第235話 姉の真意
◇レザミリアーナside◇
「え!?婚約できなくなったって、何で?相手の男に婚約拒否された……とかじゃないんだよね?」
驚いた様子で聞いてくるエリザリーナに、レザミリアーナは頷いて答える。
「あぁ、そもそも、彼とはまだそういった話すらしていない」
「じゃあ、どうして婚約できなくなったの?」
それから、レザミリアーナは少し間を空けると、重たい口を開いて言った。
「お父様に、王族が王族や公爵以外の人間と婚約することは許されないと言われてな……彼は王族でも公爵家の人間でもないから、近々他国王族交友会で私の婚約者を見繕ってもらうことになった」
「他国王族交友会って……人集めるの、お父様なんでしょ?そんなの、絶対人格とか気にせず碌でもないただ家柄だけのやつ連れてくるに決まってるじゃん!」
「……その心配は無い、お父様の采配で、人格面もある程度考慮してくださるということになっている」
「感情を否定して爵位とかしか見てないお父様のそんな言葉、全く当てにならない……こんなこと、レザミリアーナお姉様だってわかってるでしょ?」
「……」
その問いに対しレザミリアーナが沈黙すると、エリザリーナは呆れたように言う。
「あ〜あ、それにしても、あのレザミリアーナお姉様に婚約したい相手ができたって言うからどんな相手かと思えば……お父様にちょっと反対されちゃったぐらいで諦められるような相手だったんだ」
「っ!」
────お父様に少し反対されたぐらいで諦められるような相手だと……?私にとって、ロッドエルが……?
ルクスと今まで過ごしてきた時間を思い返し、その言葉に対して怒りを抱いたレザミリアーナは、続けて珍しく感情的になって言った。
「そんなわけがないだろう!私にとって、彼はそんな軽い存在じゃない!」
「でも、諦めてお父様の見繕った相手の中から婚約するんでしょ?私だったら、お父様に何言われても絶対好きになった男のこと諦めたりしないよ」
「私は、お前やフェリシアーナとは違う……この国の第一王女レザミリアーナだ、誰よりもこの国のために身を捧げるべく生まれてきた私が、そのような部分で感情的になるわけにはいかな────」
「気持ちよりもどうでもいい理屈が勝っちゃってる時点で、レザミリアーナお姉様の相手の男を想う気持ちはその程度ってことだよ……はい、このお話おしまい!料理冷めちゃうし、早く食べちゃお〜」
そう言うと、エリザリーナは完全に切り替えたかのように料理を食べ始めると「ん〜!美味しい〜!」という声を上げた。
それから、レザミリアーナも料理を食べないわけにはいかないため静かに料理を食べ進めると、先に食べ終えたエリザリーナが席を立ち、ドアに手をかける。
すると、振り返って言った。
「色々と言っちゃったし、レザミリアーナお姉様がどんな答え出しても自由だけど、第一王女のレザミリアーナお姉様が元気無かったらそれこそ大問題なんだから、早く元気になってね〜」
言い残すと、エリザリーナはドアを開けてこの場から去って行った。
レザミリアーナは今まで、国のために法を遵守し、国のために他国交渉などを行なってきた。
もちろん、国のためというだけでなく、民や妹たちのためでもあるが、それでも基本的に今まで行ってきた全てのことは国のためとして行なってきた。
……だが。
「この感情は……っ、ロッドエル、私は、どうすれば……」
◇エリザリーナside◇
「レザミリアーナお姉様があんなに感情的になるなんて珍し、本当に相手の男のこと好きなんだ」
食堂を出て廊下を歩き始めたエリザリーナが呟くように言う。
レザミリアーナに対してはその想いを軽いと評したが、当然長年一緒に居る姉の真意、つまり、レザミリアーナがどれだけ相手の男性を思っているのかはしっかりと理解している。
だからこそ、好きな相手との恋を姉に諦めて欲しく無いと思い挑発するようなことを言った。
「まぁでも、私にしてあげられるのはあの挑発ぐらいまでかな、あとはレザミリアーナお姉様次第……それにしても」
エリザリーナは足を止め、玉座の間へと続く廊下の方向を向いて、虚な目になって呟く。
「フェリシアーナとか私に続いて、レザミリアーナお姉様まで……ルクスが私と婚約して王になる前に、消しといてあげた方がいいかな」
が、すぐに目に光を戻して。
「なんて!いくら何でも、お父様に何かしちゃうのはまずいよね〜!あはは」
明るい声で言うと、エリザリーナは再度廊下を歩き始めた。
口ではそう言いながらも、もしルクスが王になる上で父が邪魔をしてきたり、ルクスに危害を加えたりしてきた時にどうするかを、エリザリーナは頭の片隅で考えていた。
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