第32話 王族
◇ルクスside◇
今日は、いよいよ王族交流会の日。
王族交流会とはその名の通り、貴族学校の生徒と王族の人が関わることのできる機会だ。
王族の人は忙しいから、基本的には王族の人誰か一人が来ることになっているが、それでは交流できる範囲がとても狭まってしまうため、王族ととても根深い関係の貴族の人なども来てくれることになっている。
いつも通り貴族学校に登校する準備を済ませた僕は、シアナと一緒に馬車の前までやって来た。
「ご主人様、本日は王族交流会……なんですよね?」
「うん」
「……ご主人様は、王族の方の中でどの方に来ていただきたいですか?」
「どの方に……僕なんかがそんなことを思うのは失礼な気もするけど、少し考えてみるね」
僕は、王族の人とはフェリシアーナ様としか出会ったことがないから、他の人たちのことはなんとなく小耳に挟んだような情報でしか知らない。
そして、この国は形式上王様、王妃様、第一王女様、第二王女様、第三王女様の順で偉いとされていて、王子と呼ばれている人は居ないから今日王族交流会に来てくださる人はまず間違いなくその五人の中のどなたかだと思う。
どうして王子と呼ばれている人が居ないのか、その理由は二つある。
一つは、王様と王妃様の間に男性が生まれていないから。
そして、二つ目は今この国は王女様が婚約相手に選んだ男性を王子にするという制度を取っているが、まだ三人の王女様たちが誰も婚約者を定めていないからだ。
だから、王族交流会に来てくれる王族の人は王様、王妃様、第一王女様、第二王女様、第三王女様の誰かとなる……けど。
「王様と王妃様は、来てくれたら嬉しいけどおそらく貴族学校の一つのイベントに足を運ぶことは無いと思うから、その二人は考えないでおくね」
「はい……でしたら、第一王女様か第二王女様か第三王女様、ですね」
「うん」
◇シアナside◇
王族の中で誰に王族交流会に来て欲しいのか、これはシアナにとってとても重要な質問だった。
これで、ルクスの他の王族に対する印象や、シアナ自身に対する印象を聞き出すことができるからだ。
早速ルクスが話し始めたので、シアナはそれに耳を傾ける。
「とりあえず、これはもう最初から決まっていた答えだけど、僕は第三王女フェリシアーナ様に来て欲しいと思うよ」
「っ……!」
その言葉を聞いたシアナは、嬉しそうな表情をした────が、その表情以上に心の中ではさらに嬉しいと思っていた。
もしもシアナの声が漏れていたとしたら────
「王族の中でもルクスくんは私に来て欲しいと思っていることを、ルクスくんの口から直接聞くことができたわ……!ルクスくん、私もルクスくんに会いたいわ……毎日会っているのだけれど!フェリシアーナとしても毎日会えるように、いいえ、毎朝起きた瞬間から会えるようになりたいわ……!」
という声が聞こえてしまい、シアナにとっては大惨事になってしまっていたことだろう。
シアナはすぐに切り替えて言う。
「やはり、ご主人様とフェリシアーナ様は、お関わりがあるからですか?」
シアナがそう言うと、ルクスは頷いて答える。
「うん、もっとフェリシアーナ様と話せたら良いんだけど、フェリシアーナ様は忙しい人だと思うから、こういった機会にもっと話してみたいんだ」
シアナはその言葉を聞いて倒れそうになる程嬉しい気持ちで満たされたが、ルクスの前でそんな無様な格好を見せるわけにはいかないとどうにか倒れずに話を進める。
「そうなのですね……ご主人様は、第一王女様と第二王女様についてはどの程度ご存知なのでしょうか?」
ひとまずシアナ自身に対する印象を聞き出すことに成功したシアナは、二つ目の目的であるルクスが第一王女と第二王女についてどのような認識を知ることに話題を転換させた。
一見関係無いように見えるかも知れないが、ルクスと婚約するとなれば間違いなくその二人も関わってくることになるため、ルクスがその二人に対してどのような認識をしているかと言うのはとても重要なことだった。
「第一王女様は、聞くところによると、とても大人びていて凛とした感じの人らしいね……学力が高くて剣術もできて、経済の流通から他国との政治交渉までしてるすごい人だって聞いたよ」
ルクスがそう言うと、シアナは────歯切れ悪くそれに納得して頷いた。
「そう……らしい、ですね」
ルクスが他の女性を褒めているのを聞いて、感情的にはそれを否定したくなったが、そんなシアナから見ても第一王女はとても優秀な人物だった。
それを認めざるを得ないことにシアナは歯切れを悪くしていたが、次のルクスの言葉に耳を傾ける。
「でも、王族の人たちの中でどの方に来て欲しいかって言われたら、あまり関わりのない人だから、こんなことを思うのも申し訳ないけどフェリシアーナ様が来てくれた方が僕としては嬉しいかな……当然、来てくれたら嬉しいけどね」
その言葉を聞いたシアナは、口元を緩ませて嬉しそうな表情をした。
第一王女は確かにすごいが、それでルクスからの好感度が高まるわけではない────ルクスとの関係性においては自分の方が進んでいる。
第一王女はルクスの存在すら知らないのだから当然と言えば当然かも知れないが、とにかくシアナはそのことが嬉しかった。
「次は、第二王女様だよね……第二王女様は、学力は高いけど剣術は得意じゃないらしいね、でも国内の揉め事とか、主に国内の経済に関することをまとめてる人格者の人で、もし第二王女様が居なかったら今頃国内は内戦だらけになっていたかもしれないって聞いたよ……きっととても優しい人なんだろうね」
「っ……!?」
そのルクスからの第二王女への認識を聞いたシアナは、そのルクスの認識に焦りを覚えた────何故なら、実態はルクスの言ったものとは程遠いからだ。
確かに学力は高く、国内の揉め事や経済交渉などにも手を広げているが、決して人格者ではないし、優しい人間でもない。
国内の揉め事や経済交渉で成果を上げられているのは、第二王女が自分の容姿に絶対の自信を持っているから、その容姿を上手く利用して治めているだけに過ぎない。
そして、以前シアナと王城の廊下で話していたときのことで改めて感じたことだが、性格は良いとは言えない。
「その側面があることは事実かも知れませんが、それは……」
シアナは、ルクスのその認識を正そうとその言葉を否定しようとしたが、それらの言葉をシアナとして発するのはとても不自然になるため、否定の言葉を言うことができなかった。
「シアナ……?」
「……いえ、なんでもありません」
シアナがそう言うと、ルクスは馬車の御者がルクスに手を振っているのを見て少し慌てた声音で言った。
「そろそろ馬車に乗ったほうが良いみたいだから、行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃいませ、ご主人様」
シアナがルクスに頭を下げてそう言うと、ルクスは馬車に乗った。
そして、その馬車が走り始めたとき、シアナは大声で言った。
「ご主人様!」
「シアナ……?」
ルクスは窓越しに自分のことを呼んだシアナのことを見た。
すると、シアナは微笑みながら言った。
「────また、お会いしましょう」
「うん、またね」
それは、フェリシアーナとしてまた後で王族交流会で会おうという意味だった────が、ルクスにその意味が届くことはない。
それはシアナにもわかっていた……わかっていたが────シアナは、無意識的に早くルクスに正体を明かしたいと思っていた。
正体を明かして、フェリシアーナとしてルクスともっと関係性を深めたい。
今の言葉は、その気持ちが小さく現れた結果……今はまだルクスに届かなくてもいい。
「ルクスくん……」
馬車が見えなくなっていくのを見届けながら、シアナはいつかこの言葉の意味がルクスに届くことを静かに祈った。
◇
この作品の連載を始めてから一ヶ月が経過しました!
いつもこの物語を読んで、いいねや☆、コメントをくださっている方へ、本当にいつもありがとうございます!
一ヶ月という節目なので、気が向いた方はこの物語に対して抱いている感情などを教えていただけるととても嬉しいです!
作者は今後もこの物語を楽しく描かせていただこうと思いますので、この物語を読んでくださっているあなたも最後までこの物語をお楽しみいただけると幸いです!
今後もよろしくお願いします!
◇
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