第172話 進展具合
通常、フェリシアーナに虚な目と無機質な声で命を奪うと言われれば恐怖心を抱くものだが、エリザリーナは全くそんな様子は無く、普段通りの調子で自らの体を隠す素振りをして言った。
「いくら実の妹って言っても、裸見られちゃうなんてお姉ちゃん恥ずかしい〜!」
「今すぐに命を奪って欲しいということで良いのね……けれど、苦しむことだけは覚悟してもらうわよ」
そう言い放ったフェリシアーナの言葉を聞くと、エリザリーナは大袈裟に体を隠す素振りをするのをやめて、タオルを手に持って最低限体を隠して言った。
「またまたぁ、こんなところで私の命を奪う、どころか傷だって負わせられないでしょ?私が着替え終わったって報告したら、ルクスが出て来ちゃうんだし」
他にも様々な理由で、この場でそんなことをする可能性は極限まで低いと考える。
「そう思うならそれでも構わないわ」
「……まぁ、答えてあげるよ、ルクスとこのお風呂場でどんなことをしたのか、だっけ」
フェリシアーナの問いを改めて言葉にすると、続けてそれに答える。
「色々あるけど、ルクスの背中に直接胸押し当てて、そのままルクスの前の方を優しく洗ってあげたりしたかな〜」
それを聞いたフェリシアーナは、エリザリーナの顔のすぐ真横に剣を突いた。
が、エリザリーナは、そんなフェリシアーナの虚な目を見て、同じく虚な目となって言う。
「私の命奪うんじゃなかったの?ズレてるよ?」
「……」
もしここがフェリシアーナにとって都合の良い場所であれば、本当にエリザリーナの命を奪っていたかもしれないが、この場所でそんなことはできないともはや確信しているエリザリーナはそう言葉にする。
だが、命を奪わないまでも、突いた剣を降ろさないことからも、殺意は十分伝わってくる。
エリザリーナは、虚な目をやめると明るい声で言った。
「誤解してると思うけど、前って言っても下の方じゃなくてあくまでも胴体とお腹の話だからね?」
「そう……けれど、それでも十分許し難いわね」
「でも、この場ではどうしようもないでしょ?」
そう言われたフェリシアーナは、虚な目をやめて聞いてくる。
「……本当に、エリザリーナ姉様がしたのはそこまでなのね?ルクスくんのことを誑かして、その先のことをしてはいないのね?」
「はぁ、当たり前でしょ?言っておくけど、私は本気でルクスのことが好きなの……だから、もちろんその先のことだってしたいとは思ってるけど、あんな純粋で大好きなルクスのことを騙してそんなことは、流石の私でもできないよ」
「……まぁいいわ、その辺りのことはエリザリーナ姉様に聞くより、ルクスくんの反応を見た方が良いでしょうから」
そう言うと、フェリシアーナは剣を降ろした。
……ルクスの反応を見た方が確かなのはその通りかもしれないが、もしエリザリーナの言葉を信用できなければ、ここで剣を降ろすことはしなかっただろう。
だが、剣を降ろしたということは、洞察力、もしくは姉妹だけの有する感覚、信頼なのかはわからないが、ひとまず今はエリザリーナの言葉を信じたということだ。
「あ〜!妹からいきなり剣を向けられちゃうなんて、本当にビックリしちゃったよ〜!怖〜い!!」
「……そんなことを言っている暇があるなら、早く服を着たらどうかしら」
「え〜?でも、フェリシアーナだってもう少し私の体見てたいでしょ?」
「誰が好き好んでエリザリーナ姉様の体なんて見ないといけないのよ」
「あ〜!そうだ、体で思い出したんだけど、ルクスって直接胸押し当てたらすっごく可愛い反応するんだよ?」
「っ……!」
それを聞いたフェリシアーナは目を見開いたが、エリザリーナはそんなことを承知の上で続ける。
「顔とか耳赤くして、明らかに胸意識しちゃってる感じでね?普段はそういうことに興味無さそうなのに、そういう時はちゃんと意識してくれてる可愛いギャップが良いんだよね〜!」
「っ!そんなこと、言われなくたって知っているわ!それに、私はエリザリーナ姉様と違って、後ろからでなく正面から服を着ずにルクスくんのことを抱きしめたことがあるのよ!」
「え、嘘!?」
純粋に予想外な発言が飛び出て来たことに、エリザリーナは驚きの声を上げる。
それに対し、フェリシアーナは補足するように言う。
「本当よ……その後すぐにルクスくんは意識を途絶えさせてしまったけれど────私の方がルクスくんとの関係は進んでいるわ!」
「すぐ意識途絶えてるんだったら、私の方が進んでるって言えるんじゃない?」
「いいえ、事実を見れば私の方が進んでいるわ」
「私の方が進んでるから!」
「そんなことは無いわ!」
「あるの!」
その後、二人は少しの間互いのルクスとの進展具合について言い争いを続けた。
その二人の言い争いが行われている脱衣所の陰で、バイオレットはどこか優しい表情でその二人のことを見守った。
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