第11話

 4月も中旬に差し掛かった。


 相変わらず病状は落ち着く気配を見せない。


 最近は、玄関の鍵が開く音が良く聞こえるようになった。


 確認しに行くけれど、開いていないのだ。


 鍵とチェーンロックと、扉の近くにスーツケースを置いていないと、安心することができない。


 特に夜は、電気が届かない玄関近くが、怖い。

 

 とても怖い。

 

 誰かが、押し入って来るような気がするのである。


 勿論そんな経験はないし、滅多なことは無いとは理解しているけれど、それでも、怖いと思ってしまうのである。


 だから、風呂から上がったら、極力玄関の方は向かないようにして生きるようにしている。


 怖いからだ。


 また鍵が開く音がした。


 確認しに行くけれど、閉じたままである。

 

 怖いので、そちらの方を向かないようにして、早めに寝た。


 夢は見ない。


 ただ、朝から昼にかけて、起きているか寝ているか分からないような、奇妙な時間がある。


 その時、今まで苦手だった大勢の人々が、私の周囲をぐるりと一周するように存在しており、今まで言われた嫌な言葉で、詰って来るのである。


 いや、分かっている。


 それは――幻覚と幻聴の類である。


 本当に彼ら彼女らがいるとしたら、不法侵入であるし、私のアパートにはオートロックが付いているから、並大抵のことで侵入はできない。


 分かっていても、それでも。


 その時は、実在するように思えてしまうのである。


 私は言う。


 ごめんなさい、ごめんなさい。


 それでも周りは、許してくれない。


 永久に私を否定し侮辱し嘲笑し続ける。


 死ねば、許してくれるのだろうか。



(続)

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