第178話 誤解
◇シアナside◇
貴族学校の休日。
特に何かをしているというわけではないが、シアナがルクスとの時間を過ごしていると、ルクスが思い出したような口調で言った。
「そういえば、最近あまりフェリシアーナ様とお会いできてないけど、元気にしていらっしゃるかな」
「っ……!」
「剣術大会の時、エリザリーナ様やレザミリアーナ様と同じように王族席に座っているのは見えたけど、あの豪華客船の時から話せてないんだよね……」
────最近、フェリシアーナとしてルクスくんと会えていないから、ルクスくんが私のことを心配してくれているわ!嬉しいけれど、ルクスくんに余計な心配をかけて不安にはさせたくないから、ここはしっかりとそのルクスくんの不安を無くしてあげないといけないわね。
そう決めたシアナは、心配そうな表情をしているルクスに向けて言う。
「ご主人様も仰られている通り、私も剣術大会の時にフェリシアーナ様のことを拝見致しましたが、特に不調は無いご様子でした!」
「そう、なら良かったよ……また、僕とお話ししてくださるかな」
「もちろんです!フェリシアーナ様は、きっと一日中ご主人様のことを考えておられると思いますよ!」
そんなシアナの発言に対して、ルクスは小さく笑いながら言う。
「そんなことは無いと思うよ?フェリシアーナ様は忙しい方だからね」
────そんなことしか無いわ!確かに王族としての職務で忙しい時もあるけれど、私はその時ですら早くルクスくんの顔を見たいとかルクスくんと話したいとか、とにかくルクスくんのことしか考えていないのだから!
なんて言葉に出すことはできるはずも無かったが、少なくとも心の中では力強くそう叫んだ。
すると、ルクスは続けてどこか暗い表情で言った。
「それに……このことには、まずは僕一人で答えを出したいから、まだシアナにも言えてないことなんだけど……実は、豪華客船の時、フェリシアーナ様からあるお話をいただいたんだけど、僕はまだその返事をすることができてないんだ」
────これは、婚約の話かしら……突然王族から婚約の話をされたのだから、ルクスくんが簡単に答えを出せないのも当然よね。
シアナとしてはルクスと婚約をしたいと思っているため、すぐにでもルクスが頷いてくれれば嬉しいことは嬉しいが、だからと言って当然、ルクスが返答に悩んでいることに対して責めたりもしない。
「そうだったのですね」
「うん……だから、最近フェリシアーナ様と関われていないのは、もちろんフェリシアーナ様がお忙しい方だからっていうのもあると思うけど────もしかしたら、いくら優しいフェリシアーナ様って言っても、本来ならすぐにでも頷くべきような話に全然返事をしていないことに、何か思うところがあるのかも……だとしたら、本当に申し訳ないよ」
「っ!?」
────私がルクスくんにそんなこと思うはずないじゃない!私はルクスくんのことが大好きなのだから!!
と心の底から声として発したいシアナだったが、そんなことはできない。
────まずいわ!このままだと、ルクスくんが変な誤解をして、私に変な遠慮をしてしまうようになるかも……いいえ、絶対にそんなことにはさせないわ!!
「すみませんご主人様、少しだけ離れさせていただきます!」
「え?う、うん」
突然のシアナの言葉に動揺した様子のルクスを背に、一度ルクスの部屋を後にすると、ルクスの誤解を解くためにすぐにペンと手紙を取り出し────
『ルクスくんへ 最近忙しくて会えていないけれど、あと少ししたらようやく落ち着いて来そうだわ 婚約の話はゆっくり考えてくれたら良いけれど、そのことを抜きにしてもルクスくんと過ごしたいから、良かったらその時に二人で会わないかしら』
というメッセージを記した。
そして、すぐにルクスの部屋の中に入ってルクスに言う。
「ご主人様!今確認したところ、お屋敷に一枚の手紙が届いていたようです!」
「え?どなたからだろう……」
そう呟くルクスに先ほど書いた手紙を渡すと、ルクスは驚いた様子でありながらも嬉しそうな声色で言う。
「えっ!?フェ、フェリシアーナ様からだ!!忙しいから最近は会えてないけど、今度二人で会いたいって言ってくれてる!!」
「良かったですね」
「うん!良かった、嫌われたわけじゃなかったんだ……本当に、優しいお方だね」
嬉しそうな様子と安堵した様子でそう言うルクスのことを見て、シアナは優しく微笑む。
────私がルクスくんのことを嫌うはずがないじゃない……私は誰よりも、ルクスくんのことが大好きなのだから。
そう心の中で呟いた後、シアナは咄嗟に決定した、婚約の話をしてから初めてフェリシアーナとしてルクスと会える機会を心待ちにし始めた。
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