湖の乙女と魔物の腕

日八日夜八夜

プロローグ

立ち込めた霧から時折、ささやくような歌声が流れてくることがある湖がある。〈乙女の湖〉と呼ばれていた。

湖岸に立って霧に巻かれると、感覚の鈍いものさえ怖気おぞけを覚えた。

 

不意に姿を消し行方のわからなくなるものがあると、湖に呼ばれたのだ、と近隣のものは噂した。湖の乙女たちはいつもたわむれる相手を欲していて、底をさらってみようとも決して死体を返さない。

 

不幸なものには霧を越えて乙女たちの歌声が届くようだった。やってくる旅人たちは暗い影を宿したものばかりで、その足取りは命も魂も重荷としか思えないように疲労しており、あるいはすでに魂を喪失してしまったようにうつろなのだった。

 霧に紛れた彼らは二度と姿を見せなかった。

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