第187話 二人

「レザミリアーナ様……やっぱり、すごい人ですね」


 生徒たちが王族関係者の人たちと話し始めた中、僕が階段を降りてきたレザミリアーナ様のことを見てそう呟くと、フローレンスさんがそれに頷いて言った。


「はい、流石は第一王女様……ですね」


 それから、僕はレザミリアーナ様から視線を外すと、フローレンスさんの方を向いて言う。


「フローレンスさん、今回の王族交流会も一緒に行動しますか?」

「是非、そうさせていただきたく思いま────」


 そう言いかけたフローレンスさんは、僕の死角の方に視線を送って口を閉ざした。

 何かあるのかな、と思って僕もその方向を向くと────そこには、レザミリアーナ様が居た。


「フローレンス、ロッドエル、今日はよろしく頼む」

「レ、レザミリアーナ様!?」


 僕がそう大きく驚いている隣で、フローレンスさんが落ち着いて言った。


「第一王女様、こちらこそどうぞよろしくお願い致します」

「っ!よ、よろしくお願いします!」


 驚きのあまりそう伝えるのを忘れてしまっていたけど、僕はフローレンスさんに続く形でそう言葉にした。

 すると、レザミリアーナ様がフローレンスさんの方を向いて言う。


「フローレンス、剣術大会以来だな……あれから剣の方はどうだ?」

「次こそは第一王女様に勝利すべく、今一度己の剣を見直し、磨いております」

「そうか……だが、鍛錬しているのは私も同じことだ……来年、君が優勝者の座を得ることができたら、その時はまた互いの成長した剣を交えよう」

「はい」


 二人がそんなやり取りをし終えると、次にレザミリアーナ様は僕の方を向いて話しかけてくれた。


「来年、さらに強くなっているであろうフローレンスの剣も楽しみだが、私は────ロッドエル、君の剣にも大きく注目している」

「えっ!?ぼ、僕のことを知ってくれているんですか!?」

「剣術大会準優勝者のことを、私が知らないはずがないだろう?フローレンスにはあと一歩及ばなかったようだが、君は間違いなくあのフローレンスとの戦いの中で一つ成長を経ていた……来年には、さらに強くなっているだろう」


 僕はあのレザミリアーナ様からそう仰っていただけたことが嬉しくて、思わず上擦った声を上げてから言った。


「っ……!ありがとうございます!レザミリアーナ様のご期待に沿えるよう、これからも鍛錬を惜しむことなく精一杯頑張ります!」

「良い返事だ……他にも数名話したい人物が居るから私はもう行かせてもらうが、ロッドエルには後で二人で剣のことで話したいことがある」


 レザミリアーナ様が、僕と二人で剣についてのお話!?

 とは言っても、フローレンスさんと一緒に行動するという話だったため、僕だけの判断でそれを承諾するわけにもいかず、僕はフローレンスさんの方に視線を送る。

 すると、フローレンスさんは頷いてくれたため、僕は元気に言った。


「わかりました!」

「ありがとう……では、また会おう」


 そう言うと、レザミリアーナ様はこの場を去って行った……その堂々とした綺麗な姿勢で歩く姿は、相変わらずとんでもない風格を放っていた。

 そんなことを思った後、僕はすぐにフローレンスさんに言う。


「すみません、フローレンスさん……一緒に行動するっていう話だったのに、途中で離れてしまうことが決まってしまって……」

「第一王女様から剣の話となると、ルクス様がより成長できる機会となるかも知れません……となれば、当然愛するルクス様の成長を私が妨げる理由などありません」

「あ……ありがとうございます……!」


 愛する、と言われて少し恥ずかしくなってしまったけど、そのフローレンスさんの優しさの方に意識を向けることでどうにかその恥ずかしさを抑えた。

 その後、僕とフローレンスさんが二人で王族関係者の人たち数名と続けて交流して、今話していた人たちと交流を終えると────


「ロッドエル、先ほどの話だが、今は大丈夫か?」


 レザミリアーナ様がそう話しかけてきてくれた。


「っ!だ、大丈夫です!」

「では行こう」


 そう言うレザミリアーナ様について行く前に、フローレンスさんに頭を下げると、フローレンスさんは優しく微笑みかけてくれた。

 その後、僕がついて行くという形でレザミリアーナ様と二人で歩き始めた……あのレザミリアーナ様と二人、ということに緊張しながらも、そのまま歩いていると────親交を深めた人同士が二人で楽しむ場として用意されている個室の中へと連れてこられた。


「そこに座って話をしよう」

「はい!」


 そう言うと、レザミリアーナ様はテーブルを挟んで一つずつ置いてある椅子の片方に座ったため、僕もその反対側に座る。


「ロッドエル、立場のある人間である私と居て緊張してしまうのはわかるが、そこまで肩肘を張らなくてもいい……他の場所ならともかく、ここには君と私の二人しか居ないのだからな」

「……わかりました」


 確かに少し緊張しすぎていたため、僕は一度意識的に心を落ち着けてそう返事をする……すると、レザミリアーナ様が聞いてきた。


「ロッドエル……剣のことについて話す前に、一つ君に聞きたいことがあるんだが、聞いても良いか?」

「はい、なんでも聞いてください!」


 僕がそう答えると────レザミリアーナ様は、全く予想もしていなかったことを聞いてきた。


「君には、想い人……好いている女性は居るのか?」

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