第4話 魔王様は考える

魔王様は考える


私のいた世界アリーナには無い食べ物だった為。空腹も相まってカレーを出されてからすぐに口に運んで虜になった。


アリーナにいた時は、魔王なのに余り良いものは食べれなかった。


魔王といっても私の一族は魔法族といってアリーナでは長い歴史を持つ人間の一族だ。


人間の一族なのだが普通の人間よりも魔法総量が高く金色に近い髪を持つのが特徴で。昔からなぜか魔王の配下に属していたらしい。他の人族からは魔法族も魔王側に属する分類にされている。(同じ人族なのだが)


それなのに魔王側近である魔法族の私が魔王をやっている理由は。近年のアリーナでは魔族の頭の良さは他の人間やエルフ等の多種族よりも少し劣る傾向にあった。


魔族同士の争いや住む地域の管理等もおざなりになりがちであったし。先代魔王も高齢であり。先ほどの問題の事で頭を悩ませている状態であった。


そんな状況の中、異世界から勇者が召喚されパーティーを組んで魔王討伐の声明が発せられたとの一報が魔王城に届いた。先代魔王やその側近も慌てふためくばかりで魔王城は暗雲が広がっていた。


その時である。先代魔王が、突如、急死してしまい混乱は頂点に達し側近達も呆然していた。


だが、先代魔王も馬鹿ではなく後継者として魔法族で一番魔法総量も多く。可愛く。若く。美しい。私が新魔王に即位するようにとの遺言書が見つかり。あれよあれよと新魔王には私がなることになったのだった。


側近である魔族からの反発があると危惧したがなぜかそれもない。後でお母様に聞いたら古より私達、魔法族は人間であったが魔族や歴代の魔王領の発展の為に尽力していたため尊敬されているらしく反乱等考えるものはまずいないという事だった。


その後、私は魔王に就任し勇者パーティーの討伐の為。魔王城にあった珍しい魔道具や金品等を欲しがる先代魔王の側近達に与えてやっていた。


だが、異世界から召喚された勇者率いる勇者パーティーは破竹の勢いで魔族側の幹部を撃ち破り。ついには魔王城際奥の間に鎮座する私の前まで現れた。そして激闘の末。こちらの世界に勇者と共に飛ばされて今に至るのだった。



とりあえず、状況は変わった。宿敵である勇者と暮らすのは癪だけど背に腹は変えられない。


あの勇者を上手く誘導し私が以前いた世界アリーナに帰れる道を早く見つけよう。


半日近く勇者と共に過ごしてわかった事がある。

勇者セツナはとても面倒見が良いのだ。


口では罵(ののし)ってきて。哀れむ目を向けてくるが。何だかんだ色々話してくれるし優しい。顔も良い。ずっと見ていられる。


おぉ~と!頭、ぶっ飛んでたぞ私、あれは、宿敵なのだ!


少し優しいくされたからといって心を開くにはまだ、早いのだ。


心を落ち着かせるために私はセツナにこの家を案内してもらう事に決め。座っていたソファーから体を起こし食事の片づけをしていたセツナに話しかけた。



「セツナよ!私は暇である」


「はっ?」


「私は今、凄く暇である」


「食器洗い手伝え!やり方は教えるから」


「嫌なのだ!魔王だからやらぬ」


「今はもう。居候にジョブチェンジしただろう。 それにこれからはこっちの世界で暮らしていくんだからこっちの常識もちょっとずつ学んでいかないと困ることになるぞ」


「そ、それじゃ、それを私は言いたかったのだ」


「どういうこと?」


「私は、この家のいや。この世界の事を知りたいのじゃ」


「じゃあ、まずは食器洗い覚えろ。そして働け。」


「それはメイドがやる仕事じゃろう」


「全国のメイドさんに謝ってこい。お前を冥土に送ってやるぞ」


「どういう意味じゃ?」


「はぁ、もういい疲れた。わかった。もうすぐに洗い終わるから。少しそこで待っててくれ」


「わかったのじゃ」


この元勇者。だんだん口が悪くなってきていないか?

最初の紳士的な態度はどこに消えたのじゃ?

はっはーん。さては私との戦闘でだいぶ疲弊したらしいな。しょうがない後で肩でも揉んでやるかのう。



「おーい!作業終わったよ!なにニヤニヤいるんだ?」


「うぉ。別にニヤニヤしとらんわ」


「あっそう」


「そんな事より、まずはこの家の中を案内してくれぬか?あちらの世界では見たことが無いものばかりで実は色々触りたいのじゃ」


「いや、色々触るなよ!家族の物も色々あるだから。特に妹の物を勝手に触ったなんて後でバレたら何を要求されるからんしな!」


「なんじゃ!お主、妹がおるのか?」


「義理のな?」


「義理の?」


「うちにも色々あったんだよ!まぁ、巻き込んでこっちに連れてきちゃったし。時間がある時にでも詳しく話すよ。そんな事より。今はこの世界事を色々教える方が大事だろう?」


話をはぐらかしたぞ。この元勇者。しかし義理の妹とか超気になるワードが出てきたのにはビックリドッキリしたぞ。


「そうか。ならばよろしく頼む」


「というか、エスフィールの服とかは、今、着ている痛々しいコスプレ鎧衣裳しか無いんだったな?」


「痛々しい?コスプレ?コスプレとはなんじゃ?」


「‥‥‥気にしないでくれ!」


「何か分からぬが。ものすごく馬鹿にされたのは感じたぞ」


「とりあえず。この世界を勉強するって意味でも。一度、エスフィールの服や、君が使うものをを買いに行かないと」


「私は金なんぞないのだ」


「貧乏魔王だもんな」


「お主、本当は性格。相当悪いじゃろう?」


「元勇者の俺が性格悪いわけ無いだろ。アリーナの世界では教皇から洗礼を受けた身だぞ」


「‥‥‥‥どれぐらい渡したのじゃ?」


「そうだな。俺を召喚した国。ガリア帝国の年間の国家予算の1割程を寄付した」


「ガリア帝国の国家予算の1割だと?お主どんだけ貯めこんどのだ。」


「不正は一切してないぞ。ギルドの特殊クエストの報酬や勇者の仕事の合間にパーティーメンバーに隠れて金や小麦の権利で莫大な利益を得たクリーンな金だからな。」


「勇者がなぜパーティーメンバーに隠れて商人の真似をしておるのじゃ?」


「こっちの世界のゲームでは魔王討伐後の勇者の末路はだいたいバットエンドなんだ。だから魔王討伐後のリスク回避に莫大な金が必要だったのさ」


「リスク回避?」


「エスフィールは知らないだろうが魔王討伐後。俺、意外の勇者パーティーメンバー達は恩賞や国での名誉や出世の椅子を用意されているんだ。異世界から召喚された俺は魔王無き平和な世の中ではリスクでしかないんだよ」


「なぜじゃ?」


「力がありすぎるからだよ!アリーナに飛ばされてから研さんを積めたお陰で。アリーナでも龍族や魔法族にも引けをとらない魔法総量を得ることができた。そんな奴が魔王討伐後いたら邪魔だと思う奴等なんて沢山出てくると教えてもらったんだ」


自慢話にも聞こえてイラっとしたが。最後の一言が気になってつい聞いてしまった。


「誰が教えてくれたのじゃ?」


「ガリア帝国の姫様だよ」

ふん!!

バチ~ン!!!!反射的に私はセツナの頬をビンタした。その勢いでセツナは体勢を崩して倒れた。案外、私は力が強いようだった。また、女の子の話が出たことに事に少し腹がたった。


数秒してセツナが起き上がった。


「何をするゴリラ魔王」


「ふん!自分の心に聴いてみよ」


「?‥‥‥‥良く分からんが不愉快にさせたのならごめん。悪かった」


本当は殴った私が一報的に悪いのに直ぐに謝ってきてくれる。なぜアリーナの世界でセツナが慈愛の勇者や素直な担い手等とあだ名がつけられていたのか分かった気がした。噂で聞いていたがセツナの優しさに気づいた者達が広めた事なんだとか。


「いや、セツナは悪く無いのじゃ。感情的になって手を挙げた私が悪かったのじ!ゃ。すまぬ」


「では、これでこの話は終わりということでそろそろ出掛けよう」


「ちょっと待て。叩いてしまったのは申し訳なかったがガリア帝国の姫の事を詳しく話すのじゃ」


上手く話をはぐらかそうとしたセツナからその後。1時間程、姫との関係を聞き出した。


いわく、セツナは召喚魔法でアリーナに呼ばれた後。ガリア帝国の城で修行する事になり。そこでガリア帝国の姫様ことアリス姫と会い徐々にだが。仲良くなっていったという。


ガリア帝国の事や王族と貴族の力関係魔王討伐後の勇者の処遇等が話し合われていること等を教えてもらったらしく。その後は、先ほど話してくれた勇者パーティーの特殊クエストの莫大な報酬金や金と小麦等の売買による多額な利益を教会等に寄付し。紛争地帯への救済。孤児院等への支援に使っていたらしい。


ちなみに勇者パーティーメンバーには何も話さなかったとの事。


なぜかというと、将来安泰のアイツらに話したら。絶対にガリア帝国の貴族にまで話が漏れるだろうとの事。


だが、寄付や支援をしていてもなお。莫大な金銀財宝等が、セツナが持っている魔法の袋の中にザクザクあるらしい。


「話も終ったし、そろそろ本当に出掛けよう」


「うむ!」


とっ頷き返すとセツナの目線が私の今の服装を見ていた。


「鎧にマントとか。これじゃあ、外には行けないな。ちょっと待っててくれ」


「?」

そう言うとセツナは自室の方へと向かって行った。

数分後、手に少し大きめの箱を持ってきて私に手渡した。


「妹にプレゼントしようとして昔、買っていたのをさっき思い出したんだ!これなら外にも出歩けるから着てみてくれ!」


なぜか目がとても輝いていた。


「う、うむ。分かったのじゃ」


……メイド服だった!アリーナでも魔王城にいた給人役のメイドが着ていたのを覚えている。しかも今、手渡したされたメイド服は下のスカートが結構短い。


もう一度頬にビンタしてやろうかと思ったが良く見るとこのメイド服には、フリルのような物が装飾されていてとても可愛いらしく着てみたいと思ってしまった。


「ゴズロリフッションっていうんだ!可愛い義妹に着てもらうために買っておいたんだ!」


目がとても真剣そのものだった濁りが一点も無いのだ。

その圧に押されていたせいなのか、このメイド服に興味を引かれてしまっていたのか分からなかったが、押しきられる形で着てみることを決めた。


「ちょっと待っていてくれ、着替えてくる!」


「絶対に似合うと思うよ!」

この男、張り倒したい。


私は、セツナから空いてる部屋があったら好きに使って良いと言われていたのでセツナの隣の空き部屋を私の部屋にする事に決めた。

数分後、メイド服に着替え。セツナのいるリビングに向かうのだった。

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