いや、寒気に、近い、気もするし……。
そうじゃない、認めたくないから寒暖の方の寒さを感じての「さむい……」だと思いたい。
普段の自分なら。
「やったあ! 熱が出る! 外に出ちゃダメ! コロナかもしれない! 人にうつさないために、ゆっくりお部屋と家に篭って養生しなきゃっ。てへぺろ!」
と、気持ち悪い自己を事故して、自覚します。
実は昨日の深夜から喉が痛い気がして。
喉からくる風邪用の風邪薬を飲んでおいた。
お薬を飲む前にがっつり夜食を摂り……。
去年は風邪や熱や生理が重いというだけでうつ病のごとく動けず、「休もう……」と仕事を月一、二回は休んでいた。
そんな明鏡止水が、喉の違和感を無視して職業訓練へ向かう。テストとか書かなければならないらしい書類が沢山あるんだ。補講なんて嫌だ……。
……全工程をうまく切り抜けたい。
一体、怠け者の明鏡止水に何があったのか……。
まず、職業訓練先の近くは色々栄えている。
病気で不登校だった明鏡止水には叶えられなかった。学校の後でスタバでフラペチーノを飲むという夢が叶った。
足を伸ばせばアニメイトもある。
ブランドのコスメが売っている高島屋? みたいな高級そうなところもある。そこはさすがに一人では行けない……。
ああいうところの口紅は何円くらいするのだろう?
悲しいのは三十代になっても、一緒に行く人がいないこと、だ。明鏡止水は孤独である。他ならぬ本人がそう発する……。
家に帰れば家族がいる。
でも、パートナーはいない。
いろんな方面に孤独である。
このまま子孫を残さなければ、きょうだいや甥や姪達は見守ってくれるかもしれない。
年の近いいとこ達もいつかは結婚するかもしれない。そうしたら、誰かが亡くなって減っても誰かが加わる……。
それでも、私は独りなのだ……。
一生そう感じていく。そう確信している。
いつか、「自分は独りじゃない」と思う日は来ない。それくらいに、自分には、共に生きていけるパートナーがいたらいい、と願っている。
そう思っているのは自分だけだろうか。
……この思考だけでもうひとりぼっちなのは明確だ。
熱を測った。
36.7だった。
……平熱くらいだ。
これから上がるのか? 既に耳が熱い。
痰も少し出る。
教室では思わず咳を一回だけした。
やばい。
体調不良なんかじゃない!
気のせいであってくれ!
ここにきて出席を控えるように言われるようなことがあれば、明鏡止水は泣かないけど泣く!
こんなにも明鏡止水が健康を望むことがあっただろうか……。
健康を望むというより、業の深い思いである。
父に言われた言葉がよみがえる。
いままでぜんぶ中途半端だったんだから今回はやってみろ。
今朝言われた言葉は。
もうすぐ修了か。しょうじき無理かなとか難しいかと思ってたがよく来れたな。
いや!!!!!
褒めても最初の言葉許さねーから!!!!!
私の人生が中途半端なの病気のせいだから!!!!!
なんだったら、発達障害とかもしかしたらあるんじゃないかって思うくらいには話すの下手で人の話題に入れないし挙動不審だし!
行った観光地や道すがらも電車の路線も道の駅の特徴も街の道もぜんぶ覚えられないで!!!!!
私、よく生きてる!!!!!
なんか、風邪引いてない気がしてきた。
でも足が冷たくて寒い。喉も、かゆい。
喉が痒い、ってなんだ。花粉症か?
今年は大丈夫なんだけど。
こんな風に、大人になると、人生って捉えられる日が来るんだな。
私は、一人暮らしってまたする方がいいんかな。
経済的にも精神的にも自立していないし。
自分らしくは振舞えているけれど、今のこの全て親にやってもらえている今があるから保っている「今の私」。
一人暮らし、ちょっともう一回やる気にはなれないなあ。まず今収入が無いもの。
考え事してたら、やっぱり風邪なんじゃないかと思えてきた。
食欲は超ある。
休むか。休もう。今日授業早く終わって早く帰れたし。
父に頼まれた駅弁も買ってきたし。
テストとか色々熾烈な一週間だったし。
明日は明日で病院とか美容室とか、珍しく予約入れたし。パニック障害で髪切れなかった時より進歩。
生きているんだなあ、私。
生きていると髪を切ってもらう日があって、松前漬けとままかりと、中華くらげとキムチで大胆に白ごはんをかっ喰らう日もあるし。風邪に備えてなんとリビングでエアコンの温風に当たりながら暖を取ることもあるし。
米炊いといてよかったあ。きょうだいが納豆ご飯二杯食べましたね。ちょこっと残して電源取り消しにしたの許さんぞい。
私は人と関わるのが苦手なのかと思っていたけれど、人と共通の共感できる話がなくて盛り上がれないから、つい自分は会話下手だと思い込んでいるのではないか。そう信じたい。
教養が大事なのかな。挑戦。でも興味ない事する余裕がない。
意識しなくても、話の種自体はあちこちにある。
毎回同じ事で悩むのなら、悩まないよう周りを観察する。相槌で情報収集。
足、まだ冷たいなあ……。
寒気がするから恐れ慄く。 明鏡止水 @miuraharuma30
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
「天国」はわからない/明鏡止水
★6 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます