第3話 今後の展望

 ルクスが貴族学校に居る誰かと婚約してしまうかもしれないという、突如降ってきた大きすぎる問題に、シアナはとても焦燥感を抱いていた。


「……ねぇ、貴族学校って────」


 そのシアナの言葉を先読みするように、黒のフードを被った長身の少女が言う。


「王族のお嬢様は通えませんよ」


 すると、シアナは一瞬だけ図星を突かれたような表情をしてから言った。


「わかってるわよ!全く……どうして王族が通えないのか、理解不能だわ……その辺りのルールを変えるにしても、ルクスくんが貴族学校に通い出すのは六日後、とてもじゃないけどそんなの間に合わない……でも、あと六日で私がルクスくんと婚約することは────強引な手段を使わないと、できない」

「王族の権威を利用した婚約の強制、ですか」

「……そんなこと絶対にしたくない、そんなことしてルクスくんと婚約しても意味がない」


 シアナは、あくまでもルクスと恋愛の果てに婚約したいと考えていて、無理やり婚約してもその先には何も生まれないと考えている。

 

「……だったら、ロッドエル様を諦めては?」

「あなた以外に誰にも気付かれないようにこのロッドエル伯爵家でメイドとして働いてまでルクスくんと婚約するために動いてるのに、諦めるなんてできるわけないでしょう?いいえ、そんな過程が無かったとしても、ルクスくんのことを諦めるなんて考えは絶対に採用しないわ」


 シアナにとって、ルクスだけがこの世界で恋愛対象であり、それ以外の男性と恋愛をするということは絶対にあり得ない。


「でしたら、どうなされるおつもりですか?」


 考えた素振りをとったシアナは、一度焦燥感を忘れて冷静な頭で考える。

 そして、真面目な口調で話し始めた。


「……ルクスくんの通う貴族学校は、私たち王族との交流も深い学校で、定期的に王族と交流する機会があるの」

「それで、どうするおつもりですか?わかっていると思いますが、正体を明かすのは────」

「わかってる、少なくとも婚約するまで正体は明かさない……だから、メイドとしてルクスくんとは身近な人間として関係を進めて行って、学校で会うときは王女としてルクスくんの周りに女がよってないか見張ることにする」

「……見張る、ですか」


 今後の展望を決めたシアナの発言に対して、黒のフードを被った長身の女性は、シアナに対してこれ以上ないほど疑いの目を向けた。


「何?」

「……いえ、一応メイドとしても王女としても表立っての異常なことをしているというわけではありませんので、私はそれで結構です」

「じゃあさっきの疑いの目は何?正直に言いなさい」


 少し沈黙が生まれたが、黒のフードを被った少女は口を開いて言った。


「……では言わせていただきますが、お嬢様が見張りだけで終えることなどできるとは思えません」

「理由は?」

「それに答えるために単純な質問にお答えいただきたいのですが、ロッドエル様がお嬢様以外の女性と仲良く話しているところを見たとしても、お嬢様は何もせずに見張りだけで済ませることができるでしょうか?」

「……えぇ、当然でしょう?この国の第三王女フェリシアーナとしての立ち振る舞いを貫くわ」

「……」


 黒のフードを被った少女は、一度小さく咳払いをすると、普段の落ち着いた低い声音からは想像もできないほどに高く可愛げのある声で言った。


「ルクス様〜!かっこいいです〜!よかったら私と婚約してくださりませんか!?」

「……あなた、何してるの?」


 シアナはあくまでも落ち着いた様子で身を引いていたが、黒のフードを被った少女はもう一度小さく咳払いをして、シアナの反応を気にした様子もなく言った。


「イメージしやすいように、実演してみようかと」

「……はぁ、もういいから、早く姿消して」

「かしこまりました」


 黒のフードを被った少女は、シアナに言われた通りに姿を消した。

 シアナは軽く庭の手入れをしてから屋敷に戻ると『ご主人様が貴族学校にご入学なされてから気を付けるべきこと』というものを紙にまとめ、それを翌日ルクスに伝えることにした────なお、その八割はシアナの私情によるものだった。

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