第157話 高揚感

◇ルクスside◇

 ────剣術大会当日の朝。

 剣術大会が行われる闘技場へと向かう馬車がロッドエル伯爵家の前まで迎えに来てくれていて、その馬車に乗ろうとしている僕のことをシアナが見送りに来てくれていた。


「シアナ、行ってくるね」

「はい!ご主人様!私も後から赴き、ご主人様の奮闘されているお姿を応援させていただこうと思います!」

「シアナが見て応援してくれていると思うだけで、普段よりもとても力が出そうだよ……またね、シアナ」

「行ってらっしゃいませ、ご主人様!」


 そう言って僕に頭を下げてくれたシアナのことを見てから、僕は馬車に乗るといよいよ剣術大会の行われる闘技場へ向かった。

 僕の練習に付き合ってくれたフローレンスさんやバイオレットさん、そして……僕のことを応援してくれるシアナのためにも、今日は全力で戦って、シアナの主人としてかっこいいところを見せる!

 そう心の中で強く意気込み、僕は馬車が闘技場へ到着するのを待った。


「ルクスくん、本当に応援しているわ────」



◇エリザリーナside◇

「剣術大会っ、剣術大会っ」


 まだ王族と警備以外は誰も入ることの許されていない剣術大会の行われる闘技場、その廊下内をエリザリーナはとても楽しそうに歩いていた。

 剣術大会という単語を連呼しているため一見剣術が好きなのかとも思えそうだが、そうではない。


「ようやくルクスのことを直接この目で、それも剣で戦ってるところを見れるなんて本当最高〜!はぁ、ここ最近この日だけを楽しみに仕事頑張ってたみたいなところあるから楽しみ〜!」


 そう、エリザリーナは剣術ではなく、ただルクスのことを直接見れること、もっと言えばルクスが剣を振るっているというエリザリーナからすれば想像するだけでかっこいいところを、直接見ることができることができること、ただそれだけを楽しみにしていた。

 そんなエリザリーナが闘技場の一室、王族様の部屋に入ると、そこにはレザミリアーナが居た。


「お姉様おはよう〜!」

「あぁ、エリザリーナは相変わらず元気だな」


 エリザリーナがレザミリアーナに挨拶をすると、レザミリアーナはそんなエリザリーナのことを見てそう返した。


「だって、今日は剣術大会の日だからね〜!それは元気も出るよ〜!」

「弓術を得意としているお前が剣術大会で気分が高まるとは意外だが……まぁいい、それよりもフェリシアーナがまだ来ていないが、何か聞いていないか?」

「さぁ〜?」

「剣士や観客たちが闘技場に入ってくるまでまだ時間があるとはいえ、フェリシアーナがエリザリーナよりも遅いとは珍しいな」

「最近は頑張ってるのにその言葉は心外なんだけど!」

「ふっ、それもそうだな」


 レザミリアーナは小さく笑ってから少し口角を上げてそう返事をした。

 ────まぁ、フェリシアーナがこんな大事な時に遅刻とかはしないだろうけど、確かにゆっくり目に来た私より遅いのは気になるかな……私と同じように久しぶりにルクスのことを見れることが嬉しくて時間も忘れちゃってるとか?普段ならあり得ない話だけど、ルクス絡みになるとあり得ちゃいそうだよね〜。

 エリザリーナがそんなことを思っていると、その部屋のドアが開いて────そこから、ドレスを着たフェリシアーナが姿を現した。


「申し訳ありません、少々遅れてしまいました」

「時間には間に合っているから気にしなくていい、私たちが揃ったならあとは剣士たちと観客たちが入ってきて開会の時を待つだけだ」

「わかりました」


 とても丁寧な態度でレザミリアーナと話しているフェリシアーナに近づくと、エリザリーナはフェリシアーナにしか聞こえない声で言った。


「ねぇねぇ、今日遅れたのって、やっぱり久しぶりにルクスのことを直接見ることができるから?それで嬉しくなっちゃってたら時間忘れてたの?」

「私がそんな理由で遅れるはずがないわ、ただ純粋に準備に手間取っただけよ」

「え〜?そっちの方がフェリシアーナらしくないよね〜、本当は今日ルクスのことを久しぶりに自分の目で見れることが嬉しいんでしょ?」

「確かにルクスくんのことを見れるのは嬉しいけれど、それと遅れた理由には関係が無いわ」

「……」


 ────てっきり、フェリシアーナも私と同じでルクスのことを久しぶりに見れる今日っていう日を楽しみにしてたのかなって思ってたけど……思ったより落ち着いた感じっていうか、これから久しぶりにルクスを見れるのにそれにしては高揚感が無い……なんで?

 自らで立てた問いに対して、エリザリーナはさらに思考を続ける。

 ────実は私の知らないところでルクスに会いに行ってる……?ううん、剣の練習を行ってるルクスと会うなんてそう簡単なことじゃないからそれは難しいはず……でも、じゃあなんでフェリシアーナはそこまで高揚してないの?私はこんなに心臓ドキドキしてるのに。

 その優秀な頭脳が、あと少しでその答えを導き出そうとした────その時、ドアがノックされると、正装を着た人物が姿を現して三人の王女に対し跪くと言った。


「剣士様、観客様たちがご来場なされ始めましたので、御三方も移動を開始お願い致します」

「わかった、報告ご苦労」

「はっ、失礼致します」


 レザミリアーナの一言に対してそう言うと、その人物はこの部屋を後にした。

 ────ま、フェリシアーナのことを考えるのは後でもいっか……それよりも……早くルクスの活躍が見た〜い!ていうか、もうトーナメント全部ルクスにしない!?って、そんなことしたらルクスが疲れちゃうからダメなんだけど〜!!


「行くぞ、エリザリーナ、フェリシアーナ」

「はい」

「は〜い!」


 そして、三人の王女たちは部屋を後にすると、三人で一緒に闘技場の王族席へと向かった。

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