指の行方【KAC20243応募作品】

K.night

第1話 指の行方。

 ガサ、ガサガサ。


 会社の帰り道、草木をかき分けるような音が聞こえた。猫か何かがいるのかとそっとビルの私有地であろう駐車場に足を踏み入れた。


 しゃがみ込む女性の姿。きれいそうなワンピースと、長い美しい髪を地面につけて、茂みの中で何かを探している。


「…何かお探しですか?」


 今は深夜だ。女性一人で探し物をするには少々危険だ。


「あ、すみません。」


 見上げた彼女はかなりの美人で深く切り込まれたワンピースの胸元から豊満な胸の谷間が見えた。俺は思わず喉が鳴った。


「探し物をしてて。大事なものなんです。」


「歩いている時に落としたとか?」


「いいえ。」


そういって女性はビルの上を指刺した。


「上から?」


「そうなんです。眺めていたらうっかり落としてしまって。」


「どんなものですか?」


「箱です。赤くてきれいな箱なんです。」


「眺めるくらい、綺麗な箱なんですね。」


「いえ、中に大事なものを入れていたから。」


「大事なもの?あ、指輪とか?」


「いいえ、もっと大事な、体の一部のような大切なものなんです。」


「それは大変だ。」


 俺はスマホのライトを照らした。女性は少し眩しそうにした。


「こんな暗くちゃ見れませんよ。どうです?ありますか?」


「ありがとうございます。…見当たりません。下に落ちたのに。」


「風に流れたのかもしれませんよ。広めに探しましょう。」


 そう言って、俺も草の中に手を伸ばした。


「ありがとうございます。あ。」


 女性が俺の手を見ていった。俺は右手の小指がないのだ。


「ああ、これ。小さい頃に親に折檻されていて。まあ、指まで切られたおかげで、俺は晴れて親元から離れることができました。」


「ごめんなさい。」


「いえいえ。気になりますよね。」


 そう言って茂みを探してみるが箱らしきものはない。


「…そういえば、知ってますか?最近、このあたりでバラバラ殺人事件が起こっていることを。」


「あんなに報道があってるんです。知ってますよ。」


「なら明日の朝にした方がよくないですか?危険ですよ。」


「そうなんですが…本当に大事なものなんです。」


「知ってます?あのバラバラ殺人、指もきれいに切り取られて、指だけは親に赤い箱に入れて送られるんですよ。」


「…なんでそのことを?」


「なんで、ってことは、貴方もご存じだ。放送もされていない極秘情報をなぜ?」


「それは、貴方も同じでしょう。」


「僕は刑事ですから。」


 そう言って、俺は警察手帳を見せた。


「ちょっと、お話聞かせてくれませんか。その赤い箱の中身を、詳しく。」


「そうねぇ、指が入っているからかしら。」


「やはり。」


 そういうと、彼女はふらりと立ち上がった。俺は身構える。


「あの日と一緒。」


「え?」


女性は俺に両手を見せてきた。その指はどれもなかった。


「ひぃ。」


「殺した女くらい覚えておきなさいよ。」


俺は駆け出した。正確には駆け出そうとした。心臓が掴まれたように痛くてうずくまったのだ。


「ねえ、私ね。もう、指なんかなくても殺せるの。」


「うわああああ!!!」


00000000000000000000


「よほど恐ろしいものを見たんでしょうね。」


男は恐ろしい形相をしたまま死んでいた。もう一人の刑事は言った。


「偽装警察手帳。まあよくできてるなこれ。」


「死因はショック死、まあ解剖を待たないと結論はでませんが。」


「ショック死なぁ。」


「何か?」


「見ろ。」


その男の首にはくっきりと両手で絞められた跡が残っていた。



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指の行方【KAC20243応募作品】 K.night @hayashi-satoru

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