心のない魔女の幸福論

未兎生

第1話 筆を折った魔女

私は魔女でだった。

過去形なのはもう筆を折ったから。

私はたくさんの人々に笑顔を届けるのが夢だった。

現に、私の魔法はたくさんの人々を感動させることができた。


でも、誰かが感動すれば私の「子供達」が死んでいく。

それが私には耐えられなかった。

ハッピーエンドのための犠牲は欠かせなかったから。

「私は犠牲になった子供達のためにも魔女で居続けなければ…。」そう思った。


やがて、デジタルの波にのまれ私のような魔女はいなくなった。



「やがて、魔女のいた事を覚えているのは私だけになってしまった。」

そう、私は目の前の少女に語りかける。

「私は、結局移り変わる世界についていけず筆を折った。」

少女は何も言わない。

「…私はお前には知っていてほしいのだよ」

少女は宝石のような青い瞳で彼女のことを見つめていた。

「【物語を作る魔法使い】が存在したということを。」

少女は、彼女のしわくちゃな手にそっと手を添えた。

その手は人間とは思えないほど冷たかった。

でも、彼女にとってはそれで十分だった。

「…たとえ、お前が『アンドロイド』だとしてもだ。」

少女は無表情だった。

心などなく、ただただ彼女を見つめているだけだった。

彼女はそっと目を閉じ、

「いつか、お前の書いた物語を見てみたかったなぁ。…私を忘れないでおくれよ?」





『リア』





…そういい、彼女は息を引き取った。

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心のない魔女の幸福論 未兎生 @mitoha_june

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