第35話 魅力
◇ルクスside◇
……フローレンスさんの言う通り、他の人たちのことも考えたら僕たちだけでフェリシアーナ様と話し続けるのは申し訳ない気もするけど、フェリシアーナ様が言ってくださっている通りそれを気にしすぎていたら交流することは難しいだろう。
僕は少し考えてから、後ろに居るフローレンスさんの方に振り向いて言った。
「フローレンスさん、やっぱりあと少しだけ────あれ?」
後ろに居るフローレンスさんに話しかけようとした僕だったけど、後ろを振り向くとフローレンスさんの姿は無くなっていた。
「フローレンスさんは、どこに……?」
僕が困惑していると、フェリシアーナ様が話し始めたので僕はフェリシアーナ様の方に視線を戻して耳も傾ける。
「さっき一度だけ人の流動が激しかった時があったんだけれど、フローレンスさんはそれに巻き込まれてしまったようね」
「そうだったんですか……」
フローレンスさんは僕の後ろに居たから、全然気づくことができなかった。
「……僕、フローレンスさんのことを探してきても良いですか?」
「ルクスくんがそうしたいと言うのなら自由だけれど、これだけの生徒の中から一人を探すのは難しいんじゃ無いかしら」
そう言われて、僕はダンス会場を見渡す。
「……」
確かに、これだけの生徒たちと王族関係者の中から、フローレンスさんのことだけを的確に探し出すのは難しい。
僕がどうするべきか悩んでいると、フェリシアーナ様は僕の目を見ながら優しく微笑んで言った。
「私は、ルクスくんとお話できる貴重な機会を失いたくないわ……ルクスくんは、どう思ってくれているのかしら?」
……そうだ。
フローレンスさんとは貴族学校で毎日会うことができるけど、フェリシアーナ様と会う機会はかなり限られている。
フェリシアーナ様と時間を一緒に過ごせる機会はとても珍しいし、何よりフェリシアーナ様が僕と話す機会を失いたく無いとまで言ってくれているのに、僕がその言葉に反することをするわけにはいかない……それに、僕だってフェリシアーナ様と話したい!
「僕も、フェリシアーナ様とお話したいです!」
僕が思ったことをそのまま口にすると、フェリシアーナ様は嬉しそうな表情をして言った。
「ありがとう、ルクスくん……ここは少し人が多いから、二階のテラスに行きましょう」
「は、はい!」
僕とフェリシアーナ様は、フェリシアーナ様の提案によって一緒に二階のテラスへと向かった。
僕たち以外は、料理と音楽が最も楽しめる一階に居るようで、二階には誰も居なかった。
「ルクスくんは今、もう婚約者は居るのかしら?」
夜の街並みを背景に突然そんなことを聞かれた僕は、少し慌てて答える。
「い、居ないです!」
「そう……誰か、婚約したいと思う人は居ないの?」
……フローレンスさんに婚約したいと言われはしたけど、僕が今フローレンスさんと婚約したいかと聞かれたら、やっぱりそんなことは申し訳なくてできるわけがないと考えてしまう。
「……それも、居ないです」
「……今まで出会った女性で、婚約したいと思うほど魅力的な女性は居なかったということ?」
そう言ったフェリシアーナ様の言葉に、僕は首を横に振って言う。
「そ、そういうわけじゃありません!今だって、フェリシアーナ様のことをとても魅力的だと思ってます!」
「っ……!そ、そうかしら?」
「はい!とっても魅力的だと思います!」
僕がそう聞くと、フェリシアーナ様は少し間を空けてから聞いて来た。
「試しに、どこが魅力的なのか少しだけ聞いてみてもいいかしら?」
「わかりました!フェリシアーナ様の魅力は、まずその風格だと思います!第三王女としてこの国のために色々と努力してきたことが一目でわかるぐらい風格があって、その証拠に学力が高かったり剣術ができたり、他にも色々な面で貢献されていますよね!」
「え……えぇ、ありがとう」
フェリシアーナ様は頬を赤く染めて僕から視線を逸らしたけど、僕はさらに続ける。
「あと、フェリシアーナ様はとても品性があって、話していてとても楽しくて、綺麗な方で────」
「も、もういいわ!ルクスくんがたくさん褒めてくれて嬉しいわ」
フェリシアーナ様は少し照れている様子だったけど、一度呼吸を整えるとすぐに様子を切り替えて言った。
「以前にも話したことなのだけれど、ルクスくんは私と婚約したくないわけではないと言っていたわよね」
「はい、僕なんかが婚約したくないなんて上から物を言うようなことはとてもじゃないですけどできません」
「それなら、私と婚約したいとは思わないのかしら」
僕がフェリシアーナ様と、婚約……それは想像もできないことだけど、その話には思う思わない以前にもっと重大な問題がある。
「フェリシアーナ様と婚約したいなんて、思えないです……でもそれは、フェリシアーナ様に魅力が無いからじゃないんです、むしろ……フェリシアーナ様が僕なんかよりも何倍も魅力的ですごい人なので、僕なんかがフェリシアーナ様と婚約したいなんて、思えないんです」
僕がそう言うと、フェリシアーナ様は優しい表情で言った。
「ルクスくんだって、とても魅力的だわ……だから、自分のことを低くするようなことを言ってはダメよ」
「僕に魅力なんて────」
僕がフェリシアーナ様の言葉に意見しようとした時、フェリシアーナ様は僕のことを優しく抱きしめてきて言った。
「ルクスくんは誰よりも頑張っているわ……誰よりも努力して、誰よりも悩んで────そんなルクスくんは、とても素晴らしい領主になるわ……そのことを、私が保証してあげる」
「っ……!フェリシアーナ、様……」
────どうしてだろう。
フェリシアーナ様とはほとんど会ったこともないし、僕の日々の生活なんてフェリシアーナ様が知っているはずがないのに……フェリシアーナ様の言葉には、まるで僕のことをずっと見て来たかのような重みがあった。
僕は思わず涙を流してしまいそうになったのを全力で堪えて、しばらくの間フェリシアーナ様の温もりを感じ続けた。
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