第14話 伯爵の正体

「ギャレット伯爵…なぜこんな残酷なことをしたの!?メアリ姉様や…ブリジット…ミッシェルまで…彼女達が何をしたというのですか!」


「ブリジットについては、明白だよ。ダンスパーティーを抜け出し、金目のものを探していたようだったからね。宝物庫からアクセサリーを盗もうとしていたんだ。それも、亡きジュリエッタとの思い出のペンダントを盗もうとした!彼女との美しい思い出を汚されそうになったんだ。当然の措置だよ」


 罪を犯した人がとる態度とは思えない。ギャレット伯爵の堂々とした態度を見て、日ごろ感じていた加虐的な雰囲気は、彼の隠された本性だったのだと気づかされた。


 棺ばかりに気を取られていたが、棺の近くに輝く金銀財宝が見えた。亡くなった方と共に、この城の財宝は隠されていたのだ。ブリジットはこの光景に戸惑いはしたものの、盗もうとしたら、伯爵に刺殺されたのだ。


「では、ミッシェルは?彼女は何も悪いことはしていないわ!いつも優しくて、勇気がある素晴らしい女性だったじゃない!」


「ミッシェルは非常に惜しかった。顔の火傷が思ったよりも広範囲だった。まあ、一人で逃げ出す分には構わなかったのだが、大切なアンを逃がそうとしていたからな。後で、アンを連れ去られてはたまらない。安心しなさい、彼女の部屋の飲み水に盛った毒は、彼女を長く苦しめるものではなかったはずだよ」


 何ということだ、と私はショックを受けた。夕食の後、部屋から出てはいけないというルールは、城の秘密を探らせないためだけではなく、伯爵の思いのまま、部屋の飲み水に毒薬や薬物をしこみやすくするためだったのだ。


 この城に招かれた花嫁候補は、すべて伯爵の餌食になる運命となる。その事実に絶望を隠せないでいると、伯爵は私を羽交い絞めにして、こう問いかけた。


「ちょっ…何をするのですか!?」


「アン。君には、パーティの際にワインに睡眠薬を仕込んだはずだが、なぜか効いていないね。君は効きづらい性質なのかな?」


 そう言いながら、伯爵は私のドレスをナイフで破いていき、徐々に素肌が露わになる。


 まさか、と身の危険を察し、刃物を持っていても、何とか逃げようとする。


「やめておきたまえ。傷はつけられたくないだろう?」


 首にひやりとした感触がし、ナイフを当てられていることが分かった。羞恥心より、恐怖が勝り、私は声が出なくなった。


「まず、君の体を私のものにする。君は、一番素晴らしい妻だったジュリエッタの器にふさわしい。彼女は蘇ると私は信じている。そのためには、君に記憶を失くしてもらってから、ジュリエッタとの思い出や、どんな性格だったのか、どんな嗜好だったのかを覚えさせる。顔は腕の良い医者がいるから、安心したまえ。性格が近い、君なら今度こそ成功する。今までの失敗は、この成功につながるんだ」


 今までの花嫁候補たちは、成功しても、ギャレット伯爵の身勝手な要求のせいで、傷つき、殺されていた。このままでは私も同じ運命になる。


 太ももに手でまさぐられる嫌な感触に、ぎゅっと目をつむると、ごん、と後ろから鈍い音がした。


「さあ、逃げるんだ!」




「ジュリオ!?どうやってここに来れたの!?」


 ジュリオは近くにあった、使われていない蝋燭立てで伯爵を殴ったようだった。伯爵は、頭の痛みで膝をついた。仮面を付けていても、私を優しく見守る眼は変わらない。ジュリオを見た瞬間、安堵で涙が出てきた。


 ふと棺を見ると、ミッシェルの棺が、ドレスしか納められていない。


「まさか、ジュリオがミッシェルだったというの?」


「そうさ。詳しい説明は後だ。ダンスパーティーの後、よく薬を仕込むことは知っていたからね。もしかして、と思って、テラスにいたハトに飲ませたら死んでいた。それで自分で一時的に仮死状態になる薬を飲んでいたんだ。まさか、君がこんな危ない目にあうとは思っていなかったよ。とにかく、ここを出よう!」


 ジュリオと手をつなぎ、急いで隠し部屋から逃げ出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る