第233話 打算ごと
エリザリーナ様が打算的だから、エリザリーナ様が僕の傍に居ない方が良い……?
その方が、僕が幸せになれるかどうか……?
「……」
先ほどまでとは雰囲気が打って変わってどこか重たい雰囲気を放っているエリザリーナ様。
間違いなく何か思うところがあっての発言で、できることならエリザリーナ様のことを気遣うような発言をしたい。
けど、その思うところというのがわからない以上、気遣うようなことは少なくとも僕にはできない。
なら……ここは、今受けた言葉に対して思ったことをそのまま伝える他ない。
「エリザリーナ様が僕の傍に居ない方が、僕が幸せになれるだなんてことはないと思います」
「っ……!」
「むしろ、エリザリーナ様とお話させていただいている時は楽しいですけど、今までお忙しいエリザリーナ様とは話せる機会もあまり無かったので、機会さえあればもっとお話したいと思ってるぐらいです」
「でも、私はすごく打算的な人間なんだよ?さっきも言いかけたことだけど、今ルクスに勉強を教えてあげたのだって、私が優しいからとかじゃなくて……」
続けて、言いづらそうにしながらも、エリザリーナ様は先ほど言いかけたであろうことの続きを口にされた。
「もっと、ルクスと時間を過ごしたいって思ったからかもしれないし……もちろん、純粋に力になってあげたいって思った面もあるけど、一番は────」
「僕と時間を過ごしたいと思ってくださって、僕に勉強を教えてくださったことは、何も悪いことじゃありません!」
「っ……!ル、ルクス?」
何故か申し訳無さそうに言うエリザリーナ様に、身を乗り出して力強く伝える僕。
元々、肩と肩があと少しで触れそうだったから今僕が身を乗り出したことで完全に体が密着することになったけど、今はそれどころじゃないため続けて言う。
「エリザリーナ様が僕と時間を過ごそうとしてくださったことも、僕に勉強を教えてくださったことも、僕にとってはただ嬉しいと感じることです!」
「っ……仮に、他のことも全部ルクスとより関係性を深めるための打算だったとしても、同じことが言えるの?」
「もちろんです、何度も言っている通り、僕は嬉しいですから……それがエリザリーナ様の打算だというなら、僕はその打算ごとエリザリーナ様のことを受け止めて、これからも一緒に時間を過ごしていきたいです」
僕がそう伝えると、エリザリーナ様は目をパッと見開いて────直後。
僕のことを、再び抱きしめてきた。
「エ、エリザリーナ様!?」
驚く僕に対して、エリザリーナ様は嬉しそうな声色で言う。
「ルクスは本当、いっつも私の予想外のことばっかり言うね……そんなルクスのことを、私は────」
言いかけたエリザリーナ様は、僕のことを抱きしめる力を強めはしたけど、その先の言葉は口にしなかった。
そして、続けて落ち着いた声色で言う。
「ごめんね、ルクス、急に変なこと言っちゃって……いざ本当に近づいてくると、どうしても不安になっちゃって」
近づいてくる……?何の話だろう……?
僕がそんな疑問を抱いていると、エリザリーナ様はそんな疑問を吹き飛ばすほどに突然普段通りの雰囲気に戻って言う。
「それにしても!ルクス!私にあんなこと言って……私、もう本当に我慢しないからね!」
我慢しない……?
……またエリザリーナ様の言葉の意図がわからなかったけど、僕はそれからしばらくの間楽しそうにしているエリザリーナ様に抱きしめられ続けた。
その途中、エリザリーナ様は僕には聞こえない声で何かを呟いていた。
「あと少しで、私の全部をぶつけるから……待っててね、ルクス────」
それから、僕がエリザリーナ様に交渉術に関することも教わっていると、そろそろ暗くなってくる時間になった。
そのため、僕たちは二人で図書館から出ると、図書館前で今日はお別れということになって、それぞれの馬車に乗って帰宅した。
────商業体験、そして……エリザリーナの言うその時は、もう、そう遠くない日までやって来ていた。
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