第4話 私情

「ご主人様、少しよろしいでしょうか」


 自室の本棚の整理をしていると、一枚の紙を持ったシアナがそう僕に話しかけてきた。

 ロッドエル伯爵家関連の書類の手続きとかかな。


「うん、何?」


 僕は手に持っていた本を一度机の上に置くと、椅子に座ってシアナと向き合った。


「ご主人様にこちらの紙をお目通しいただきたく、お時間をいただきました」


 そう言いながら、シアナは僕に一枚の紙を差し出した。

 その紙には色々と書いているみたいだけど、とにかく僕は上から読んでいくことにした。


『ご主人様が貴族学校にご入学なされてから気をつけるべきこと』

「……シアナ、これは?」

「はい、今後のご主人様の将来を見据え、僭越ながら私がご主人様に気をつけていただいた方が良いと思い至ったことをまとめさせて頂きました」

「わざわざそんなことまで……ありがとう、シアナ」


 僕がそう言うと、シアナは嬉しそうに頬を赤く染め小さく頷いていた。

 僕はそんなシアナのことを微笑ましく思いながら、続けてシアナのくれた紙に目を通す。


『その一、野蛮な人間とは関わらないこと』


 野蛮……貴族学校にそんな人が居るかは疑問だけど、きっとこの前僕が話した高圧的な人とかもこれに含まれてるのかな。

 あまり人を区別するのは良くないけど、関わる人と関わらない人はロッドエル伯爵家のためにも考えた方が良いかもしれない……そのことを再認識させてくれるあたりに、シアナの優しさを感じる。


『その二、入学してから一月の間は女性と関わらないこと』

「……え?」


 僕は、二つ目の内容に理解が追いつかず、思わず疑問の声を漏らしていた。


「ご主人様、どうかなさいましたか?」


 ちょうどこれを書いてくれたシアナが隣に居るし、この内容の説明を求めてみよう。


「シアナ、このその二のことなんだけど、一月の間女性と関わらないっていうのはどういうこと?」

「入学してから一月の間にご主人様と関わりを持とうとしてくる女性というのは、ご主人様の伯爵家としての爵位、もしくはご主人様の素敵な容姿や将来性などの表面的なものに惹かれて話しかけてくる女性が多いと考えられるからです」

「それはそうかもしれないけど、最初はそれでも良いんじゃないかな?その後でゆっくりお互いのことを知っていけば、内面だって見えてくると思うよ」

「……でしたら、その二はお忘れください」


 シアナは納得いっていない様子でそう言った。

 僕もできればシアナの考えてくれたことには応えてあげたいけど、これはかなり難しいから仕方ない……でも、せっかくシアナが考えてくれたんだから、この後のはできるだけ応えよう。

 そう思って、僕は次の文に目を通す。


『その三、ご主人様に無礼、高圧的な態度を取った方が居れば、貴族、教師に関わらずシアナに報告すること』

「……シアナ、その三はどうして?」

「……単純に、そのような方は、私も接し方を考えた方が良いと思っただけです」

「なるほど……わかったよ」


 シアナはロッドエル伯爵家、もっと言うなら僕の従者だ。

 僕にそういった態度を取ってくる人は、シアナにもそういった態度を取ってくる可能性が高いから、シアナがそういう人たちを避けたいと思うのは当然のことだろう。


「……ふふ」


 シアナが小さく笑っていたような気がしたが、おそらく気のせいだと判断したため僕は次の文に目を通す。


『その四、露出度の高い服を着た女性とは関わらないこと』

「……その四は難しいんじゃないかな、パーティーとかだとどうしても女性の人は普段よりも露出度の高い服を着ないといけないこともあるだろうし」

「それは、あくまでも普段の話として受け取っていただければ結構です……普段から身を露出させているような方とご主人様とでは、お似合いになりませんから」

「……うん」


 少し理由の意味がわからなかったけど、これも僕のことを心配してのことだろう。

 そして最後の文。


『その五、胸の大きい女性とは関わらないこと』

「シ、シアナ?今までのは一応色々と理由があったけど、その五はちょっと無理があるっていうか……どうして気をつけないといけないのか僕の頭だと理解できないんだけど、これはどうして気をつけないといけないの?」

「ご主人様の教育上、よくないからです」

「教育上……?よくわからないけど、それだと僕はシアナとも関わったらいけないの?」

「……え?」


 シアナは少し驚いた様子だったけど、僕は純粋な疑問を抱いていたためそのまま続ける。


「少なくとも僕から見たらシアナの胸だって、メイド服の上からでもわかるぐらい大きいと思う……でも、そうなったら僕の教育上によくないなら、僕は貴族学校に入学してからはもうシアナとも関わったらいけないってことに────」

「ご主人様!その五はお忘れください!今すぐにお忘れください!!」


 僕がそう聞くと、シアナは何故か嬉しそうにそう言った。


「そ、そう?」

「はい!」


 僕がそんなシアナに少し困惑しつつも、シアナがそれで良いというならその五は忘れることにしよう。

 じゃあ、僕が気をつけるべきことは────


『その一、野蛮な人間とは関わらないこと』

『その三、ご主人様に無礼、高圧的な態度を持った方が居れば、貴族、教師に関わらずシアナに報告すること』

『その四、露出度の高い服を着た女性とは関わらないこと』


 の三つになった。


「ご主人様が、私の胸を大きいと……ふ、ふふ」


 その後、少しの間だけシアナの様子が変だったけど、とにかく僕はシアナが僕のために作ってくれたこの気をつけるべきことというのを、できる限り意識することにした。

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