ショートショートのファンタジー
ジープは相棒
俺のジープがヘコんでいる。
死んだ叔父から譲り受けた純正のチェロキーだ。燃費が悪く、反応が遅く、おまけに空調もきかないこの車は、頑丈さだけが取り柄だったはずなのに。
「おいおい、一体どうしたんだよ」
「相棒、やられたぜ。若葉の女子大生だ。親父の車を借りたらしい」
「ちくしょう、すぐに直してやる」
「いいんだ。実はもう、ずいぶん前からバッテリーがイカれちまってるんだ。プライドで走ってたんだ」
「バカ野郎! なんで言わなかったんだよ!」
「相棒、オレはお前の唯一のスペックなんだぜ。なんてな、へへ。でも、今さら弱音なんか吐けねえよ。このままクールに逝かせてくれや」
「お前……」
年季の入った赤いボディを見た。たくさんの景色がよみがえる。
深夜、スーパーのパーキングでこっそり駐車の練習をしたこと。はじめてできた彼女を乗せて動物園に行ったこと。そのうち振られて泣きながら湾岸線をぶっ飛ばしたこと。
「相棒、オレたちはいつも一緒だったよな。いつかお前のガキを乗せたかったよ。最後にアドバイス、カッコつけてEDMなんかかけなくても、お前はじゅうぶんイカしてるよ。そのうちお前の良さを分かってくれる女が現れるから、そのときはちゃんと空調のきく車に乗せてやるんだぜ」
――十年後。
「奥さん、退院したんだね。高速道路で事故なんて、ニュースで大騒ぎだったよ」
「逆走の車とぶつかる瞬間、横から赤い車が私達をかばうように飛び出してきたんです。それで衝撃がいくらか弱まって……。でも、後から聞いたら赤い車なんてどこにもいなかったんです。夫は驚くばかりだし、誰も信じてくれないけど……私、確かに見たんです」
<おわり>
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