第48話 幸せ

 しばらくの間涙を流していたバイオレットさんだったけど、その涙を落ち着かせて言った。


「ロッドエル様……お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません」

「見苦しいなんて……涙を流せるのも、綺麗なことだと思いますよ」

「っ……!」


 僕がそう言うと、バイオレットさんは咄嗟に黒のフードを被って顔を隠した。


「バ、バイオレットさん……?」


 もしかしたら、また涙が流れてきたのかな……そう予測した僕だったけど、バイオレットさんは言った。


「すみません……少し、外に出てきます」


 そう言うと、バイオレットさんはこの客室から出て行った。


「バ、バイオレットさん!?」


 バイオレットさんの様子も気になるけど、外に出ると言ったバイオレットさんのことを僕が無理やり引き止めるわけにはいかない。

 ……それはそれとして。


「王城の客室で一人なんて、とてもじゃ無いけど落ち着けない……」


 フェリシアーナ様、バイオレットさん……早く戻ってきてください!



◇バイオレットside◇

 客室から出たバイオレットは、ゆっくりと廊下を歩いていた。

 どこか行き先があるわけではなく、ただただ考え事をしながら歩いているだけだった。


「このような身体反応は、初めてです……気温が高いわけでも、熱反応のあるものが近くにあるわけでも、体調不良というわけでも無いと言うのに、顔が熱を帯びるなど……どうして、このようなことになっているのでしょうか」


 そう呟きながら、バイオレットは先ほどのルクスの言葉を思い出す。


「きっと、今までのバイオレットさんのおかげで、たくさんこの国……そして、結果的に僕の領土も守られて来たことがあると思います……だから、ありがとうございます」


 その言葉を────


「よくわからないですけど、僕たちのために頑張ってくれている人に対して感謝を伝えるのは、普通のことじゃないんですか?」


 一つ思い出すごとに────


「やっぱり、大切な人のために今まで色々としてきたバイオレットさんは、心だけじゃなくて、手も汚れてなんていません……とっても綺麗な手です」


 胸が────


「この手で、今までこの国や人のために様々なことをしてきてくれたんですね……本当に、ありがとうございます」


 とても強く鼓動を打つ。

 バイオレットは、自分の胸を抑える。


「お嬢様に抱いているものとは、また別の……」


 バイオレットは、先ほどのルクスの優しい表情や真っ直ぐと自分を見てくる目を思い出す。


「ロッドエル様……私は、貴方様のお優しいところだけではなく、幸せそうにしているところや、楽しそうにしているところも、見てみたいと思ってしまいます……貴方様のことを守るためなら、私はどのようなことでも────」


 そこまで言いかけて、バイオレットは一度口を止めた。

 そして、シアナのことを思い出しながら呟く。


「そうですか……私も、お嬢様同様、魅入られてしまったのかもしれません……お嬢様同様、このような私のことを綺麗だと言ってくださった、貴方様に……そして、私にとっての幸せは、お嬢様の幸せ……それだけが唯一の幸せだと考えていた私に、新たな幸せを照らし出してくださった、貴方様に……」


 その直後に、バイオレットは遠い昔シアナに言われたことを思い出す。


「────バイオレット、あなたは優しくて綺麗な子なんだから、絶対に自分が幸せになることを諦めてはダメよ……例えそれが、私の意に反することだったとしても」


 その言葉を思い出していると、バイオレットの目の前に、驚いた表情をしたシアナが立っていた。


「あなた……その格好……」


 そんなシアナのことを見て、バイオレットは黒のフードを外し、シアナと目を合わせてハッキリと言った。


「────お嬢様にお伝えしたいことがあります」



 この物語を読んでいて楽しいと思ってくださっている方や、続きが気になると思っていただけた方は、是非いいねや☆、コメントなどでそのお気持ちを教えてくださると嬉しいです!

 今後もよろしくお願いします!

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