第6話 フェリシアーナ様

◇ルクスside◇

 貴族学校の入学式まであと三日。

 僕の貴族学校に通う前の事前勉強もいよいよ大詰めになってきたけど、最近少し気になっていることがある。

 自室を出た僕は、シアナの部屋の前までやって来ると、その気になっていることの詳細を確かめるためにそのドアをノックした。


「シアナ、今良いかな?」

「ご主人様!?は、はい!何ですか!?」


 部屋から慌てた様子のシアナの声が聞こえたと思ったら、シアナはすぐにそのドアを開けた。


「何かっていうわけじゃないんだけど、シアナが最近悩んでるみたいだったから少し気になったんだ」

「ご心配は嬉しいですが、私は悩んでなどいません!」

「そう?大体二日ぐらい前からずっと何かを考え事してふとした時にメモしてるみたいだったから、何か考え込んでるのかなって思ったんだけど」

「そ、そんなことはありませんよ?」

「……」


 間違いなく、シアナは何かを隠してるみたいだけど、今回は判断に悩む。

 何の判断に悩むのかと言えば、これはシアナの主人として踏み込むべきことなのか、それとも踏み込まない方が良いのかということだ。

 シアナが嫌がっているのに無理やり踏み込むようなことはしたくないけど、もし僕が力になれそうなことならシアナの力になりたい。

 本人が助けを求めてないなら僕では力になれないこと、と判断することは普通ならできるのかもしれないけど、シアナは僕に迷惑をかけることを嫌がってるから仮に僕の力で解決できることだったとしてもかなり強い決断力を使わないと僕に助けを求めてくることはないだろう。

 その判断に少し迷っていると、シアナが別の話題を持ち出して言った。


「そう言えば小耳に挟んだことがあるのですが、どうやらご主人様の貴族学校の入学式に王族の方がいらっしゃるそうです」


 ……別の話題を持ち出してって思ったけど、さっき話をしてた時とシアナの雰囲気が変わっていない。

 ということは、核心に触れてないまでも、話の筋としてはシアナが最近何かを考え込んでいる理由に関係していることなんだろうか……それはそれとして。


「王族の人が?貴族学校とは言っても、わざわざ一つの学校のために来てくれるなんて……すごいことだね」


 そのシアナの話には素直に驚いた。

 王族の人が文章で言葉を送ってくれる、とかは時々あるみたいだけど、直接いらっしゃるっていうのは本当にすごいことだ。


「どんな人が来るのか、ちょっと緊張しちゃうね」

「……いらっしゃるのは、第三王女フェリシアーナ様です」


 王族と言っても、王族の血が少し入っているとか、形式上の王族の人とか色々な人が居るらしいけど、第三王女フェリシアーナ様は、王族直系の血を引いている人……王族の中でも、王様、第一王女様、第二王女様に次いで偉いとされている人だ。


「第三王女のフェリシアーナ様が直接いらっしゃるなんて、僕なんて視界の端に映る程度だと思うけど、改めて緊張してきたよ……フェリシアーナ様って言ったら、学力とか剣術とかも凄くて、他にも国の方針とかを決めたり、一部の領土の采配とかまでしてるすごい人だよね」


 僕がそう言うと、シアナは何故か少し照れている様子だった。


「フェリシアーナ様、どんな人なんだろう……僕には想像もできないような難しいことをいっぱいしてる人だし、やっぱり真面目で落ち着いた感じの人なのかな」


 僕がそう言うと、シアナは首を横に振って慌てた様子で言った。


「い、いえいえ!もっとフランクな方だと思いますよ!笑顔で、明るくて、優しくて、とにかく、そのような堅く関わりづらいような感じでは無いと思います!」

「ま、真面目で落ち着いてるからって関わりづらいなんて言うつもりは無かったけど……でも、そうだと良いね……なんて言っても、フェリシアーナ様と僕が関わることなんて、きっと無いと思うけど」


 僕がそう言うと、シアナは少し顔を俯けてから、どこか暗い表情で言った。


「……ご主人様は、王族に関わられたらご迷惑、ですか?」


 どうしてかシアナの表情は暗いけど、僕は思ったことをそのまま口にした。


「ううん、そんなことは思ってないよ……フェリシアーナ様は第三王女様ですごい人だけど、僕個人的には第三王女様っていうところよりも、学力、剣術、国の方針から領土の采配まで、他にも色々なことができるほどに頑張ってるところがすごいと思うんだ……だから、第三王女様のフェリシアーナ様がすごいっていうよりも、フェリシアーナ様がすごいっていうか……上手く言葉にできてないけど、とにかく王族とかっていうのを僕はそこまで重要視してないから、王族の人と関わることに迷惑だなんて思うはずないよ……あ、でもだからって王族の人のことを軽視してるわけじゃ────」

「わかっていますよ、ご主人様は本当に……ご主人様ですね」


 そう言って、シアナは僕のことを見ながら微笑んだ。

 ……ご主人様は本当に、ご主人様?


「僕は僕だけど……え?どういうこと……?」

「そういうところが、です」


 そう言って、シアナは明るい笑顔を見せてくれた。

 ……よくわからないけど、シアナが楽しそうにしていると、僕も自然と楽しくなった。

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