第125話 牽制

◇エリザリーナside◇

「フェ、フェリシアーナ様!こんばんは!そしてお久しぶりです!」

「えぇ、久しぶりね……またこうして会うことができて嬉しいわ」

「僕も嬉しいです!フェリシアーナ様は────」


 エリザリーナは、ルクスとフェリシアーナの会話を弾ませないために一度向かい合っていたピアノから指を離すと、立ち上がってルクスの隣に立ち、フェリシアーナと向かい合って言った。


「フェリシアーナ様、こんばんは」


 エリザリーナが、あくまでもエリザリーナではなくエリナとしてそう挨拶すると、フェリシアーナがわざとらしく言った。


「エリザ────いえ、エリナ様、お元気そうで何よりです」


 フェリシアーナからの、エリナの正体に気づいているというメッセージ。

 ────へぇ、なんだ、もうこの赤のフードを被ったエリナが私だってことフェリシアーナにバレてるんだ……まぁ、前の朝のバイオレットとのこととか、そもそもルクスのことを豪華客船パーティーに誘った時点でそのくらいのことは予想してたから別に驚くことじゃ無いけど。

 そう冷静に心の中で呟くと、それでも今は一応ルクスの目の前のため王族、エリザリーナではなくエリナとして振る舞って言う。


「麗しきフェリシアーナ様、本日はお一人ですか?てっきり私は素敵な殿方をお連れになっているのかと思いました」

「ご冗談を、私に婚約者が居ないことはご存知でしょう?」

「婚約者で無くとも、素敵な男性はたくさん居ますよ、特にこの場には……本日のパーティーのパートナーでも探しに行かれてはいかがですか?麗しきフェリシアーナ様でしたらどのような男性でも喜んで頷いてくれることでしょう」


 フェリシアーナの想い人が自らと同じルクスであることを知っていて、さらに普段はフェリシアーナに敬語など使わないエリザリーナからの敬語などの挑発とも受け取れる発言を聞き、フェリシアーナは言う。


「それはエリナ様も同じでしょう、そのフードによってせっかくの美しき容姿が見えなくなってしまっているので、是非フードを取って差し上げては?ご来場なされている方も喜んでくださると思いますよ……それとも、何かフードを外せないご事情でもあるのでしょうか?」

「っ……!」


 エリザリーナが赤のフードを被っている時はエリナという王族の仕事とは関係の無いお忍び時の姿になることはこの国の貴族、それも大人であればほとんどが知っていることだが、この場には他国の人物も居るため、エリザリーナがフードを外せばフードを被ったピアニストから第二王女エリザリーナへと認識が変化し、それらの人物たちがエリザリーナの方へ向けてエリザリーナの名前を呼ぶだろう────そして、そうなればルクスにエリナがエリザリーナだとバレてしまう。

 エリザリーナは、エリナがエリザリーナだとバレることに対してそこまで深刻に捉えてはいないものの、ルクスの性格を考え、自分が第二王女エリザリーナだとバレるよりもこのままエリナとして接する方が関係性を深めやすいと考えているし、何より正体をバラすタイミングは────今では無い。

 そのことを見据えているフェリシアーナの挑発的な言葉の返しに、エリザリーナはさらに挑発で返しその場に火花を散らそうとした────が。


「お二人とも、普段僕と接している時と雰囲気が少し違うような気がします……もしかして、お二人も豪華客船パーティーの場に緊張してるんですか?」

「っ!」

「っ!」


 ルクスにそう聞かれたエリザリーナとフェリシアーナは、同時に自らの言動を悔いるとすぐに言った。


「ううん、そんなことないよ?ルクスの気のせいじゃ無いかな?」

「えぇ、私は特に普段と変わらないから、安心して良いわ」

「そうですか、良かったです!」


 ルクスの安堵した表情と笑顔に、エリザリーナとフェリシアーナは心の底から安堵する。

 ────いけない、ルクスのことを心配させちゃったら元も子も無いから、今はフェリシアーナと牽制し合ってる場合じゃない。

 そう考えたエリザリーナがフェリシアーナに一時休戦の意図を込めた視線を送ると、フェリシアーナはそれに対して頷いた。

 その後、エリザリーナが何曲かピアノを弾き終えると、会場は盛大な拍手で埋め尽くされた。


「エリナさん!どの曲も本当に素敵な音色でした!」

「ありがとう!ルクス!」

「……」


 これからどうするか、エリザリーナとフェリシアーナはその頭を回転させて考え始めた────が、次のルクスの言葉によって、二人の思考は驚愕によって停止することとなった。


「フェリシアーナ様とエリナさん!良かったら、これから三人で一緒にこの豪華客船パーティーを楽しみませんか?」


 ────え?

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