第135話 意外
「えっ……!?か、顔をって、このまま顔を近づけたら、僕とフローレンスさんの────」
僕は、そのことを想像すると急激に顔が熱を帯びてきて、咄嗟に後退した。
すると、フローレンスさんはそんな僕のことを見て小さく笑ってから優しく微笑んで言った。
「申し訳ございません、少し悪戯が過ぎてしまったようです────ですが、私がルクス様の妻になりたいという気持ちは冗談などでは無いと言うことを、今一度頭に留めておいていただきたかったのです」
「わ……わかりました」
確かに、あのフローレンスさんから婚約の話をいただいているというのに、今まで僕はそれに対してあまりしっかりと向き合えていなかったのかもしれない。
それに、今はフローレンスさんとの婚約の話だけじゃなくて、フェリシアーナ様との婚約の話についてもしっかりと考えないといけない……けど────フローレンスさんの綺麗な顔が目の前に、それもフローレンスさんがの言葉で少し変な想像をしてしまったから、少しの間頭が回りそうにない……僕がそう考えていると、僕との距離を近づけてきたフローレンスさんが聞いてきた。
「ルクス様、とてもお顔が赤いようですが、それほど私が将来の妻になるという言葉を聞くとルクス様は照れてしまうということでしょうか?」
「それも、あるんですけど、その……フローレンスさんがとても綺麗な方なので、その綺麗な方の顔が目の前に来て、それで、えっと……」
僕がその続きをどう答えれば良いのかと悩んでいると、フローレンスさんが頬を赤く染めて言った。
「私のことを綺麗だと仰ってくださり、ありがとうございます────ですがルクス様、私はルクス様こそお顔もお心も綺麗な方だと思っていますよ」
「っ……!」
そんなフローレンスさんの言葉を聞いた僕の元々熱を帯びていた顔は、さらに熱くなって、その後はその感情のままにフローレンスさんに恥ずかしいという感情を伝えた……けど、フローレンスさんはそれら全てに対して穏やかに微笑んで返してきて、同年齢とは思えないほどの落ち着きがあった。
……僕は将来良い領主になるためにも、フローレンスさんのこういったところを見習わないといけないと感じた。
領主……フェリシアーナ様からの婚約の話に、もし僕が頷いたら、僕は領主じゃなくて────
「……」
その先のことは、ひとまずフェリシアーナ様への返事をしっかりと考えた上で考え始めることにしよう。
◇レザミリアーナside◇
「さ、流石第一王女レザミリアーナ様ですな、我々十人を相手にたった一人で息も切らさずに勝利なされてしまうとは……」
最近は職務で忙しく剣の鍛錬が通常よりもできていなかったレザミリアーナだが、直近で大きな仕事は剣術大会関連のものぐらいしか無いため、その合間を縫って往生の訓練場で兵士たちを相手に剣の鍛錬を行っていた。
「君たちのおかげで、まだ少し体が鈍っていることが理解できた、礼を言おう……もう下がってくれて構わない」
「は、ははっ!」
レザミリアーナがそう言うと、十人の兵士たちはそう返事をした後────
「あれで鈍ってるのか……」
「やっぱり第一王女様はすごいな……」
といった声を漏らしながら訓練場を去って行った。
「ロッドエルに……私の運命の相手に私の剣技を見られることになるかもしれないのだから、もっと剣の腕を磨いておかないといけないな」
その思い一心で動かない藁人形を相手に剣技の特訓をしていると、エリザリーナが訓練場に姿を現してレザミリアーナに向けて言った。
「レザミリアーナ姉様、ま〜た剣技の特訓してるんですか?なんか前以上に頻度増えてません?」
そう話しかけられたレザミリアーナは、一度剣を止めるとエリザリーナに対して言った。
「あぁ、剣を扱う機会が減って、少し鈍っていたからな」
「あ〜!だからなんですね〜!ていうか、他国交渉でレザミリアーナ姉様に釣り合う男とか居なかったんですか?」
「自分に釣り合うかなどという目線で男性を見たことは一度も無いが、婚約者に選びたいと思える相手は居なかったな」
「そうですよね〜!その確認ができて良かったです!」
「何を言っているのかわからないが、とりあえず早く職務へ戻れ」
「はいはい、わかってますよ〜」
そう言うと、エリザリーナはこの訓練場を去って行った。
「全く……エリザリーナは相変わらずだな」
相変わらず嵐のようなエリザリーナに頭を悩ませながらも、レザミリアーナは男性という言葉から想起して続けて考える。
「ロッドエルの剣は、どのような剣なのだろう……そしてロッドエル、君は私の剣を見て、どのような感想を抱いてくれるのだろうか」
レザミリアーナは、そんなことを考えると鍛錬せずには居られず、それからしばらくの間剣術の鍛錬に励んだ。
◇エリザリーナside◇
職務をするためにひとまず自室に戻ったエリザリーナは、自室の椅子に座って明るい声で呟く。
「いや〜!良かった良かった、レザミリアーナ姉様って身内には優しくて、ましてや自分でそういう相手を選んだなんてなったら、意外とその相手のために全てを尽くしちゃいそうな性格だと思うから、もしこの他国交渉で変な男に捕まってたりしたらどうしようって思ったけど、流石に堅そうな感じで安心した〜!でも、実際いつかそういう時が来るだろうから、そういう時のこと考えておかないといけないよね〜!ま、あのレザミリアーナ姉様が好きになる男なんてそうそう現れないだろうから、そんなのまだまだ先のことだろうけど〜!」
そんなことを呟きながらも、エリザリーナは自らの職務を始めた。
────レザミリアーナが自らの想い人であるルクスと出会い、ルクスに惹かれ始めているということを、この時のエリザリーナにはまだ知る由も無かった。
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