第173話 決意
◇ルクスside◇
お風呂から上がると、そろそろエリナさんが帰宅するということで、僕とシアナはロッドエル伯爵家の前まで来てそれを見送りに来ていた。
「ルクス!今日は私のこと家に招いてくれてありがとね!」
「こちらの方こそ、わざわざこのロッドエル伯爵家まで来てくださり、ありがとうございました」
そう感謝を伝えると、エリナさんは僕の耳元で囁くようにして甘い声で言った。
「また一緒にお風呂入ろうね」
「っ……!」
そう言われた僕は、エリナさんとお風呂に入った時のことを思い出して恥ずかしくなると、思わずエリナさんから少しだけ離れた。
すると、エリナさんはそんな僕のことを見て小さく笑い、次にシアナの方を向いて言った。
「シアナちゃんも、またね……ルクスの従者として、ルクスのことたくさん支えてあげてね」
「はい、ご主人様の従者であり、傍に居るもの、としてご主人様のことをこれからも支えさせていただこうと思います」
「……」
「……」
二人は少しの間静かに視線を交えると、エリナさんは僕たち二人に向けて手を振って言った。
「また近いうちに来るから、その時も今日みたいに楽しく過ごそうね〜!」
「はい!とても楽しみにしてます!」
最後にそう言葉を交わすと、エリナさんは笑顔で馬車に乗って、そのままロッドエル伯爵家を後にした。
「じゃあ、僕たちも戻ろうか、シアナ」
「……はい」
エリナさんのことを見届けた僕とシアナも、そのままロッドエル伯爵家の屋敷へと入って行った。
◇レザミリアーナside◇
レザミリアーナは、執務室の椅子に座りながら自らの剣の柄を握ると、目を閉じて今日のフローレンスとの戦いを思い出す。
「やはり、フローレンスは凄まじい才覚と努力をできる人物のようだな……私とあそこまで剣を交えられる相手が、一体この世界にどれほど居るか」
そう呟きながらどこか嬉しそうに口角を上げると、続けて王族席から見ていた今日のルクスの剣を思い出す。
「ロッドエルの剣もとても素晴らしかったな……剣を扱う力量という点では、やはりフローレンスの方が優れているようだが、この剣術大会期間の伸び代という点では、フローレンスよりも上回っているだろう」
続けて、ルクスのことを想像する。
「流石は我が運命の相手だ……君の剣を振るっている時の表情や気迫、そして日々の鍛錬を覗かせる剣技は本当に良い……これが見惚れる、というものか……剣術大会によって延期になっていた今年の貴族学校第三回王族交流会もそろそろだったな……ならば────いよいよか」
剣術大会のエキシビションマッチでは、フローレンスに勝利することができた。
が、レザミリアーナにとって、フローレンスは剣だけの敵では無い────フローレンスがルクスに婚約の話をしている以上、運命の相手であるルクスと結ばれたいと考えているレザミリアーナにとって、フローレンスはその面でも敵となる。
「だが、私は剣でも、ロッドエルとの運命においても、君に負けるつもりはない」
レザミリアーナはそう強く言い放つと、固い決意を感じる目を開いた。
◇バイオレットside◇
「バイオレット」
「こちらに」
自室に入ったシアナがバイオレットのことを呼ぶと、黒のフードを被ったバイオレットはシアナの横に姿を現した。
「脱衣所での私とエリザリーナ姉様の話、聞いていたかしら?」
「はい、聞いておりました」
「そう、話が早いわね……なら」
落ち着いた声音でそう言ったシアナは────直後、バイオレットとの距離を縮めると、大きな声で言った。
「バイオレットは、私とエリザリーナ姉様どちらの方がルクスくんとの関係が進んでいると思うかしら!?私?私よね!?」
「それは────」
「私と言いなさいバイオレット!」
「……お嬢様、だと思われます」
「っ……!そうよね!流石バイオレットだわ!」
「……」
その後、シアナはその調子でバイオレットにしがみ付き続け、バイオレットはそんなシアナのことを宥め続けた。
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