第3話 やっぱりこれはアレだった。

王子風お兄様は、ティーナと私が向かい合って座る丸テーブルの、ちょうど中間地点に腰かけた。

「改めて自己紹介させてくれ。アレックス・ディミクレオだ。ディミクレオ伯爵の嫡子にあたる。よろしく。」

「はくしゃく様!?わわわたし、そうとは知らずにとんだご無礼を!」

はくしゃく…伯爵といえばお貴族様だ。自分なんかが見えることなどできないお上の存在だ。ただお宅が大きいお金持ちというわけでは無かったのだ。

「ユミさま、大丈夫ですわ。ユミさまは我が家の大切なお客様ですもの。堂々としてらして。」

「その通りだ。ユミ殿はユミ殿のままでよい」

「そ、そうですか…?そうなんですか…」

「話を戻そう。ユミ殿は、ここがどこか、と疑問を抱いているだろう。」

「え、えぇ、その通りです!気が付いたら部屋でもないし荷物もないしで…!」

「おそらく、ユミ殿はこの世界に召喚されてしまったのだろうと思われる。」

「召喚…ですか!?やっぱり!?」

やはり私の推測は間違っていなかった。ドキドキという、胸の高鳴りを感じる。

暇を見つけてはマンガ・アニメ・になろう小説と、異世界召喚モノを貪り読んでいた私だ。実はこの状況、不安より期待を抱いているのだ。

「ユミ殿は勘づいていたようだな。…この世界では、数十年に一度そのような事態が起こるのだ。」

「結構高頻度なんですね」

「まあ、他国の状況についてはあまり詳しくないが、我が国でユミ殿のような、異邦人と呼ばれる方がいたのは300年ほど前になる。」

「300年…」

さすがに3000年も前となると、この国の前回の召喚者とコンタクトをとることはできないだろう。

ところで私はとても気になる事がある。とてもとても大事なことだ。

「あの…私がもといた地球というところには魔法なんて無かったんですけれど、もしかして私にも使えるようになりますか!?」

「あぁ、召喚者も魔法が使えるだろうことは分かっている。おそらくユミ殿も魔法を使えるようになっているだろう。」

「やった!」

異世界召喚系物語をこよなく愛する自分が、まさか当事者になるとは…事実は小説より奇なりを地で行く女になってしまった。我知らずガッツポーズが出てしまう。

一体どんな魔法が使えるだろうか?オーソドックスなところだと自然属性の魔法だったり、特殊なところで行くと便利系魔法だったりいろいろあるが、やはり固有魔法なんてものも捨てがたい。

「ユミさまが嬉しそうで何よりですわ」

「普通、魔法については学び、訓練することで使えるようになるが、召喚者には特殊な魔法が一つ備わっている、というのが通説だ。」

固有魔法ですね分かります。俄然自分ができることについて知りたくなってきた。

「きっとその特殊な魔法について知りたいだろうが、今は今後の話をさせてくれ」

「あ、はい」

今後の話といえば、私自身の身の振り方だろうか。といっても、地球ではこれといって特筆すべき特技もなくのうのうと生きてきた身の上だ。できれば荒事はご遠慮したいところである。

「まず、ユミ殿の身柄の保証は我が領で行う。」

「えっ!そもそも本当に召喚者なのかもあやふやな私の保証をですか!?」

「その件についてだが…、ユミ殿は、馬もつないでいないのに動く鉄の箱をご存じか?」

話の途中だというのに、突然挟まれた質問に狼狽えた。それはもちろん私の知識の中には存在するが、魔法ファンタジーなこの世界にとってはあまりに異物ではなかろうか。

「?…自動車の事ですか?」

いぶかしみながらもそう答えると、王子お兄様はニヤリと笑って私に告げた。

「そう。この世界には存在しない物の名を言える。それが、君が異邦人であるという動かぬ証拠だ。」

驚いた。この世界に存在しないはずの物体を知っている、それが証拠になりえるというが、なんと合理的なのか。しかも、話の中で唐突に振るからこそ、考える時間を与えないまま判定ができる。

もしかしてそういうマニュアルがあるのかもしれない。

「これで心置きなく保証ができるな」

「うっ!まぶしい!」

王子兄さまの会心の笑み攻撃!癒観に150のダメージ!癒観は瀕死だ!

「この屋敷は自由に使ってくれて構わないし、誰かと一緒であれば外出も許可しよう。それと今夜は私たちの両親、領主と会って頂く。いいかな?」

「はいっ」

これは疑問形で来られてはいるが、決して断れない圧を感じるのでほぼ強制だ。

それも、食客として降ってわいた人間を主に合わせるというのだから当然だろう。

「ユミさま、これからよろしくお願いしますわ」

「はいっよろしくお願いします!」

正面からティーナが朗らかに笑いかけてきて、勢いで返事してしまった。かわいい。

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