第12話 『地下の世界』その2

 『それは、持って帰っていい。ただし、ぜったいに、人に見られないこと。落とさないこと。無くさないこと。』


 と、巫女さまが言います。


 『ぼくは無理です。というのも、あす転校しないという確かな理由はありませんから。』


 『あなたに言ってません。具李子さんですよ。』


 『し、しつれい、しましたあ。』


 『まあ、まあ。いっしょに解読なさいませ。そこに書いてあることは、つまり、あの(ロンドン橋が落っこちる)みたいなことで、単なる戯れかも知れず、深い意味があるかもしれない。くらいなのです。1ページにひとつの謎が書いてあり、次のページに解説がありますが、どちらも似たようなものです。偽書かもしれませんが、伝承を信じるならば、平安時代に書かかれたものですが、やや、無理があるように思われますです。はい。ただし、それは江戸時代に書き写されたものですから、少なくとも江戸時代にまで遡るのはたしかです。しかし、問題は、誰が、いつ、書いたにせよ、宇宙船について書かれていることは確からしいです。笑っちゃうくらい荒唐無稽ですが、しかし、伝説よりはかなり具体的で、ましです。宇宙船の長さが三里というのが伝説ですが、ここには、もう少し実際らしき長さが書いてあります。つまり、それによれば、宇宙船の長さは、約3キロというあたりです。地球の太陽系外縁部探査宇宙船よりは、かなり大きいです。推進法方については、よく判らないのですが、くうをひねりてとぶ。とあります。』


 『ワープですか? ワープはあり得ないとか。』


 『まあ、それは、地球人の見解ですが、たぶん正しいでしょう。でも、問題はむしろ、なんで、そう判ったか?です。誰から聴いたのでしょうか?』


 『宇宙人は、いませんよねぇ。』


 『たぶんね。取説があったのか?』


 『読めなさそうな。』


 『はい。はい。まあ、そんな具合で、万事オカルトです。だいたい、宇宙船を見たという確かな証拠はありません。江戸時代でも、『うつろぶね』という記事が出回りましたが、創作だった可能性が高いです。が、もしかしたら、神隠しの謎を解く鍵が、そこに、なにかがあるかもしれませんから。』


 『ご神域を探すのは、やはり、ダメですか?』


 『ダメです。だいたい、危険すぎます。このあたりは、太古火山があった地域ですが、地盤が複雑で、あちこち穴や崖が不規則にあります。ただ歩くのも危険です。だから、禁足地になってると見るべきです。』


 『入るべき場所ではないですよね。』


 『まあまあ。良い手掛かりがつかめたら、また、話が変わるかも。』


 巫女さまが、具李子さんを慰めたのです。


 しかし、これもまた、すっきりしない話だとは、思いました。


 

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